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デートに誘ったら音信不通に。恋愛とスタートアップ協業の奇妙な関係!?

「最近、取引先のリエさんと仕事を通じて仲良くなったんだ。」

大手メーカーで働く30才のケンが同僚と話している。

「仕事の話もかなり深くするし、たまにプライベートなことも話すようになって、なんか気になる存在になってきた。」

同僚:
「それ、いい感じ!それで、どうするつもり?」

ケン:
「実は今度、2人でご飯に行こうってことになったんだ。彼女もOKしてくれたし、だから特別な店を探してみたんだ。」

同僚:
「おお、デートってわけね?どんな店?」

ケン:
「景色がすごくいい、都内からちょっと遠いけど横浜のオシャレなレストランを選んだんだ。海も見えて恋人同士に人気らしいんだ。」

同僚:
「いいじゃん!それで、もう伝えた?」

ケン:
「うん、さっきLINEで店のリンクを送ったんだけど…。」

同僚:
「で、返事は?」

ケン:
「まだ来てない…。いつもならすぐ返事が来るんだけど。」

数日後、会社の休憩室
同僚:
「リエさんから連絡来た?」

ケン:
「いや、まだ。なんか悪いこと言っちゃったのかな。全然わからないんだ。」

同僚:
「それは辛いな…。どうするつもり?」

ケン:
「どうしようもないよな。もう一度連絡しようかとも思ったけど、無理に追いかけても意味ないだろうし…。」

同僚:
「そうか…とりあえず、様子を見てみるしかないな。」
結局、1週間経ってもリエさんからの返信はありませんでした。

物語はフィクションです。

みなさん一度や二度、似たような経験をしたり、聞いたことありませんか?

え?デートを断られたことがない?

それは羨ましい限りですが、そんな恋愛マスターのあなたも、仕事に置き換えると似たようなシーンを生み出してしまうかもしれません。

特に新規事業開発において、スタートアップ企業とオープンイノベーション※を進める際の日常においては日々どこかで起きていると言ってもいいくらいなのです。

皆さん、こんにちは。
MOONSHOT WORKS株式会社の代表取締役CEO藤塚洋介です。

今日は、スタートアップ企業とのオープンイノベーションのシーンでの"あるある"な状況について書きたいと思います。

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期待に満ちた出会い、そして突然の音信不通

国内シェア3位の大手食品会社で新規事業を担当する酒田さんは、イベントで AI を活用した品質管理システム「α-Ride」を開発するスタートアップの女性CEO、中条さんと出会いました。

中条さんの活躍は以前からSNSで知っていて、嬉しくて熱心に情報交換しました。
すると、「α-Ride」は酒田さんの事業に必須とも言えるテクノロジーだったのです。

そして
「2社が組めば面白い協業が進めれそうですね」
と意気投合したのです。

と後日、 中条さんを本社に招きました。
酒田さんは、パートナー登録の申し込み書類に必要事項を記載してもらいました。

それから2週間後、社内手続きが終わり、本格的に打ち合わせを始めるためにNDA(秘密保持契約)と契約条件を添付したメールを送ったところ...

突然、中条さんからの連絡が途絶えてしまったのです。

「あれ?何かまずいことでもしたかな...」

SNSを使いこなす中条さんは、普段からメールは即レスでした。

酒田さんはモヤモヤしながらどうしていいか分からずに途方に暮れていました。
それでも変わりなく、中条さんのSNSは毎日更新され活躍が伝わってきていたのです…

上記は事例をベースにしたフィクションです。登場人物は実際の人物とは関係ありません。

この経験、先ほどのデートお誘いのシーンに似ていませんか?

大企業とスタートアップの協業プロジェクトは7割以上が中断や失敗に終わっているそうです。

しかし今回のような「コミュニケーションの断絶」はなぜ起るのでしょうか?

