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48「詩」キリエ

その時の男の瞳を忘れることができない
みすぼらしい男に
なにひとつ奇跡など起こせなかった
ただ怯えた犬の目をして
人間を憐れむことしかできなかった
憐れみは
人間の汚れた部分にただ
静かに降り積もり
汚れた部分を包んだ
包まれた汚れが
そのままのかたちで天に昇った
男にはそれしか出来なかった

あなたを許します

ひとつのことばによって
生きてみようと歩き出す人間がいる
みんな大切なものが違うのだ
そんなこと分かっているはずなのに 
やっぱりいちばん大切なものは
確かにあるような気がする

その時の男の瞳に映っていた自分を
思い浮かべる

思い 言葉 怠り 私の罪をお許しください

怠り
祈りのなかのことばが
私の罪を裁いている

憐れみは裁かれた罪の上に降り積もる
少しずつ
少しずつ
そのまま
降り積もってなにも見えなくなるまで
その男はただ悲しい瞳で見ている






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