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【取材した怪談244】振り返さなかったから

二十代の真人さんが十代の頃、仲が良かった父方の叔母が亡くなった。原因は癌。発見時には進行しており、治療が見込めない状態だった。

「あまりに突然でした。当時、叔母は旦那さんと折り合いが悪く、お子さんも難しい年頃でしたから、思い残すことが多かったんじゃないかと思います」

その叔母の三回忌法要に、真人さんは参加した。真夏に行われ、冷房が効いた法要会場で参加者は椅子に座っていた。彼の隣は伯父だった。法要の儀式は粛々と進行され、僧侶による読経が始まった。

読経中、隣に座っている伯父がそっと肩を叩いてきた。
「あそこのカーテン見てみろ」
小声で伯父が指さす方向に真人さんが視線を向けると、会場の白色のカーテンが部分的に揺れている。冷房の風による揺れにしては不自然だった。

「風に吹かれて揺れてる感じではなくて、カーテンと壁の間に人が立っていて、カーテン越しにこちらに片手を振っているように揺れてました。道路工事現場に設置されてる交通整理の人形が腕を振る動作に似てましたが、生身の人間のようでした。性別は分からないです」

もちろん、カーテンと壁の間に人など立っているはずがない。

──亡くなった叔母が戻ってきたのかな。

そう感じた真人さんは、揺れるカーテンに向かって手を小さく振り返した。
一方の伯父は怖がっていたようで、手を振り返すことはしなかった。
このカーテンのなびきに気付いたのは、真人さんと伯父の二人だけだったそうだ。

その後もしばらくカーテンの不自然な揺れは続いていたが、僧侶による読経が終了したあたりで揺れも収まっていた。

・・・

それから一年ほど経ったのち、伯父が急に亡くなった。癌を患い、発見時には治療が困難だった。

死因が叔母と似ていることや、叔母の三回忌法要でのカーテンの一件もあり、真人さんは自分の身にも何か起こるんじゃないかと不安に陥った。だが特に身体に異変は生じず、杞憂に終わった。

「もしかしたら、伯父はあの時に手を振り返さなかったら亡くなったんじゃないかって思うことがあります。考えすぎかもしれませんが……」

真人さんはそう暗い声で話を締めた。

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