では、これから一緒に「本当の理由」を探していきましょう。

スタートアップと大企業、根本的な違い

スタートアップと大企業の違い

この問題の本質を理解する鍵は、「スピード・即断」=つまり「時間」がスタートアップにとって最も貴重な資源だと理解することです。

私が以前関わったある テック系スタートアップの CEO は、こう語っていました。

「私たちにとって1週間。いや、1日の遅れは死活問題です。」
「その間に競合がプレスリリースを出して1番乗りができなくなるかもしれないし、投資してもらった資金が底をつくかもしれない。」
「だからすべての判断を迅速に行い、行動に移さなければならないんです。」

一方、大企業の新規事業部署の部長はこう話していました。
「我々には事業化に関する決まったプロセスがあり、それでリスクを排除できるのです。新しいパートナーとの協業も、それに則って進めていく必要があります。」

「それがお客様に品質と安全性を約束し信用を生むのです。」

大企業の考えは社内の承認プロセスの複雑さを生み、結果2~3ヶ月もの時間を要することにつながっています。

その間、スタートアップ側は別の投資家からの資金調達を優先せざるを得なくなるかもしれません。

そう、この両者の「時間」に対する感覚の違いが、しばしば協業の障壁となるのです。

「時間泥棒」とさえ揶揄される大企業ならではの失敗を見ていきましょう。

スタートアップが感じる「時間泥棒」な行為

時間に関するギャップが大きい

では、具体的にスタートアップが「時間泥棒」と感じる行為にはどのようなものがあるでしょうか?

ある大手建設会社では、下請に対する悪しき習慣のように、悪気もなくスタートアップの若い担当者に高圧的に接するのが当たり前でした。

時間泥棒1 【中身のない呼び出し】


「ちょっと来て欲しい」と打ち合わせはいつも大企業に呼び出し。
約束の時間に数十分間待たせた挙句、ホームページに記載されているような簡単な内容について30分程度のヒアリング。
さらに「今の話、資料にまとめて送ってください」と要求する。
スタートアップにとって、この内容なら最初からメールで充分だと思ってしまうでしょう。

時間泥棒2 【無料コンサル要求と過度な資料づくり】


大手企業がいかに凄いかを自慢し、あげく大きな受注をちらつかせて何度も提案させる。
その実は単なる社内説明の補足資料や、そもそも自分が作るべき資料だったりするのです。

資料を作るスタートアップの提案はそれだけでコンサルティング費用が発生してもおかしくないレベルのものも多いのです。
この行為は、少人数でマルチタスクを担っているスタートアップにとって無駄と感じる時間です。

時間泥棒3 【大きいんだから事務処理遅くて当たり前でしょ?】


社内の事務処理の時間に関しても大きな齟齬が発生します。
例)取引するにはパートナー登録に厳選な審査があり時間がかかる。
審査基準は「決算内容など経営の審査基準」を「一般的な中小企業」と同じにしているので、初期のスタートアップはほぼ通らない。

なぜなら、何年もマネタイズせずにナレッジを蓄積し、将来のJカーブ※のために準備をしているので、黒字になっていないケースが普通だからです。

それを理解せずに、社内で担当者と審査部門で書類をつき返し合い、スタートアップ側に補足資料の提出など求めているうちに、あっという間に月日が過ぎていくのです。

捺印に時間がかかるのもよくあることです。
「上層部3人の押印がないと承認されない」
「部長が今週休暇だから。来週、隙を見てお願いしてみるね」
といろんな部署で1週間くらい簡単に伸びて、
合わせると1ヶ月以上かかったケースを何度も見ています。

それでも、あなたは
「社内でうるさがれてもいい、この協業を成功させるんだ。」
と社内を駆け回って捺印をお願いし、期間を短縮させるかもしれません。

しかし、「僕が縮めたんです!」
と胸を張ったところで、残念ながらあなたが数日くらい短縮させても、
スタートアップの担当者にとっては「圧倒的に遅い」ことに違いがないのです。

