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ギレルモ・デル・トロ『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)

1. あらすじ

舞台は1962年のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、密かに運び込まれた魚人を目撃する。研究所で働くストリックランドに拷問を繰り返される魚人と次第に心を通わせるイライザは、隣の部屋に住むジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)と、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)とともに魚人救出作戦を実行する。研究所のホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)の助けを借りながら魚人を研究所から連れ出し、港に到着した二人。執拗に追跡してくるストリックランドの弾丸に撃たれるも、海の底で永遠の愛を生きるのであったーー

2. 感想・考察

『アナと雪の女王』では、エルサが「ありのままの姿を見せる!」と言うように、自分自身で道を切り開く姿が描かれます。これは、自分で自分を奮い立たせることができる「強い人」の描き方です。一方、『シェイプ・オブ・ウォーター』では、イライザが「彼は私のありのままの姿を見てくれた」と言うように、「相手がいることではじめて自分自身でいられる」という「他者依存」の関係が描かれます。

イライザは幼い頃のトラウマによって声を発することができず、幼いころから社会的に「異質」な存在と見なされてきました。魚人も同様に、アマゾンでは「神」、研究所では「クリーチャー」というように、社会的に「異質」な存在として扱われてきました。そんな「異質」な二人が、「ありのままの姿を見てくれる相手」に出会うことで、はじめて「本当の自分」になれた、自分自身を取り戻すことができた。デル・トロにとって「自分らしく生きる」ということは、「自分を表現しよう!」と鼓舞することでも、外見や社会的な属性に依存することでもなく、「本当の自分を見てくれる他者のまなざし」があってはじめて実現するということなんですよね。

物語の中盤で、イライザが乗るバスの窓を二つの水滴がつたい、やがて一つに溶け合う象徴的なシーンがあります。「相手の内側を見つめるまなざし」があれば、相手と水のように溶け合い一つになることができる。この「水の形(the shape of water)」をこそデル・トロは「愛」と呼ぶわけですね。

この映画のストーリーを俯瞰すると、コンプレックスを抱えたり社会的なアウトサイダーと呼ばれる人たちが、「外見」や「評価」に絶対的な価値を置くストリックランドから、魚人を救い出すプロットであることが分かります。もっと言えば、イライザと魚人の間に生まれた「愛のまなざし」を、アウトサイダーたち(社会的な偏見を抱える人たち)が取り戻す物語なんですよね。

「外面信仰」とでも言える現代社会から、相手の内側(「ありのままのあなた」)を見つめるまなざしを取り戻すこと。それは他者に対する「愛」を取り戻すことに他なりません。「理想や理屈は分かった、ではあなたは目の前の相手にどう接するのか、そして私はあなたとどう接するのか」。デル・トロが発するこの鋭い問いかけこそが、みなが「ありのままの姿」で生きるための、気持ちの良い社会を形づくるヒントになるのだと僕は思うのでした。

では、そんなところで。

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