見出し画像

聡くて美しい

最近、ぐったりと調子が悪くなるに暑い。
そして目つきが悪くなるほどに
日光が眩しすぎる。

ドラキュラが感じる夏って
こんな感じだろうか。

精神病棟から退院後、
正社員の職を辞めて
絶賛ニート満喫中の絶望感を味わいながら、

ベッドから出ることなく、
クーラーもつけずに汗をかき続けている。

マットレスの感触がバネっぽくなって
腰が痛くなってくるけど、
それでも私は微動すらしない。

そのまま再び目を閉じれば、
干からびてミイラにでもなるのか、と
脳内で煽る私がいる。

相変わらずの自責だ。それも止まらない。

動き出す気配のない私は、30分経過後、
やっと動き出すことになる。

目的は、喉を潤すことだ。


最近、アイスティーのポーションを
牛乳で割って飲むことが最近好きだ。


一気に飲み干して、
大きめのマグカップに並々注いでは
何回もおかわりしてしまっている。

でもあまり飲みすぎると
朝食用に飲む牛乳の分が無くなるので
最近は氷で水増しする作戦に出ている。

飲み終えたら、
底に残った氷を歯で噛み砕く。

がりがりがりがり。

自分の顎の力に若干引きながらも
口内の温度を冷たくして、
肌の熱度を下げていく。

氷は噛んだ瞬間にじんわり液体に変わって
溶けていくから気持ちいい。

飴は噛み砕かれると、
ねっとり歯の表面を甘く覆って、
虫歯菌を手繰り寄せるから、
一瞬の甘さと噛みごたえは愛していて、
将来的に考えれば嫌いだ。


世の中には聡くて美しい人がいる。

その人たちに嫉妬したり、
自分と見比べては勝手に
絶望したりしてしまう。

圧倒的な存在は、憧れも絶望も同時に与える。

私はそんな他者の存在が怖くて苦手だ。

どうしても
苦しくなってしまう。

だけど、私の友達ふたりは、
聡くて美しいのに、嫌味がないから好きだ。

彼女のAは、私が死にそうなとき、
率先して電話をかけてくれる、
高校生からの付き合いの人だ。

そして、どんな言葉を投げかけても、
私の傷つくことは言わずに受け止めてくれる、
すごく優しい人でもある。

精神病棟に入院中の時、
私のヤバさを蔑まずに話を聞いてくれたのは
本当にありがたかった。

彼女も私と同じように毒親経験があって、
悲しみの渦に溺れたことがあったからだろう、
そんな彼女だからこそ、
「普通」の人の何十倍も
孤独に寄り添う力は、強い。

「貴方にだけ優しいんだ」と
彼女はよく言うけど、
どの角度でも輝きが反射する水晶のように、
言葉の端々から澄んでいて、嘘がないから、
それが私にとって癒しとなる。

だから安心して
この人の前ではどんな姿でもいいやと、
心から思える。

そう思わせてくれる人、
私にとって貴重な存在だ。

やさしさにコンテストがあるなら、
彼女の首には沢山のメダルが
架けられると思う。

あと、関係ないかもしれないが、
彼女の顔は綺麗だ。
言い過ぎかもしれないけど、
雑誌「装苑」のモデルのような感覚だ。

高校生で、まだ仲良くなかった頃、
彼女がトイレで挨拶をしてくれた時、
にい、と笑う瞳の妖しい輪郭と
すれ違うときに揺れた黒髪が、
とても綺麗だった。

今でも、私の脳内データに保存されている。

メモリの少ない私だけど、
高校生の時、出会ったあの瞬間は、
どんなに記憶の残量スペースが無くなっても
熱が発生して煙がおでこから出ても、
覚えておきたい。


対して彼のAは、彼女のAの恋人で、
電話に参加してくれて助言をくれる人だ。

まだ黒く塗りつぶされていて顔も知らない、
声だけのミステリアスな存在で
本当に生きているのか分からない彼のAだが、

見ず知らずの私のことを彼女のAと同じく、
蔑まずに理解してくれる。

そして何より、
私の死にたさをうまく言語化してくれる。
その度に私の苦しみの根本を掘り起こしては
私さえ知らなかった私を見つけるのが上手い。

そして
何度も気づきを与えてくれることがすごい。

話題も、
「そんなこと、なんで知ってるの?」
「知らなかった!」と
驚かされることばかりで飽きが来ない。

一言で「聡い」。
そんな言葉が似合う人だと
電話越しに思った。

私は話題を振るのが苦手だし、
そもそも言葉にすることが苦手だから
博識で聡いAの言葉にうっとりする。

賢い、声だけしか知らない彼のAの正体は、
たまに人工知能、AI、もしくは
私にしか聞こえない、
脳内に語りかける怪しい声なのかなと
想像することもあるが、
Aの彼は、紛れもない人間だし、
たとえ、別世界の人あっても
それはそれで美しさがあって、  
心が踊ってしまう。

まるで綿矢りさ著「私をくいとめて」の
世界が繰り広げられているようで幸せだ。

頭がいい人はセクシーだと言われることも、
彼と話すとなんとなくその理由が
分かる気がするのだ。

賢い人って、やはり官能的だと思う。

Aの彼には会ったことはないけれど、

彼は彼の声だけで、
私にとっての聡くて美しい人だ。

彼ら、Aたちと話すときは、
死にたい私が何処かへ行ってしまう。

ちゃんと、私を生きたい私として
ここに置いてくれる。

それも聡くて、楽しい、会話で。

聡くて、美しい貴方たち。

聡くて、美しいんだよ、あなたがたは。

それを、忘れないでほしいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?