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最近読んだ本の書評と感想(前編)―備忘録としてー

お久しぶりです、メシロです。最近文章を書く時間が取れず、下書きに途中まで書いて放置を繰り返してました。すんません。

最近(去年と今年)読んで面白かった本を、自分の備忘録もかねて紹介します。ちょくちょく斜め読みしてるので、解釈が間違っていたり、途中までしか読めてない本も多々あるので、その点ご容赦いただければと思います。


わらの犬 ジョン・グレイ

まずはこれ。無類の本好きである父親からおすすめされて買った一冊。西洋世界の基本的な価値観であるヒューマニズムについて、幻想に過ぎない、「人間も、地球の平穏を乱せば容赦なく捨てられるだろう。」とバッサリ切り捨て、いかに人間がちっぽけで思い上がった存在かを説いた本。一言で言えば「人間調子乗るなよ」っていう本。正直身も蓋もないし、夢もかけらもないダークな本だけど、謙虚な気持ちにさせてくれる本でした。面白かったです。

印象的なパート:

ほとんどすべてに近い哲学、あらかたの宗教、それに、大半の科学が人類の救済に飽くなき関心を寄せ、危機意識を募らせていると公言する。だが、唯我論を放棄すれば、人類は動物である人間の運命をさほどに思い煩うことはない。人類の安寧と平静は内向する自愛ではなく、ロビンソン・ジェフ アーズがその詩「救世主に関する瞑想」に言う「人類の彼岸に目を向ける」ことにあるのである。 貪食人は無数に存在する種のひとつにすぎず、明らかに、保護するには価しない。遅かれ早かれ、 人類は滅亡する。そのとき、地球はよみがえることだろう。人間という名の動物の最後の痕跡が掻き消えてよりはるか後、人類が血眼になって絶滅しようとした種の多くは生き延びて、遅れてきた新しい種とともに繁栄を誇っているにちがいない。地球は人類を忘れ去り、生命の饗宴はなおつづく。

わらの犬 ジョン・グレイ P.159 

もう闇堕ちしたグレタだろこれ。

EV.Cafe 超進化論 村上龍、坂本龍一

大学の授業である先生がお勧めしていて、面白そうだったので買ってみた一冊。言い方を選ばずいうとスノッビーな文化人があーだこーだ語る本という感じ。この頃の坂本龍一尖ってんな〜って思いながら読んでました。あと彼の音楽への向き合い方も面白い。ただいうまでもなく、教養のある人々による対談本だから、いろいろ考えさせられるし、示唆に富む本でした。章ごとに各分野の代表的な研究者を呼んで対談してて、面白かったですね(正直当たり外れはあったけど)。個人的にはサル学の権威である河合雅雄さんと二人の対談が面白かったですね。

印象に残ったパート:

吉本(注:吉本隆明氏) あなたの知識・教養とかいうものと、あなたが考える音とは、自分の中では水と油みたいに分離されていることになりかねますかね。

坂本 そうです。セパレートされているみたい。言葉の部分による自意識っていうのは本当に安直に、例えばを本を読めば言葉によってどんどん刺激を受けて変形もされていくんだだけども、音楽の部分の自意識と仮に言ったとして、そこの部分はいくら政治があったり感動する小説があったりしても、変形しないですね。音楽の自意識は音楽によってだけ変形し いくんです。言葉の自意識と、音の自意識と仮に言ったして、その二つはセパレートされてあるみたいですね。

吉本 あなたは、ほかの人たちの作詞で作曲しているのがあるでしょう。そういう場合の言葉に対する音の関係はどうなるわけですか。

坂本 難しいですね。僕にとっては、基本的には言葉は要らないんですね。

吉本 要するに、作詞の言葉はあってもなくてもいいんですね。

坂本 僕の音楽作品に対する価値っていうのは、言葉の部分ではあまり左右されないんですよね。

村上 無視するんだろう? どんな言葉でも関係ないんじゃないの?

