自尊感情の代替品

ソフトジェルネイルが流行し始めた頃、週末のふと空いた時間に個人経営のサロンに寄ってみた。
当時、スワロつけ放題も珍しく、ちょっと凝ったデザインにすると2万円超えが当たり前だった。
アブラが乗り切った30代。早朝から深夜までがむしゃらに働くことを厭わず、会社と自宅の往復の毎日。週末は爆睡か、女友達や彼との予定。
趣味や習い事も特にはなく、あっという間に月単位で時間が流れていく。
ブランド物や、ジュエリー、高級リゾートやスパ。
話題のレストラン。
稼いだ分だけ散財していた。
価値のあるものに触れることで、自尊感情の低さ、自信のない自分を武装していた気がする。

そんな時、とある先輩が同僚に話したこと。

最近流行ってるジェルネイル。
マニキュアって最後、汚いじゃん。汚い爪先見てると萎えちゃって、テンション下がるけど、ジェルはいいよ。とれないし、最後は
あ、爪伸びちゃったな、で終わる。ジェルは綺麗な上に、デザインバリエーションが多いのも良い。
わたし、仕事中、ちょっと辛くなれば、爪見てる。
あ、キレーイ、なんかわたし綺麗かも。
わたしの爪はこんなにイケてる。どんなに忙しくても、指先は辛うじてケアしてる私、すごい。
もちょっと頑張ろうかな、と思えちゃって不思議なんだ、、、

と。
え?そんなことある?
爪見て、仕事やる気になるの?どんだけ自尊感情強めやねん!!
と思って数ヶ月。
ぽっかり予定の空いた週末に、サロンオープンのチラシを思い出して行ってみたところ、大ハマり。
ジェルネイルは、自分でオフできないために、
3週間ごとに通うことになり、そのうちオリジナルデザインに凝り出す羽目に。
スワロで立体リボンを作るのも当時は珍しく、サロンの担当さんが宣材用に何枚も写真を撮っていたっけ。
そして、やっぱり私も会議の合間、給湯室で、
吊り革につかまる時、自分の爪を眺めてご満悦。
先輩が言ってたことはこういうことかー、と深く納得。
ジェルネイルにどんだけお金を突っ込んだことか。
でも、デザインを担当さんと考える時間、うつらうつらしながら仕上げを待つ時間、同僚に褒められたり、アクセサリーをコーディネートしたりと
睡眠時間が3時間の繁忙期を乗り切れたのも、爪先のおかげだったと思う。
婚約してご挨拶にいくときにオフしたことがきっかけでジェルネイルから卒業したけれど、その後は憑き物が落ちたみたいに散財しなくなった。

あれから15年。
Instagramでネイリストさんが制作されたスワロのジュエリーケースと出合い、あの時のときめきを取り戻したくてついポチり。
旅先やご褒美、節目など記念に買ったリングを入れて眺めている。
わたしの小さな宝箱、自尊心の代替品だ。

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