【実話怪談38】母親の夢
実話怪談37~40は、すべて女性Lさんに伺った話である。各エピソードは独立している。
本話は、彼女が小学生のときの出来事。のちに父親から聞かされた話となる。
母親が内臓疾患のため入院した。病気が発見されたときは既に末期で、余命が半年ぐらいだったそうだ。だが家族の意向で本人に疾患の件は知らせていなかった。貧血や血液の精密検査でしばらく入院が必要だと、虚偽の事情を母親に伝えていた。
ある日、父親が見舞いに病室に向かうと、ベッドに横たわる母親からこんな話を切り出された。
「ねぇ。私ね、夢みたの」
自分が見た夢の話などほとんどしたことがなかったため、珍しいなと思いつつ、父親は耳を傾けた。
「どんな夢だった?」
少し間を置き、母親が応えた。
「夢の中で、仰向けになっていてね……鼻の穴に、綿を詰められたの」
事情を知っている父親は、内心どきりとした。
努めて表情には出さず、「不思議な夢だな」とその場を取り繕ったそうだ。
その一週間後、母親は息を引き取った。
「病気のことは全く知らないはずなのに、直感的に悟ったのかな」と、Lさんは語っていた。
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