坂本 そう。それが基本的にはあるわけ。

EV.Cafe 超進化論 村上龍、坂本龍一 P48 

個人的な印象としては、坂本龍一は歌声も楽器の一つとして扱っているのかなって。現代の洋楽(ポップ)的、そしてオートチューンを使ったヒップホップの考え方にも通ずる部分がある気がしますね。(もし本人がこれ読んだら否定するしブチ切れると思うけど)

恥知らずのパープルヘイズ 上遠野浩平、荒木飛呂彦

ジョジョの奇妙な冒険シリーズ第5部のスピンオフ小説ですね。通称恥パ。
たまたま寄った本屋に置いていたので、ジョジョファンとしては読まねばッ!という気持ちになり購入。本編では早々に退場してしまったフーゴにスポットライトを当てた作品で、著者は「ブギーポップは笑わない」で有名な上遠野浩平です。感想ですが、この作品のフーゴの扱いは解釈一致。あとフーゴがミッションを終えた後の後日譚に他の5部メンバーの回想とか出てくるのが良かった。あと毎度の事ながらラスボス(ドーピングニキ)の能力チートだろ。

印象的なパート

「危険なことは他人に押しつけて、自分は安全なところから高みの見物を決め込む――あわよくばオコボレを頂戴しようとして、状況をいたずらにかき回す——自分では責任を取ろうとはせずに。おまえのようなヤツがいるから、世界は歪んでしまうのだ。そのねじ曲がった人生を、今――このヴラディミール・コカキが絶ってくれる」

恥知らずのパープルヘイズ 上遠野浩平、荒木飛呂彦 P155,156

ジョジョって悪役だろうが脇役だろうが、それぞれの哲学をもってて、それをカッコよく言わせるのが魅力の一つだと思うんですよね。そこにシビれる!あこがれるゥ!
だからこれ読んでる人、これだけ覚えて帰ってください。ジョジョはバイブル。

金は払う、冒険は愉快だ。 川井俊夫

古道具屋を営んでいる著者による私小説。独特の文体、そして言うなれば野生味があって愚直な著者の個性が全面に押し出ていて、めっちゃ面白かったです。強烈な読書体験になる事間違いなし。

印象に残ったパート

こいつは詐欺師のジジィだ。間違いない。道具屋を専門にしてる詐欺師というのは 昔からいくらでもいて、その手口や逸話を語り出したらキリがない。そして目の前のこいつは詐欺師だ。いきなり店にやってきて、亡くなった伯母が旅館をやっていただとか、死んだ親父が古銭を収集していただとか、とにかくクソみたいな能書きを垂れ流し、贋物や化粧した安物のゴミを持ち込み、さらに「家にはまだいろいろなものがある」と吐かす。(中略)だが今どきのオレオレ詐欺よりリスクは小さい。なにしろ絶対に警察の世話にはならない。違法行為はしてないからな。リスクがあるとすれば、イカれた道具屋に殴り殺されるかも知れない、ということくらいだ。

金は払う、冒険は愉快だ。 川井俊夫 P101,102

終始こんな具合で、文体は平たくて、頭にスッと入ってくるけど、入りやすい分、言葉の強さで拳を食らったような感覚になる。良書。

私たちはどこから来て、どこへ行くのか 宮台真司

日本を代表する社会学者の一人である宮台真司氏による一冊。恥ずかしながら、なんとなく食わず嫌いでこの人の言説を避けていたのですが、読んでみるとめっちゃ面白い。宮台さんらしく、独自の用語や解釈をポンポン出してくるからついていくのは少し大変だけど、この人の論ずるフィールドや見識の深さにはただただ驚かされます。そしてこれが社会学者のあるべき姿だなって思うんです。物事をミクロで深く捉えた上で、マクロな視点にも耐えうる言説を創る。もっとも、システマティックに、そして断定的に論ずるが故にズれてるんじゃないかというポイントもあったりするけど、社会学を学ぶ者として、この「深く、狭く」というこの姿勢は尊敬します。(だからこそ最近の姿勢が残念でならないとも思ってしまう)

