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救いの無いダンプ映画・・・「さらば愛しき大地」柳町光男監督1982年

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根津甚八さん演じるダンプの運転手を主人公に据えた、映画「さらば愛しき大地」
ボクは以前にDVDを購入したのだが、最近、柳町光男監督の作品が相次いでオンデマンドで視聴可能になった!!


きっかけは「ダンプ映画」

ボクは、鉄道、バスも好きだが、トラック、商用車や建設機械も好きである。

トラックを主人公にした映画は、何といっても菅原文太兄貴、愛川欽也さん主演の「トラック野郎」シリーズが有名である。
しかし、「トラック野郎」シリーズを除くと、その他に映画で、トラック・ダンプの運転手のドラマを克明に描いた「名作映画」は非常に少ない。
ただし、ここでは、2000年以降のVシネマで量産されたシリーズ、「女トラッカー」「ダンプガール」等については、除外させていただくが。。。

2019年に芸文社より刊行された「昭和ダンプブルース」という、「トラック野郎」デコトラブームまでの昭和のトラック情勢について、ふんだんな写真と共に詳細にレポートしてくれた名著がある。

その本に「トラック野郎」以外の、トラック(主にダンプだが)を主人公とした映画として、紹介されていた。

「新網走番外地 嵐呼ぶダンプ仁義」1972年
 監督:降旗康男 主演:高倉健

「ダンプ渡り鳥」1981年
 監督:関本郁夫 主演:黒沢年男 梅宮辰夫
※※未DVD化!?予告編未発見

そしてこの、1982年「さらば愛しき大地」である。

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ということで、ボクは、「ダンプ映画」というきっかけで、この映画を観てみようと思ったのだ!!

鹿島臨海工業地帯との対比

オープニングは、冷たく光る工場の夜景で印象的に始まる。

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おお!期待させるじゃないの!!

ボクが思い出したのは、ボクが大好きな、イタリアの名監督ミケランジェロ・アントニオーニの映画「赤い砂漠」である。
無機質な工業地帯のオープニングと、その中から弱々しく歩いてくる、子供を連れた女性との見事なコントラストで映画が始まる。

「さらば愛しき大地」も、何の変哲もない日本の地方都市に進出してきた無機質な工業地帯・・・
場所は、戦後1960年代、高度経済成長期真っ只中に開発された鹿島臨海工業地帯。
恐らく、柳町監督が茨城県出身であることも関係しているだろう。
茨城県が、威信をかけて「農業県」からの脱却を掲げて、掘割港を中心に開発を進めた鹿島臨海工業地域。
開発のスローガンは、「農工両全」「貧困からの解放」であったという。
近隣には、後のシーンで、家族が不味そうにカニを食べる鹿島灘、子供が溺れてしまう霞ヶ浦など、自然も残っている。
そして、首都圏からもある程度距離があり、周辺には、開発から取り残された、何の変哲もない昔ながらの日本の田園地帯が隣接しているのだ。

日本の「脱農業」=「家を中心とした、共同作業としての農業従事者からの脱却」

日本の高度経済成長期以降の「脱農業」「家族・血縁・血筋からの脱却」について、都市部の第3次産業化をモデルに、「都市」と「農村」の対比として描いた作品は多々あれど、建設業、ダンプ稼業、第2次産業への脱却をモデルに描いた作品は少ないのではなかろうか。

この物語は、第2次産業に対し、その「対比」というより、隣接し、密接に関係しながら、人々が生活しているところがミソである。
それがドロドロした関係を生む元凶でもある。

その道路を疾走するたくさんのダンプ。
まさに近代化と工業化の象徴、田園地帯をぶった切る、一直線に伸びる広い道路を大型ダンプが疾走する姿を、柳町監督は見事に絵にしている。

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アントニオーニの「赤い砂漠」は、近代化されたイタリアの工業地帯の中で狼狽える女性を描いたものであった。

「さらば愛しき大地」では、徹底的に海や田畑を埋め立て、近代化、工業化を推し進める、象徴的なダンプ稼業を営む、強き男の姿。
これまでの農業を中心としてきたこの地方に背を向けて、近代の波に乗り、邁進する男の姿・・・

・・・かと思ったら!!。

最初こそ、近代化、工業化が進む寂れた地方都市を、景気よくダンプを転がしている、山沢幸雄(根津甚八さん)。
過積載もものともせず、人一倍稼いでくる幸雄。
採石場の廃バスの事務所でゲームに興じる幸雄の姿。

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マニアとしては、廃バスの事務所も見どころ!?
この写真は、窓の形から、日産4R系の中扉ツーマン仕様かな!
ボクが子供のころ、採石場の片隅に廃バス事務所があるのをよく見かけたなぁ。。。

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幸雄が転がすダンプは、日産ディーゼルレゾナ。

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V8エンジンのこのタイプは、強力な馬力に定評があり、実際にダンプ運転手から、人気車種だったそうですが・・・。
何となく、ボクとしては、日産自動車が車両提供していた「西部警察」で、何度も登場(同じダンプを使いまわしていた)したダンプが、日産ディーゼルレゾナだったので、そのイメージが強く、ちょっと他のタイプの車両を観てみたかった気もする。。。

しかし、、、そんな勇壮なダンプが爆走するシーンを楽しめるのは、物語の前半のみ・・・

徹底したリアリズムで描く!!

