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『呼ぶ』

これは、マンションに引っ越して来た時のお話である。

当時短大生だった私は、田舎から出て一人暮らしを始めた。
一人で住むには十分なワンルームマンションで、不自由ない生活をしていた。

住み始めて2ヶ月が経った頃、いつものように夕飯を作っていると、右の視界に光がパッと映り込んだ。

「なんだろう」

ふと気になって振り向くと、何故かトイレの電気が付いていた。

「えっ………」

この部屋のトイレは人感センサーで自動点灯するため、近付いていないのに電気が付くことはこれまでなかった。

最初は驚き怖くなったが、誤作動で電気が付くこともあると、管理会社から聞いていたことを思い出し、様子を見ることにした。

しかし、その日を境に不思議な現象が起こり始めたのだった。

ーーーーーーー

夏も終わりに差し掛かる頃には、学校から帰って来ると頻繁にトイレの電気だけが付くようになっていた。

「またか」

日常化してしまった私は驚くことも無くなり、気にせずにいた。


するとある夜


学校で仲の良い穂花(ほのか)と電話することになった。
たわいも無い話で盛り上がっていた時のこと…

穂花の様子がおかしくなり、急にこう言い出した。

「ねぇ…誰か家にいるの?電話口から笑ってる声がするんだけど」

一瞬、時が止まったような気分になった。

私は重い口を開き、どんな声だったのか尋ねる。 

それは女性の声だという。

ふふふ…

と、笑うそうだ。

気味が悪かったのだが、不思議とその女性を知っているような気がしてきた。


会ったこともなければ見たこともない。
記憶を遡っても、やはり見覚えがないけど…


もう自分の中だけでは留めておけないと観念して、この数ヶ月で起きた出来事を全て打ち明けた。

すると穂花がこんな提案をしてきたのだ。

部屋の中で自撮りしたら写るかもしれない…と。

私はまさか…と言いながらも試してみたいという好奇心が生まれてしまった。


……やってみるか。


電話を繋いだまま、カメラアプリを起動。

パシャリ

シャッター音が不気味に響く。

恐る恐る、携帯のアルバムから写真を見た。

しかし、自分と部屋の風景以外に何も写っていない。

ふぅ…

「なんだ、やっぱり何も写らないよ。ほら、送るから見てごらん」

そう言って、安堵しながら穂花へ送る。

受信したであろうに、いっこうに返答がない。

おかしいなと思っていると、ようやく穂花が口を開いた。

「右半分の顔だけ違う人みたい」と、怯えた声で言うのだった。

そんなはずは…急いでもう一度アルバムから写真を開く。


……私は言葉を失った。


さっきまで特に変わりなかった写真が、右半分の顔だけ血だらけの女性に変化しているではないか。

電話口で「早く消して!!」と聴こえた次の瞬間……

トイレの電気が付くのと同時に、音もなく突如として血だらけの女が部屋に現れたのだった。

ーーーーーーー

あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
女性は右半分の顔だけ血だらけだった。

きっと存在を知ってほしかったのだろう。

何故トイレの電気ばかりを付けたのか…
この謎が解かれることは無いと思う。

私が女を知っていると感じたのは、
あの部屋でともに暮らしていたからだろうか。

写真は消し、後日お祓いをしてもらってからそのマンションを引っ越した。

あとから聞いた話だが、住んでいた部屋だけよく住人が入れ替わるらしい。


いまだに彷徨い続けているのかもしれない。


ー END ー

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
このシナリオは実話を元にした怪談です。

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