シェア
S子さんが、とあるビルに出向いた時の話。 上階で用事を済ませてエレベーターに乗り、一階に到着した。 箱から降りてフロアに出ると、誰かがブツブツと呟く声が耳に入ってきた。 その声の在り処に視線を向けると、フロアの奥の暗がりに立っている男が目に入った。五十代くらいの男で、「サラリーマンではなく、普通のオヤジ」という風貌。下を向きながら、何やら呟いている。 S子さんは立ち止まり、耳をそばだてた。 「……します……お願いします……お願いします……」 え? なに? この人……