その後に続く物語は、徹底的にリアリズムを追及している!!
どうしようもなく暗くて、救いの無い物語である・・・

幸雄はずっと「家族」「家父長制度」から逃れようと藻掻いている。

実家の農業を手伝う、しがない妻文江(山口美也子さん)の姿に、酒を飲んでは暴力を振るう毎日。。。
そして、何とも不幸な事故で、最愛の二人の息子まで、あっけなく亡くしてしまう・・・。

やり場のない悲しみと怒りを、妻にぶつける幸雄の姿は、子を持つ親としてはいたたまれないものがある。
胃にもたれる映画ですわ。。。

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二人の息子の名前を背中に彫り、再びダンプのハンドルを握る幸雄。

幸雄は、その近代化された道路で、一人の女性を拾う。

順子(秋吉久美子さん)だ!

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後半は、この順子、秋吉久美子さんの存在感に圧倒される!!
後半は、それだけで観れる映画かもしれない!?

しかし、順子は、幸雄を救う女神とはならない。

幸雄は、逃れたかったハズの、土着の古いしがらみに逆にしっかりと足を掴まれて、その沼の深い底へと堕ちてゆくのである・・・

歪んだ家族、家父長制をリアルに描く!!

幸雄は拗ねている!拗ね続ける!!
家父長制の長男であるが故の、弟への嫉妬。

柳町監督は、農家の伝統的な家父長制が歪んだところを的確に描いている。

幸雄の家庭は、父親もどことなく頼りなく、そして、長男である幸雄よりも、小さいころから「優秀」と言われ、幸雄から見れば「父親に媚びを売る」弟、明彦(矢吹二朗さん)に将来の期待を抱いている。

正直なところ、ボクは一人っ子なのだが、何となく、自分の父親と、ボクにとっては叔父にあたる、その兄との関係性などを思い出したなぁ・・・

東京から、この土地に戻ってきて、幸雄と共にダンプ稼業を手伝うことになった明彦。最初は、ダンプに砂を山積みにする技を教えるなど、ほほえましい兄弟愛を描くことも忘れない。

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しかし、弟が戻ってきたことで、幸雄の歪んだ心はますます荒んでいく。

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幸雄の見事なちゃぶ台返し!!!
この正面からローアングルでとらえたちゃぶ台返し!
何とも小津安二郎監督の描く「家族」へのオマージュか!!笑

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幸雄たちに荷物を斡旋する見返りに、賄賂を要求する親会社の部長に対する幸雄の怒りが爆発するシーン。
ダンプの幌の紐を外しながら会話が進み、一発目、スイカをぶん回すところから、後ろのショベルローダーの運転手が止めに入るまで、一連の流れがリアル!!!
柳町監督が、ダンプ稼業についてリアルに研究し、観察した結果なのか、何とも描写の詳細がスゴすぎる!!

そして、シャブはダメ!!絶対!!

しかし、この映画は、今までに観た映画の中で、ダントツで「覚せい剤(シャブ)をやったら、ダメだなぁ!!」と強く思わせられた。

ホント、シャブは、ダメ!!絶対!!

蟹江敬三さんと、根津甚八さんが、二人でシャブを打つシーンは、最悪の名シーン!!

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蟹江さんは、シャブをやるけど、以外と真面目にダンプ稼業もこなす人柄。。。
蟹江さんのダンプはいすゞニューパワー。
微妙にメーカーと車種を変えてくるところが、リアルwww!!

ダンプで稼いだお金で、かなり大きな御殿を新築していたり、嫁さんの足が不自由だったり、ここでも柳町監督のリアリズムパワーが炸裂!!

あー、確かにボクが子供のころ、身近にこういうおじさん、いたわ!!!

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嗚呼、覚せい剤をやっている姿、ホント、カッコ悪いぞ!!
またその舞台が、映画でよくある薄暗い場所じゃなくて、明るい日の当たる新築の和室で、リアル過ぎてホント嫌になる。。。

見どころは他にも・・・

もちろん、シャブを打っても、問題は何も解決しない。。。

土着のしがらみは、幸雄が思っていた以上に、執拗に絡みついてくるのだ。

山口美也子さんの想像を絶する体当たり演技!!
お相手は小林稔侍さん!!

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いやぁ、山口美也子さんも非常に魅力的な方なのだが、柳町監督は見事に、秋吉久美子さんとのリアルな対比的ツーショットを挿入してくる。。。

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二人とも、幸雄の下着を届けに来たのだが、持っているのが、風呂敷と汚い紙袋!!(またこのヨレヨレ具合がリアル!!)
細かいところも抜かりない!!

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地方出身者には懐かしい、というか、首都圏近郊にも、今でもよくある!!
こういう場末のスナック!!
こういうスナックが舞台の物語!!ボクも書いてみたいね!!
日本人の多くが見て見ぬフリをしてきた景色かもしれない・・・

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そのスナックで、秋吉久美子さんが熱唱する中島みゆきさんの「ひとり上手」!!

そうそう、挿入歌がたまらなくイイ!!

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やしきたかじんさんの「大阪で生まれた女」がさりげなくかかっていたり。

書き出すと止まらなくなるのだが、この辺で・・・

とにかく、ボクにとって、初見は最悪に後味の悪い、暗い映画・・・それは間違いないのだけれども、噛めば噛むほど味が出てくる映画・・・

柳町監督のリアリズムにやられてしまう映画です!!


ムーニーカネトシは、写真を撮っています!
日々考えたことを元にして、「ムーニー劇場」という作品を制作しておりますので、ご興味ございましたらこちらをご覧ください!


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