青い鶏

 青い鶏が夢に出てきたのは昨晩、つまりクリスマスの二日後の夜だった。僕にはそれが夢だということがはっきり分かっていたし、それが鳥ではなく、鶏という漢字で指されていることも分かっていた。もう明確に分かっていたし、僕がそのことを分かっていることも鶏のほうでもちゃんと分かっていた。夢とはそういうものなのだ。
「しかし、青い鳥っていうのはよく聞くけど」と僕は言った。「鶏っていうのは初めてだな。それはつまり、やっぱり何かの意味を持ってるんだよね」
「まあ漢字っていうのはそういうものだからね」とその鶏は言った。「僕は鶏だったんだよ。鳥じゃなくてね。青い鶏だったんだ」
 それからしばらく鶏は黙って僕のまわりを歩きまわった。何か聞いて欲しそうだったが、僕には一体何を聞けばいいのか分からなかった。
「青い鶏だったんだよ」と鶏は繰り返した。
「つまりその、人に飼われてるっていうことなのかな」と僕は聞いた。
「そういうことになるんだろね。そしていつか食われるんだ」
「いや」と僕は言ってから言葉を探した。「そう決まってるの? つまり、卵を産む鶏とかさ。鶏っていったって、色々だろう?」
「食われるんだよ。決まってるんだ。そしてそれは明日かもしれない」
 鶏はそこで歩みを止めて、じっと前のほうを睨んだ。見れば見るほど青い鶏だった。通常グラデーションがありそうなところまで、まるで自身で発光しているかのように青かった。それは哀しみというよりも人工的なイルミネーションを思わせるような単一な青だった。僕は励まそうかとも思った。でも次第にそれよりも、この青い鶏が夢に現れたことの意味について否応なく考えを巡らせていた。何しろこれは夢なのだ。鶏自身に聞いてみたい気さえした。僕にとってそれこそがより意味を持つ問いに違いなかった。でもそれはあまりにも鶏の気持ちを無視した、身勝手な質問に違いなかった。
「君が考えていることは分かるよ」と鶏は言った。「でもその質問には大して意味はないと思う」
 僕は何も言わなかった。僕の考えていることが分かるのなら口を開く必要もなかった。
「僕は別に青い鶏になることを選んで青い鶏になったわけじゃない」と鶏は言った。「気がついたらこうなっていたんだよ。初めからこうなっていたんだ」
「この夢と同じだ」と僕は言った。
「そう。その通り。でもそれについて考えることはできる」と鶏は言った。「だから考え続けてるんだ。こうして歩きながら、考えてるんだよ」
「そしてそれについて話し合うこともできる。少なくともこうして会話をすることはできる」と僕は言った。
 鶏はしばらくまた前方をじっと見つめてから、僕の方を向いて少しだけ頷いた。それから「ありがとう」と言った。「もう行かなくちゃ。じゃあ、良い一日を」
「君も」と僕は言った。「良い一日を」
「そうなるといいね」と鶏は言った。鶏はもう頷かなかった。それから白い壁の向こうに消えるように歩き去っていった。

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