印象的なパート

99年にはテクノ系のクラブが大ブームになって、質が変化します。それまでは入りにくかったクラブが、イケてない高校生や予備校生や大学生が一人でやってきて踊れる場所になりました。(中略)ディスコは非日常的なハレの場で、ナンパ名所ですが、クラブは日常的な癒しの場で、ナンパは当時御法度で、仲間と寛ぐ場所。 ディスコはポストモダンな装飾満載のハコを売りにする場所ですが、クラブはビルの地下にあって薄暗く、ハコに煌びやかさはない。ディスコは着飾って出かけるハイテンションな場所ですが、クラブは普段着のまま訪れてまったり寛ぐ場所です。(中略)クラブはまさに「解放区」でした。インタビューに応じて少女が言います。 家では親が望む 「いい子」を演じ、学校でも朝挨拶して適当に話を合わせてバイバイする。どちらも本当の自分とは関係がない。 家の時間も学校の時間も無価値で無意味だ。それがクラブに来ると本当の自分に戻れる。 家や学校で緊張していたのが、クラブで初めてリラックスできる。そう、彼女らにとって、家や学校が非日常で、クラブこそが日常だったわけです。

(宮台,2017:67-69) 

個人的には、サブカルについて論じた章の中で、2000年代、謂わゆるナイトクラブに変革が起き、それまでは入りにくかったクラブが、イケてない高校生や予備校生や大学生が一人でやってきて踊れる場所になり、日常的な癒しの場となることで、こうしたクラブが彼ら彼女らの日常の場となり、家や学校が非日常となる。と説いたこの上記のパートが面白かったですね。これほんまけ??って思って、クラブ行ってる友達の何人かに聞いてみると、当たらずも遠からずといった具合に、こうしたクラブがある意味でそうした側面を持っていることがわかって、やっぱり彼の研究は緻密で面白いなって思いました。あと最近不倫スキャンダルで騒がれてるけどこれ読んだら「だろうな」って感想しか湧かなかったよ

音楽は自由にする 坂本龍一

本屋で追悼として置かれていたので購入。もともとあまり彼の音楽も知らなかったのですが、「教授」の半生や考え方が詰め込まれていて、面白かったです。あと、彼の気難しい拘り、例えば、「これはこうでなければならない」とか、在るモノに対する強烈な嫌悪感や、反抗心が自分にソックリで、結構共感できました。(僕がめんどくさい人間ていうのがバレてしまうな)

印象に残ったパート

(前略)そういう死を、どう考えたらいいのかは、わかりません。ただ、そういう親しい人が死ぬと、いかに人間と人間は遠いか、いかに自分はその人のことを知らなかったかということを思い知らされます。生きている時は、お互い適当にしゃべったりすることもできるから、なんだか相手のことを分かったような気になっている。でも、その人が死んだとき、まったくそうでないことがわかる。いつもそうですね。僕の場合は。

音楽は自由にする 坂本龍一 P153

あまり本筋には関係ないパートなんですけど、僕はこの言葉がすごく響いて、しばらく考えさせられました。まだこうした死別は経験したことはないけど、いつかはくるものだし、死別でなくても何かの拍子に、いかに相手のことを知っていた”つもり”だったのかと思わせるモーメントが多々あって、その度に分かったような気でいた自分が嫌になる。これも学びですよね。

ちなみに坂本龍一の好きな曲はこれです。

音を組み立てて構成しているのがいい感じ。そしてメロディーセンスが天才。あとE.VCafeにもあったように、ナレーションや歌声も割かし適当というか、とりあえず嵌め込んでみた感じも嫌いじゃない。

バウハウス百年百図譜 伊藤俊治

バウハウスデザインがもともと好きだったのですが、改めて勉強したいなとおもって購入。この本はバウハウスのデザインだけでなく、それを取り巻く歴史、思想、哲学や学校としてのバウハウスについても網羅しており、勉強になりました。如何にバウハウスという思想が現代のプロダクトデザインや建築に影響を与えているかも学べて、面白かったですね。ただバウハウス的な美しさを持つものはごく少数だなとも。ちなみに、個人的に好きなバウハウスプロダクトはマルセルブロイヤーのワシリーチェアです。これ世界最初のスチールパイプ椅子なんですけど、そうとは思えないカッコ良さがあるんですよね。

印象に残ったパート

良いデザインの10箇条
 (前略)その指導のもとにブラウン社の製品デザインを統括する優秀なプロダクト・デザイナーとして育ったのが、よく知られているディーター・ラムスである。ラムスには、「良いデザインを生み出す10箇条」という有名なポリシーがあるが、その方向性は、たしかにバウハウスやウルムのスタイルとシンクロする。

