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ものすごい熱量が詰まった映画『アイアム・ア・コメディアン』

1本の映画で、こんなに感情が忙しかったのいつぶりだろう。笑いと悲しみと切なさと喜びと悔しさと共感と、『アイアム・ア・コメディアン』はいろいろな感情を揺さぶられ、見終わった後は圧倒されてボーっとしてしまい、この自分の中に生まれたこの感情を忘れないようにしたいと思わされた映画だった。

『アイアム・ア・コメディアン』は、お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワーの村本さんに密着したドキュメンタリー映画。私にとって村本さんは「早口で政治的なことも言っちゃうちょっと過激な芸人」というイメージだった。でも自分は彼の発言の一部だけを見て簡単に彼のイメージを決めつけていたのだと思った。その発言にたどり着いたその奥にある彼の考えや経験を知ろうともせずに。

日本社会は「言論の自由」があると同時に「空気を読む」ことも求められれる。自分が社会に求められているポジションや態度を瞬時に読みとりそのようにふるまえることが「常識人」とされる。実はそれを窮屈だと感じている人も多いのだけど、だから秩序が保たれていると信じている人も多い。

村本さんはそんな日本を飛び出て単身ニューヨークへ行き、スタンドアップコメディアンとして日々、コメディクラブを渡り歩いている。英語を勉強して、ネタ帳を片手に日々ネタを披露する。うけたり、うけなかったりお客さんの反応も様々だ。

映画を見て気づいたのは、彼の態度には作為的なところがないということだ。自分の母親にも「人をいやな気持ちにさせるのが大得意」とか言われてて、その部分が流れたときは映画館も笑いに包まれたけど、人からこう見られたいとか評価されたいとかそういうのを彼から全く感じないのがまた人々を引きつける理由なんだと思う。

そして何より、彼の発言は決して暴走をしているわけではなく、その言葉に目線がしっかりあっている人たちが大勢いるというのもまた事実。それは震災の被害者の人たちや社会的マイノリティとされている人たち、そして日々の生活に違和感を感じている人たち。彼はそういった人たちが絶対に社会の隅っこに追いやられないよう、お笑いを通じて人々の心に種をまき続ける。

一見、ネガティブに聞こえる彼の発する言葉には実は希望の光があるし、お笑いを通じてポジティブなものに変換しようというエネルギーに満ち溢れている。ネガティブなものから目をそらすのではなく、ちゃんと向き合って目を合わせようとする彼の戦う覚悟を見て、私の心にも何か種がまかれた気がしたのだった。

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