ウィスキーと歩く

死ぬ場所を探していたのは、いつだったっけ?
ひとり、夜の海を飽きることなく眺めてから、どのくらい経ったんだっけ?
死ぬ場所を探してる、なんて呟くもんだから、いま考えても迷惑なはなしだ
相変わらず、混乱したままの頭で、
街を歩く、ウィスキーと歩く

「あなたには自殺する勇気なんかないくせに」
ああそうだね。きみのいうとおりだね。
まるで呪いにかけられたまま、
説明なんて出来っこないから、
黙って歩く、ウィスキーと歩く

彼のなかで、何が起こってるのかなんて、
彼だって分からないはず、きっと
誰もがそうしたように、彼もまた、
彼から離れたがってる
うんざりしながら、うんざりと歩く

壊して、壊して、壊して、
残るものがあれば、彼はそれに希望と名付けるつもりだった
生きることが下手だと嗤われれば、
死ぬことだって下手だと嗤う
そして彼はもう、希望なんていらないと、
立ち止まり、ウィスキーの瓶をほうる

瓶は思いのほか頑丈で、
地面に散らばったのは、残っていた少しの中身
生きることが下手だと嗤われれば、
壊すことさえままならぬと、ひとり嗤い、
瓶の先が向く方へと、歩き出す
うんざりしながら、歩いてく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?