①良いデザインは革新である
②良いデザインは謙虚である
③良いデザインは誠実である
④良いデザインは細部に回帰する
⑤良いデザインは環境と共にある
⑥良いデザインは実用的だ
⑦良いデザインは美しい
⑧良いデザインはわかりやすい
⑨良いデザインは抑制されている
⑩良いデザインは長生きする

バウハウス百年百図譜 伊藤俊治 P56,57

バウハウスデザインの名作って呼ばれるモノの特徴って、シンプルだけどつまらない訳では決してないんですよね。これぞ機能美というか。

紀州のドンファン殺害「真犯人」の正体 ゴーストライターが見た全真相 吉田隆

最後に紹介したいのはこの本。何故今??という感じですが、少し前にこの動画をYoutubeで視聴したのをきっかけで買ってみました。

この動画もそうですが、この人のエピソードトークする動画、めちゃくちゃ面白いんでぜひ見てください。

この本の解説に入りますと、もともとこの本の著者は大韓航空機爆破テロ事件の犯人(北朝鮮のスパイ)の居場所を突き止めたりしている凄腕の週刊誌記者で、あるきっかけから紀州のドンファンと仕事・プライベートを超えた関係を築いていたのですが、その矢先に事件が起きてしまった、という経緯です。この本の出版時点では犯人とされている奥さんは逮捕されていなかったのですが、それをうかがわせる描写や背後にいる存在がほのめかされていて、かなり闇が深い事件だなと。あと単純にドン・ファンが規格外すぎる人間なんで、随所に挟まる彼の話が面白かったです。

印象に残ったパート

(前略)
彼女がドン・ファンを深く愛していたとは、私も思わない。だが、顔も見たくないほど憎んでいたとも思えない。
 彼女が言っていた言葉で、印象に残ったものがある。 「私、一生楽をして生きていきたいんですよねー」
 殺人を犯して、警察の捜査に怯えながら生きるのは、けっして楽な生き方ではない。待っていれば亡くなるだろうドン・ファンを、結婚3ヵ月で殺すという選択は、 彼女にいかにも似合わないのだ。少なくとも、自分の意思で殺害を計画し、実行に移していたとは思えない。 もう一つ、事件直後から私が様々に探りを入れる質問をしてきたが、彼女の目が泳いだことは一度もない、という事実がある。22歳の女性が、殺人を犯しておきながらそんなに堂々としていられるだろうか。これが、彼女と一緒にたくさんの時間を過ごした私の感想である。

紀州のドンファン殺害「真犯人」の正体 吉田隆 P246,247

 前述のとおり、当時22歳だったドンファンの妻が逮捕される前に記された本なんですけど、僕も本を読み通して思ったこととして、「これ奥さんの背後に誰かしらいるのでは???」って思ったんですよね。

 そしてこれ以外にもアプリコ(ドンファンの会社)の取締役で友人とされている人物が突然、「ドンファンの遺言書を持ってる」と主張し始めて法廷で揉めたり、さっちゃん(逮捕された妻)が事件前から付き合いのあった、ある弁護士事務所が金銭目当てに、事件後に遺産整理や、「釈明のために一緒に出よう」と番組(バイキング)の出演をそそのかして事件に介入してきたり、ほかにも社長が脱税目的で隠していた現金2億円が事件後に会社の金庫から消えていたりと、あまりにも不可解な出来事が周りで多発してるんですよね。陳腐な感想ですが、お金は人を変えるんやなって。

小括

 もともと一本の記事にする予定だったのですが、あまりにも長くなってしまったので、前後編にまとめることにしました。自分自身本を読む時期に波があるんで、あれ、これ読んだっけ??ってなったものや、ほとんど内容を忘れてしまったものもあったんで、再確認もかねて読み直したものもいくつかありました。ここで紹介した本は万人受けするものは多くないですが、自信をもってお勧めできる本ばかりです。特に「わらの犬」,「金は払う、冒険は愉快だ」,「私たちはどこからきて、どこへ行くのか」あたりはぜひ読んでみてください。それでは。


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