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Short Story

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散文詩風な超短編から、プロローグ、ショートショートを含む短編小説。
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記事一覧

【SS】この愛は透き通ってる(2011/05/25)

 海は広くて大きくて、こんなにも青く輝き、それでいて深みのある色なのに……手にとると、無色透明に広がって、瞬く間にこの指をすり抜ける。  そこに確かに残るのは、潮の香りと湿り気だけ――それもスグに消えてしまう。  まるであの人みたいだと思った。わたしの前に存在しているのに、つかみどころの無いあの人……  真っ直ぐで、純粋で、みんなに愛されて、頼りにされて……普段ちっともそんな素振りを見せない、冗談ばかりの明るい人なのに、その中に秘められた牙は鋭い。  人の上に立つ資質や才能

【SS】一生に一度の恋だから(2011/03/03)

竹の花咲く瞬間を、共に見ることのできた二人は…… きっと結ばれる運命だったのね。 それは、五十年に一度の奇跡。      *  一生に二度と見ることは叶わないという、幻のような稀少な一時。  そして私達は、苦難を越えた先に突如として訪れた、いくつもの偶然を重ねたあの日に、出逢った。  これらを引き合わせた力を、運命や奇跡と呼ばずして何と呼べようか……  私は貴女のために、貴女は私のために、生きているのだと思いたい。  そのために生まれて来たのだと信じたいのです。  他

【SS】小春の十月桜(2011/01/13)

 毎夜あなたを夢に見て、その日が来るのを待っていた。  わたくしを迎えに来た彼は、優しく髪を撫でつけながら、柔らかな笑顔でこう言うの…… 「待たせてすまなかった」  いいえ、そんな……わたくしこそ。お役に立てなくて……  そんな返答しかできないわたくしを、あなたはどう思うかしら。  夢で会えたらどんなに幸せでしょう。そんなことを初めは思っておりました。  けれどもわたくしはあなたの幻に出会うたび、届かぬこの手を差し出して、眠れぬ夜を過ごすのです。日に日に身体は衰えて、と

【SS】忍び寄るもの(2011/05/22)

 小さく脈打つようにして、何処からか自然に湧きおこり、結束し……気が付くとそれは僕の身体に蔓延し、充満して、我が物顔で中枢を占拠する。  ――ああ、また来たのか……  眠りながら目覚めた僕は、瞼を下ろしたまま身動き一つせずにそう思っていた。  慣れているとはいえ決して心地良いものではない。耐え難い程の苦痛ではないが、何時までも纏わりつかれるのは迷惑極まりない……僅かでも集中力が欠落し、その油断が一瞬の隙を生まないとも限らない。  こういう小さな問題が、窮地においては命取り

【SS】梵天花(2010/12/31)

 ――小さな綿の花が揺れていた。 「ここ、どうですか?」 「うん、なかなか気持ちいいよ」 「う~ん……じゃあこれは? 痛くはないですか?」 「大丈夫だよ。沙織さん、ずいぶんと手慣れてるようだね……」 「ふふふ、そうでしょう~。実はけっこう好きなんですよコレ」 「そうなのかい?」 「はい! 終わった後の達成感も堪りませんし、お互いに気持ちいいじゃないですかっ」 「やってもらっている私はともかく……沙織さんまで気持ち良くなるものなのか? これで?」 「うーん、なんて言うかこう…

【SS】貴方に似合うは無垢な花(2011/05/17)

 この人はとても優しくて、真っ直ぐで、温かくて、純粋で……わたしに向かって夢を語るこの人の瞳は、吸い込まれそうなほどに澄んでいて、キラキラと輝いてる。  強くて、逞しい、誰からも好かれるような、最高にカッコいい人だと思うし、心から尊敬してる。  とてもとても憧れて、大好きで、惹き付けられて止まない・・・  だけど、だからこそ―――  わたしはこの人に触れたくない。近づきたくない。それがこの人を傷つけることになるって分かってる……分かってるけど、見たくない。  側にいるの

【SS】小さな小さな恋でした(2011/05/16)

 ほんまにちぃーさい頃の話でな、今じゃ顔も覚えておらんのですわ。せやけどうちの初恋は、やっぱりあん時やったと今も思うとりやす――  うちは毎日、あの場所さ行くのが楽しみやったんどす。  毎日毎日、飽きもせんと、暇さえあればあの場所へ行って、仲ようしとった子らと遊びながら……ずーーっとほんまは、あの人が来てくれはるのを待っとったんどす。  あの人はな、いーっつもにこにこ笑うてばかりおる人で、甘いもんが大好きでよ。何度か甘味屋で見かけたことがあったのやけど、声さかけたうちに、自

【SS】仏蘭西人形(2010/11/30)

 ――なんて綺麗な人なんだろう。  私は棚に鎮座して、少し離れた所からその人を、やや見下ろす形で眺めていた。  たくさんの仲間と共に、可憐な少女に大切にされるのを、夢に見ていたのは遠い昔のこと。  ある日突然、得体の知れない貿易商に気に入られ、連れて行かれた船の中。何日も波に揺られている間、私は彼の独り言を聞かされた。  悪い人ではないようだけど、商売好きで、狡賢いところもあって……私なんかを買うあたり、やや変わり者のようだった。  彼は外国の、Japonというところ

【SS】巡り合いの季節<春>(2012/06/22 21:54)

 出会いは何かと聞かれたら、運命だと答えるだろう――  それほどまでに、私と彼女が知り合いに至るまでの半年間、奇跡のような偶然が度重なったものだった。  始まりは、春の日差しが心地良い、職場近くの広場でのことだった。  ベンチに腰掛け本を開き、珍しく束の間の休憩を謳歌していた時。いつもなら、視線はあれど話かけられる事は滅多に無いのだが……その日は珍しく声を掛ける者があった。 「すみません、隣いいですか?」  ふと顔を上げると、年若い女性が私を窺い見ていた。  何気なく

【SS】先立つ後悔の話(2011/03/26)

明るい未来が見えなさそうな、囚われ男な独り言。 超絶短編もしくは散文詩。  愛していると言ってくれ——  あの娘は私を好いてくれている。  そして私はその子のそれ以上にあの娘を思っているつもりだ……  この両通じの情に恵まれることは幸運極まりないこと。この期に及んで不平を唱えるつもりは無いが、私はこの幸運に恵まれたと同時に破滅の未来に取り囲まれたのだ。  確実に訪れる別れの日……刻々と近づくそれを前に、私はあの娘に触れたくて堪らない。  触れてしまえば余計に別れが辛