時間泥棒4 【小さい夢につきあわせる】


ここまでは企業側の組織が大きいことによって生まれたギャップでした。
しかし一つだけ逆転しがちなことがあります。

それが、「目指すビジョンの大きさ」です

「いやいや、私は売り上げ5000億円の大企業に属してるんです。上司からは数十億円のビジネスを目指せと言われてるんですよ!?あのスタートアップはまだ一千万円さえ売り上げていない。」

「だから私とガッツリ一緒に組めば、あのスタートアップも嬉しいはずだから専売契約をしてあげるんだ」

と一方的に思っている。
これこそ「大企業病」で大きな勘違いしている場合があるのです。

スタートアップは新市場を創造し、圧倒的に独占を目指していることがほとんどです。

専売契約などで
「アナタの企業=1社の顧客しかリーチできない」

とすると大手企業だったとしても、「市場の一部」となります。
「専売契約」は束縛を意味し、ビジョン達成にはリスクなのです。

そう、「ビジョンだけはアナタの方が小さい」可能性が高いのです。

時間泥棒5 【突然のプロジェクト中止で1年が無駄に】


1年近く進めてきたのに大企業の事情でいきなりCLOSEされるケースです。

スタートアップ側は専任チームを組んで開発に注力していたのに、突如として大企業側の役員が変わり
「今期の戦略会議で優先順位が下がった」
と判断される。

スタートアップ側は多大な人件費と機会損失を被るわけですから、その後はあなたの会社名を見ただけで、協業どころか逃げ出していくでしょう。

これらの行為は、スタートアップにとっては貴重な時間を奪われる体験となります。
彼らは、たとえ悪意がなくても、敏感に反応し協業の継続に疑問を感じてしまうのです。

時間泥棒にならないために。

時間を尊重するためにできること


では、どうすれば良いのでしょうか?
ここで重要なのは、スタートアップの「時間を尊重する」姿勢です。

0.相手を知る

スタートアップ企業が、いつまでに、どうなりたいと思っているのか、ローンチスケジュールややマネタイズのタイミング、パートナーシップの基本的考え方、上場までの戦略、経営者のビジョンなどしっかりしたものがあるはずです。

これを知るのが基本です。
そして、次には実行するのが簡単なことから記載していきますね。

1.オンラインコミュニケーションの活用

頻繁な呼び出しや、過度な資料の提出を控えるには仕事の進め方の文化を変えていくことが重要です。

「とりあえずMTGに来て欲しい、話はその時に。」
メールやチャットでの説明を面倒くさがってこのような対応をしたことがないでしょうか?

さらに、オンラインMTGで話すにしても、議題、何を決める会議か、打ち合わせの背景など極力事前にチャットやメールで伝えることで、MTGの内容が濃くなります。

場合によっては資料提出どころか、MTGをしなくて良いケースも出てくるでしょう。

チャットで用件を伝えるのが苦手という人によく会います。

そんな方は「ややこしいから口頭で」をできるだけ減らす「ロジカルライティング」を必須スキルとして学ぶと良いでしょう。

2.意思決定プロセスの明確化と短縮

事務処理に時間がかかるケースでは意思決定プロセスを事前説明した上で可能な限り迅速化します。

新規事業部署を役員直下の組織に配置し、ルートを短縮しておくことが、ここで威力を発揮します。

それができなければ、「オープンイノベーション特別決裁ルート」を設置することも有効です。スタートアップとの協業案件に関しては、通常1週間かかっていた決裁プロセスを2日間に短縮する、などが指標になります。

この取り組みにより、自社より有望だった競合企業を尻目に協業を迅速に進められるようになるかもしれません。

実践例「イノベーション・ファストトラック制度」※の導入
一定条件を満たす協業案件は、通常の承認プロセスを省略して迅速に進行できる仕組みです。
(某国民的テーマパークのファストパス、プライオリティパスが近い考え方かもしれません。)

