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【取材した怪談話136】旧天城トンネル(静岡)

学生時代、旅行サークルに所属していた茜さんから伺った話。
ある年の12月、サークルの仲間と静岡に旅行した。4人ごとの班に分かれて車で別々に各所を巡り、夜に旅館で集合する手筈になっていた。

集合時間まで時間がかなり余っていたため、茜さんの班はノリで心霊スポットに行くことになった。誰も土地勘がないため、その場でスマートフォンを用いてインターネット上で「静岡 心霊スポット」と検索してみた。その結果、茜さんらの現在地から最も近い「旧・天城(あまぎ)トンネル」(別名=天城山隧道)に向かうことになった。

旧天城トンネルは、静岡県の伊豆市と、賀茂郡河津町とを結ぶトンネルだ。川端康成『伊豆の踊子』、松本清張『天城越え』の舞台にもなっている。全長は約450メートルで、国内に現存する最長の石造トンネルである。国の重要文化財である一方、有名な心霊スポットらしい。

茜さんの班は、彼女の他に運転手A君、助手席B君、後部座席のCちゃんで構成されていた。早速ナビに目的地を入力し、音声ガイドに従って一行は旧トンネルに向かう。

伊豆市の国道414号の峠道を、ひたすら登っていく。
時刻は22時を回っていた。漆黒の峠が不気味に映るが、ノリの良いB君を中心とした緩い歓談が車内で展開され、気が紛れる。

途中、ルートを見失い、一行は国道沿いにある駐車場に車を入れ、停車させた。そこでナビでルートを皆で確認すると、どうやらその駐車場の反対側にある細い分岐道(旧道)を入っていくようだった。

その時、1台の軽自動車がその駐車場に入って停車した。B君が口を開いた。

「なあ、あの人らもトンネル行くんじゃね?」

その時間、峠道に車両はほとんど通行していない。自分たちと同じように、旧トンネルに向かうルートを確認するため、この駐車場に来たと考えても不自然ではない。

「そうかもね」
「オレ、ちょっと聞いてくるわ」

言い終わると同時に、B君は助手席から外に出て軽自動車の方にテクテクと歩いて向かった。彼はコミュニケーション能力が非常に高く、初対面の人間ともすぐに打ち解ける性格だ。トラブルになる可能性は低いだろう。

そう思いながら、車内から後ろ姿を見守った。
B君は軽自動車の人間としばらく会話を交わした後、すたすたと戻ってきた。開口一番、こう告げてきた。

「霊媒師だって」

思いもよらぬ一言に、一同はキョトンとなった。
B君によれば、軽自動車には前座席に女性が二人乗っており、片方(運転手か助手席の人かは不明)が霊媒師だという。

Youtuberや若者など、遊び半分で旧天城トンネルに向かう輩が増えており、その者らを警告するために来たそうだ。どうしても旧トンネルに向かうなら、同行するとのことだった。

「で、あの人らに先に行ってもらって、オレらが付いていくことになった。なんかヤバくなったら、お祓いしてもらえばいいし」

軽快に話すB君とは対照的に、茜さんとしては怖くて行きたくなかった。だが、既に交渉が成立しているようだ。
軽自動車は発進し、旧トンネルに向かう分岐道を入っていった。茜さんの班車も続く。

国道は二車線だが、この分岐道は車一台分の狭い道だ。街灯は全くなく、車のヘッドライトが地面を照らすのみ。曲がりくねった登り道で、舗装されておらず、車体がガタガタと上下に揺れる。

道中、B君が妙な事を口走った。

「やべぇ。動物が超死んでるわ。死骸がたくさんあるし、なんか、白い靄(もや)がかかってる」

後部座席の茜さんは、恐る恐る前方を覗いてみた。だが、視界に入るのは、暗闇とヘッドライトの光に照らされる地面だけだ。運転手のA君も隣のCちゃんも、死骸や靄は見えないようだった。B君が続ける。

「ま、白い靄だから大丈夫だろ。黒いのはヤバいけどな」

B君はいわゆる霊感体質で、そのことは皆知っていた。彼の口ぶりからは、精神的な余裕が感じられる。

旧トンネルの入口付近まで到達すると、霊媒師の軽自動車が入口付近に停車していた。夜間の峠道に佇むトンネル入口のアーチ部分の石材の凹凸が、やけに薄気味悪く感じる(現場の画像・フリー素材より)。

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「霊媒師の指示を仰いだほうがいいのでは」という誰かの発案に全員同意し、茜さんらの車も付近に停車させた。B君が外に降りて霊媒師の車まで歩いて行き、先ほどと同様に霊媒師と会話を交わし、戻ってきた。

「車から降りてトンネル内を歩行するのは危険だから、車に乗ったまま、霊媒師の車の後ろに付いてトンネルを通過してそのまま帰る」ということで話がまとまったらしい。

霊媒師の車が先に旧トンネルに入り、茜さんらの車が後続した。内部をゆっくりと車で進んで行く。車一台分の幅で、壁面は全て石製だ(現場の画像・フリー素材より)。

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車内では「やべえ、やべえよ」とB君がひたすら喚いていたが、相変わらず軽い感じなので本当にヤバいのか大げさに言ってるのか分からなかった。路上で見えたという動物の死骸や白い靄は、トンネル内では見えないようだ。

旧トンネルを通過した後、曲がりくねった細い峠道を下っていき、国道に戻った。途中で霊媒師の車を見失い、それっきり遭遇することはなかった。

「今思えば、トンネルよりも、霊媒師のほうが怖かったですよ。結局、何だったんだろうって感じで。現れたタイミングも良すぎるし。12月に、そんな監視しなきゃいけないほど人が来るのかなって。まあ、私は後部座席に居たので姿をはっきり見てないんですけどね」

首を傾げながら、茜さんは語り終えた。

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