凸関数
高等学校の数学の定義とは違うかもしれないが, 多くの微分積分学の書籍で採用されている凸関数の定義を紹介し, 定義から導かれる凸関数の性質を述べる.
区間 $${I}$$ で定義された関数 $${y=f(x)}$$ が区間 $${I}$$ の任意の 3点 $${a, b, c}$$ に対して
$$
a<b<c\quad \Longrightarrow \quad
\frac{f(b)-f(a)}{b-a}<\frac{f(c)-f(b)}{c-b}
$$
を満たすとき $${f(x)}$$ は区間 $${I}$$ で下に凸であるという.
$$
a<b<c\quad \Longrightarrow \quad
\frac{f(b)-f(a)}{b-a}>\frac{f(c)-f(b)}{c-b}
$$
を満たすとき $${f(x)}$$ は区間 $${I}$$ で上に凸であるという.
補題1 実数 $${A, B}$$ と正の数 $${C,D}$$ について 3つの不等式
$$
\frac{A}{C}<\frac{B}{D},\quad \frac{A}{C}<\frac{A+B}{C+D},\quad
\frac{A+B}{C+D}<\frac{B}{D}
$$
のうちいずれか 1つを満たすならば $${\displaystyle \frac{A}{C}<\frac{A+B}{C+D}<\frac{B}{D}}$$ が成り立つ.
証明
$$
\begin{array}{lcl}
\displaystyle \frac{A+B}{C+D}-\frac{A}{C}
&=&\displaystyle \frac{C(A+B)-A(C+D)}{C(C+D)} = \frac{BC-AD}{C(C+D)}\\[3mm]
&=&\displaystyle\frac{D}{C+D}\left(\frac{B}{D}-\frac{A}{C}\right)\\[3mm]
\displaystyle \frac{A}{C}-\frac{A+B}{C+D}
&=&\displaystyle\frac{C}{C+D}\left(\frac{B}{D}-\frac{A}{C}\right)\\[3mm]
\end{array}
$$
$${C,D}$$ は正の数だから $${\displaystyle\frac{A}C}$$ と $${\displaystyle \frac{B}D}$$ の大小関係と $${\displaystyle\frac{A}C}$$ と $${\displaystyle\frac{A+B}{C+D}}$$ の大小関係は一致する. 同様に $${\displaystyle\frac{A}C}$$ と $${\displaystyle \frac{B}D}$$ の大小関係と $${\displaystyle\frac{A+B}{C+D}}$$ と $${\displaystyle\frac{A}C}$$
の大小関係も一致する. $${\Box}$$
次の定理は凸関数の図形的な意味を示すものである.
定理2 閉区間 $${I}$$ で定義された関数 $${f(x)}$$ について $${f(x)}$$ の定める曲線 $${C: y=f(x)}$$ を考える. $${y=f(x)}$$ が下に凸であるための必要十分条件は曲線 $${C}$$ 上の任意の 2点 $${\mathrm A(a,f(a))}$$, $${\mathrm B(b,f(b))}$$ において $${C}$$ の $${\mathrm{A,B}}$$ に挟まれた部分が直線 $${\mathrm{AB}}$$ より下にあることである. 同様に, $${y=f(x)}$$ が上に凸であるための必要十分条件は曲線 $${C}$$ 上の任意の 2点 $${\mathrm A(a,f(a))}$$, $${\mathrm B(b,f(b))}$$ において $${C}$$ の $${\mathrm{A,B}}$$ に挟まれた部分が直線 $${\mathrm{AB}}$$ より上にあることである.
証明 $${a<b}$$ としても一般性を失わない. $${a<x<b}$$ とする. $${b-a=(x-a)+(b-x)}$$ だから補題1 より
$$
\begin{array}{cl}
& \displaystyle \frac{f(x)-f(a)}{x-a} < \frac{f(b)-f(x)}{b-x}\\[2mm]
\Longleftrightarrow &
\displaystyle \frac{f(x)-f(a)}{x-a} < \frac{f(b)-f(a)}{b-a}\\[2mm]
\Longleftrightarrow &
\displaystyle f(x)-f(a) < \frac{f(b)-f(a)}{b-a}\cdot(x-a)
\end{array}
$$
直線 $${\mathrm{AB}}$$ は $${\displaystyle y=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\cdot(x-a)+f(a)}$$ だから $${x}$$ が不等式 $${\displaystyle\frac{f(x)-f(a)}{x-a}<\frac{f(b)-f(x)}{b-x}}$$ を満たすことと $${C}$$ 上の点 $${(x,f(x))}$$ が直線 $${\mathrm{AB}}$$ の下にあることは同値である. $${\Box}$$
定理3 開区間 $${I}$$ で定義された関数 $${f(x)}$$ が $${I}$$ で微分可能のとき, $${f(x)}$$ が $${I}$$ で下に凸であるための必要十分条件は導関数 $${f'(x)}$$ が増加関数であることである. また, $${f(x)}$$ が $${I}$$ で上に凸であるための必要十分条件は導関数 $${f'(x)}$$ が減少関数であることである.
