【人が怖い実話25】値下げ
S子さんが、とあるビルに出向いた時の話。
上階で用事を済ませてエレベーターに乗り、一階に到着した。
箱から降りてフロアに出ると、誰かがブツブツと呟く声が耳に入ってきた。
その声の在り処に視線を向けると、フロアの奥の暗がりに立っている男が目に入った。五十代くらいの男で、「サラリーマンではなく、普通のオヤジ」という風貌。下を向きながら、何やら呟いている。
S子さんは立ち止まり、耳をそばだてた。
「……します……お願いします……お願いします……」
え? なに? この人……
状況が飲み込めないS子さんに向かって、その男はゆっくり近づいてきた。
片脚を引き摺り、手で片方の肩を抑えながら。
ゾンビ系ホラーゲーム『バイオハザード』で、深手を負った主人公が歩いて進む動作に似ていたという。
「お願いします……お願いします!……お家賃、安くしますから……」
ええ? なに??
「お家賃、安くしますからああああぁぁ」
S子さんは早足でビルから脱出し、事なきを得たそうだ。
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