3.契約手続きの効率化

法務部と協力して「スタートアップ協業用 NDA」を作成します。
この NDA は基本的な機密保持事項のみを含む、など大幅に簡素化されたものがいいでしょう。

さらに、電子署名システムを導入することで、物理的には当日中に締結完了できるようになるのです。

4.プロジェクトのマイルストーンを共有

短期的な目標を設定し、進捗を可視化することで、双方のモチベーションを維持します。

私の関わったスタートアップとのマーケティングプロジェクトで1ヶ月で新しく100名に近くに提案し終わって、仕様を決めるデータを集める、といマイルストーンが置かれました。
そこで「毎日その日の終わり1回」のスプリントレビューを導入しました。

これまで皆は2週間ごとのレビューでも、会議が多すぎると思っていたので反対する人もいました。

しかし、毎日スプリントレビューし小さな失敗・成功体験を、次の日に改善アクションするのを続けていると
「1ヶ月アポイント数件」だったのが、
あっという間に
「1日数十件で訪問しきれないくらいアポイントの山」
になりチーム全体のモチベーションが向上していきました。

マイルストーンを共有したことで日々のレビューに時間をかけ、逆に目標までの時間が大幅に短縮されたのです。

5.スタートアップのビジョンの理解

スタートアップのビジョンを深く理解した上でWin-Winの関係を構築します。

あるベンチャーキャピタリストは「大企業がスタートアップの KPI を理解し、それに寄り添った協業を提案できれば、成功率は2倍以上になる」と指摘しています。

先ほどの食品会社の酒田さんの事例では、CEOの中条さんのビジョンは
「世界の食を安心安全にする」でした。

にもかかわらず、酒田さんの会社の「専売契約」では国内でシェア3位で大きかったとしても、国内や世界のシェアを取るには1社に頼るわけにはいかないのです。

酒田さんは独占販売を求めることと事務処理が遅いことで、知らず知らずに
「束縛され、時間だけがかかるやっかいな相手」
になってしまっていたのです。

酒田さんが契約などでもたついている間、中条さんはより素早く、オープンな契約をしてくれる、シェア5位の競合とさっさとビジネスを開始していました。

これらの対応は、一見些細なことに思えるかもしれません。
しかし、時間に繊細なスタートアップとの協業において、こうした配慮が信頼関係を築く鍵となるのです。

最後に

いかがでしたか?
皆さんも、スタートアップとの新たな関係性を築いてみませんか?
それが、未来の日本を変える第一歩となるかもしれませんから楽しみですね。

PS.冒頭のデートに誘ったら音信不通になったケン、その後が知りたい人はコメント欄に書き込みください。ご要望があれば、いつか書き残しますね。

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用語解説「オープンイノベーション」 「Jカーブ」「ファストトラック制度」

オープンイノベーション(Open innovation)」とは、2003年に現UCバークレービジネススクール教授のヘンリー・チェスブロー氏が提唱したコンセプトです。
組織内のイノベーションを促進するうえで、社外を含むあらゆるリソース(知見や技術・サービスなど)を駆使し、さらに社内で生み出されたイノベーションを社外へと展開する手法を指します。
近年では、主に大手企業とスタートアップ企業とのコラボレーションで新規事業を生み出す仕組みやサービスのことを指すことが多いです。

「Jカーブ」
Jカーブとは「事業開始後は赤字でも、その後短期間で急成長することで累積赤字を超える」ことを成長曲線としてグラフ化したものです。
スタートアップ企業では、成功すれば驚異的なスピードで成長曲線を描く可能性を秘めています。グラフで表すと、最初下降し、ある地点から急激に上昇するのが、アルファベットの「J」の形に似ていることからこの呼ばれ方になったと言われています。

「ファストトラック制度」
ファストトラックとは、優先審査制度の別称で、必要性の高い新薬の審査を優先的に行う制度です。アメリカで1980年代後半頃から、医薬品の必要度に応じて審査の優先度を変更するようになりました。日本ではファストトラックが導入されたのは1993年の薬事法改正以降です。


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