証明 $${f(x)}$$ が下に凸のとき, $${a<b}$$ を満たす $${I}$$ の内の
2点に対して $${\displaystyle m = \frac{a+b}2}$$ とおく. $${f(x)}$$ は凸関数だから $${a<m<b}$$ について
$$
\frac{f(m)-f(a)}{m-a}<\frac{f(b)-f(a)}{b-a}<\frac{f(b)-f(m)}{b-m}
$$
が成り立つ. このとき $${0 < h < m-a}$$ を満たす $${h}$$ において $${a < a+h < m}$$ だから
$$
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}<\frac{f(m)-f(a+h)}{m-a-h}
$$
補題1より
$$
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}<\frac{f(m)-f(a)}{m-a}
$$
$${f(x)}$$ が微分可能であることに注意すれば
$$
f'(a)=\lim_{h\rightarrow0}\frac{f(a+h)-f(a)}h
=\lim_{h\rightarrow0+0}\frac{f(a+h)-f(a)}h
\leqq \frac{f(m)-f(a)}{m-a}
$$
を得る. 同様に $${m-b < k < 0}$$ を満たす $${k}$$ において
$$
\frac{f(b+k)-f(b)}{k}=\frac{f(b)-f(b+k)}{-k}>\frac{f(b)-f(m)}{b-m}
$$
が成り立ち
$$
f'(b)=\lim_{k\rightarrow0}\frac{f(b+k)-f(b)}k
=\lim_{k\rightarrow0-0}\frac{f(b+k)-f(b)}k
\geqq \frac{f(b)-f(m)}{b-m}
$$
を得る. したがって
$$
f'(a)\leqq \frac{f(m)-f(a)}{m-a} <\frac{f(b)-f(m)}{b-m}\leqq f'(b)
$$
となり, $${f'(x)}$$ は増加関数である.
$${f'(x)}$$ が増加関数のとき $${a<b<c}$$ を満たす $${I}$$ 内の3点 $${a,b,c}$$ に対して, 区間 $${[a,b]}$$ において $${f(x)}$$ に平均値の定理を適用すると $${a < \xi < b}$$ を満たす $${\xi}$$ が存在して $${\displaystyle f'(\xi)=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}}$$ を満足する. 同様に, $${b<\eta<c}$$ を満たす $${\eta}$$ が存在して $${\displaystyle f'(\eta)=\frac{f(c)-f(b)}{c-b}}$$ を満足する. $${f'(x)}$$ は増加関数で $${\xi<b<\eta}$$ だから $${f'(\xi)<f'(\eta)}$$ であり
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(\xi)<f'(\eta)=\frac{f(c)-f(b)}{c-b}
$$
が成り立ち $${f(x)}$$ は下に凸である. $${\Box}$$
系4 開区間 $${I}$$ で定義された2回微分可能な関数 $${f(x)}$$ が任意の $${x\in I}$$ で $${f''(x)>0}$$ を満たすとき下に凸である. 同様に $${f''(x)<0}$$ を満たすとき上に凸である.
定理5 開区間 $${I}$$ で定義された微分可能な関数 $${f(x)}$$ について $${f(x)}$$ の定める曲線 $${C:y=f(x)}$$ を考える. $${y=f(x)}$$ が下に凸であるための必要十分条件は曲線 $${C}$$ 上の任意の点 $${A(a,f(a))}$$ における $${C}$$ の接線 $${\ell}$$ が曲線 $${C}$$ の下にあることである. 同様に, $${y=f(x)}$$ が上に凸であるための必要十分条件は曲線 $${\ell}$$ が $${C}$$ の上にあることである.
証明 $${\ell}$$ の方程式は $${y=f'(a)(x-a)+f(a)}$$ である. $${y=f(x)}$$ が下に凸と仮定する. $${x > a}$$ のとき平均値の定理より $${a<\xi<x}$$ を満たす $${\xi}$$ が存在して $${\displaystyle \frac{f(x)-f(a)}{x-a}=f'(\xi)}$$
を満足する. $${y=f(x)}$$ は下に凸だから定理3より $${f'(x)}$$ は増加関数だから $${\displaystyle f'(a)<f'(\xi)=\frac{f(x)-f(a)}{x-a}}$$ である. よって
$$
\begin{array}{lcl}
f'(a)(x-a)+f(a) &<& \displaystyle \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\cdot(x-a)+f(a)\\
&=&f(x)-f(a)+f(a)=f(x)
\end{array}
$$
を得る.
$${x < a}$$ のとき $${x < \xi < a}$$ を満たす $${\xi}$$ が存在して $${\displaystyle \frac{f(x)-f(a)}{x-a}=f'(\xi)}$$ を満足する.
$${x-a<0}$$ かつ $${f'(a)>f'(\xi)}$$ だから
$$
\begin{array}{lcl}
f'(a)(x-a)+f(a) &<& \displaystyle \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\cdot(x-a)+f(a)\\
&=&f(x)-f(a)+f(a)=f(x)
\end{array}
$$
を得る. よって $${\ell}$$ は $${C}$$ の下にある.
逆に $${\ell}$$ が $${C}$$ の下にあると仮定する. $${a < b < c}$$ のとき $${C}$$ と $${(b,f(b))}$$ で接する接線 $${\ell}$$ の方程式は $${y=f'(b)(x-b)+f(b)}$$ である. $${C}$$ 上の点 $${(a,f(a))}$$ は $${\ell}$$ の上にあるので $${a-b<0}$$ に注意して
$$
\begin{array}{lcl}
f(a) &> & f'(b)(a-b)+f(b)\\
f(a)-f(b)&>& f'(b)(a-b)\\
\displaystyle\frac{f(a)-f(b)}{(a-b)} &< & f'(b)\\[3mm]
\displaystyle \frac{f(b)-f(a)}{(b-a)} &< & f'(b)
\end{array}
$$
を得る. 同様に $${\displaystyle f'(b)<\frac{f(c)-f(b)}{c-b}}$$ を得る. したがって $${y=f(x)}$$ は下に凸である. $${\Box}$$
独り言
高等学校の学習では凸関数の幾何学的性質についてあまり語られていない. ここで紹介したようなことを知っていると見通しが良くなる場合も多い. 2023年度名古屋大学理系3番や2023年度東京工業大学1番などがその例である.
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