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突き進む中国!「中国娘」2009年グオ・シャオルー監督

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2009年グオ・シャオルー監督の「中国娘 She A Chinese」を観た。
「鵞鳥湖の夜」「薄氷の殺人」「象は静かに座っている」等々、中国地方都市のリアリズムが描かれた映画ばかり観ている。
詳しい経緯は判らないのだが、この「中国娘」は、グオ・シャオルー監督が、ヨーロッパの資本で撮った映画だそうで、「イギリス・フランス・ドイツ合作」である。

ボクの感想としては、非常に好きな雰囲気!!
主人公メイ(ルー・ホアンさん)の生き方こそ、まさしく「中国」そのものだろう!と思ったし、「赤裸々な中国リアリズム」を堪能したような気がした。

掘っ立て小屋のような、粗末なビリヤード店、足が汚れる泥道、ゴミ捨て場で働く父親、ニョキニョキ乱立する再開発工事のクレーン、眼鏡の写真オタクの役人とお見合いさせられて、挙句の果てに、馴染みのトラック運転手にレイプ・・・そんな強烈に醜悪な故郷から、大都会重慶に家出して、「愛」を知ったけれども、その愛する恋人が死んでしまい、舞台はなんとメイの憧れの国、イギリスへ・・・。
中国娘メイの成長!?が、約100分の尺にまとめられていて、本当に、驚くぐらい、いや、笑っちゃうくらい、展開が早いのだが、その展開の速さも、目覚ましい経済的発展を遂げている中国そのもののようである。

メイはいつもお腹を空かしている。
そして、醜悪な故郷に心も満たされてはいない。
しかし、そこで、食べるためには、何でもする!
そして、「憧憬」を永遠の憧憬として終わらせず、何が何でも手に入れる!!
ツアー旅行を抜け出して、イギリスの中国人社会で、ヌードモデル(メイは終始仏頂面で、全く性的描写のない、ヌードの無駄遣いwww)までやりながら生き抜く!
それこそ、この「中国娘」のリアリズムの強さなのだろうなぁ。

中国では、腹を満たすために、いつも何か食べていたメイ。

文化の軋轢を、難しく語ることなく、「食べ物」に集約させているところは、非常に解りやすくて好きだ。

実際に食べてみると、憧れていたイギリス料理もインド料理も、メイの好みには合わないし、せっかく作った豚料理も、インド系の恋人には、宗教上の理由で食べてもらえない・・・。

手に入れてしまった憧れは、退屈なものになってしまう。

正に、イギリスに憧れていたはずのメイが見た、最もイギリス的な姿を象徴するのが、銀行口座欲しさに結婚した、ハント老人であった。

過去の栄光にすがりながら、経済発展で手に入れた「もの」を持て余し、そこにある退屈な日常に、自分が「幸せ」なのかどうか、何を夢見ているのかを忘れてしまった。。。そして、キツネに愛犬を襲われても成す術もない、無力な老醜を晒している。

中国と比較して、決定的に国としての発展が、鈍化した、いや、鈍化どころか、後退しているために、西洋人は、それに、日本人の我々も、思考が、中国の飛躍的な変化についていけなくなっているのではないだろうか?

そうなのだ。
中国リアリズムと言っても、この映画が制作されたのは、2009年、もう既に10年以上前なのだ。
主人公メイが目まぐるしく成長していくように、2009年の中国のリアリズムは既に過去のものなのである。

今でも、ボクたち日本人や、イギリスを代表とする西洋の人々は、1960年代、70年代の文化大革命当時の中華人民共和国の印象を強烈に植え付けられていて、その後、せいぜい、1989年の天安門事件あたりまでの、混沌とした、発展途上の中国の印象が拭えない人があまりにも多いのではないだろうか?
その後、ご存じの通り、中国は急速に発展し、GDP世界第2位の経済大国となって現代に至る。

さらに、コロナ禍の後、2020年の中国では、既に地方農村部から都市への出稼ぎも飽和状態となり、「帰雁経済」という、地方農村部の経済を底上げする段階に入っているという。

その現実の「中国」に対し、日本人や西洋人の「中国像」の固定観念が変わらないのは、きっと、「中国はこうあってほしい」と願ってしまう我々の悪いところではないか。
もちろん、経済的に発展はしたものの、現在の中国の方向性について、全面的に賛美するものではない。
しかし、過去の、古い中国のままの固定観念を払拭しないと、恐ろしい勢いで発展を遂げる中国の実態を掴み、対等に渡り合うことは、難しいのではないかと恐れおののいてしまう。

そんな中国の強さをまざまざと見せられた映画で、やせっぽっちだけれども、よく食べ、中国的に生き抜くメイの強さに、最後には不思議な魅力を感じてしまう。

メイが唯一愛を感じる、やくざ者スパイキー(ポー・ウェイイーさん)も魅力的なのだが、あっけなく死んでしまう。
結局、中国って、男性の理想論よりも、「母性」による現実論が強い国なのかもしれないなぁ・・・とも感じました!!

あと、序盤でメイをレイプするトラック運転手の、「JAC」と書かれたトラック、いすゞエルフそっくりなので、OEMかと思ったら、調べてみると「江淮汽車」という中国製トラックなのですね!!
お決まりの、中国高速バスや、重慶への鉄道など、のりもの好きにも楽しめます!

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