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【トンデモ歯゛スターズ】フッ素はナチスも使った最恐の毒物?

フッ化物が虫歯予防に効果があるという事は広く知られていますが、今なお「フッ素は毒である」「ナチスが水の中にフッ素を入れてユダヤ人に飲ませ、コントロールしようとしていた」など、根強い反対論があるのも事実です。エビデンスに基づく見解ではこの情報はどのように判断できるのでしょうか?

本記事では「フッ素はナチスも使った最恐の毒物?」について検証します。

執筆:気まぐれ歯科情報ななめ読み
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー
(見出し画像:akina先生@nakixa)

トンデモ歯゛スターズ的結論

フッ化物は世界中の公的機関が安全性と虫歯予防に対する有効性を認めている。したがって、フッ化物の応用は科学的根拠に基づく最も有効な虫歯予防法の1つである。

参考としたエビデンス

フッ化物に関する公的機関のステイトメント(う蝕治療ガイドライン 第3版 根面う蝕の診療ガイドラインより)

①WHO

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②FDI(世界歯科医師連盟)

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③CDC

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NHS(イギリスの国民保健サービス)のフッ化物に関するページ

内容の抜粋(DeepLで翻訳)


フッ化物が様々な健康状態と関連しているのではないかという懸念がある。しかし、これまでの調査では、これらの懸念を裏付ける説得力のある証拠は見つかっていない
しかし、歯のフッ素症と呼ばれる症状は、子供の歯が成長する過程でフッ素を過剰に摂取した場合に発生することがあります。
軽度の歯のフッ素症は、歯の表面に非常に細かい真珠のような白い線や斑点として見ることができます。重度のフッ素症は、歯のエナメル質が穴だらけになったり、変色したりします。
英国では、歯の外観に深刻な影響を与えるほどフッ素症が重症化することはまれである。これは、飲料水検査局(DWI)が水中のフッ化物レベルを注意深くモニターし、必要に応じて調整しているためである。

NIH(アメリカ国立衛生研究所)のフッ化物に関するページ

1日当たりのフッ化物摂取の上限量

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食べ物に含まれるフッ化物の量(一部抜粋)

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トンデモ歯゛スターズ的見解

フッ化物の安全性については、科学的根拠に基づいた解説が公的機関などから多く発信されています。
https://www.jda.or.jp/park/prevent/index05.html#01
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-006.html
http://manamidentaloffice.g2.xrea.com/fluoridationfacts2018.html#Q17
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=445370
http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/statement/sub/statement_20190818.html


これらの情報を総括すると、

「IQ低下や基礎疾患などとフッ化物の関連を報告した論文などは、これらの疾患を引き起こす他の要因との関連が考慮されていなかったり不適切な研究方法で得られた結果であり、因果関係を証明したものは1つも存在しない

ということになります。

また、ナチスがフッ素を水に入れてユダヤ人をコントロールしたという噂も、ホロコーストミュージアムまで調査を行った結果、そのような事実は存在しなかったということで完全に否定されています。


今回の検証では具体的な科学的根拠に基づいたフッ化物の安全性は上記を参考にして頂き、なぜ根強い反フッ素の論調があるのかを3つの誤解を取り上げて考えてみたいと思います。

①フッ素自体に対する誤解

まず、絶対に押さえておく必要があるものとして

虫歯予防に使われるフッ素はフッ化物である

ということがあります。

え?一緒じゃないの?と思われますよね?
厚労省の運営するサイトからの発信を基に、この違いを見てみましょう。

「フッ素元素の陰イオン(F-)の状態にあるものをフッ化物イオンまたはフッ化物といいます。厳密には、フッ化物イオンが含まれる化合物をフッ化物と呼びます。」

つまり、ざっくり言うとフッ素は1人で存在しているときの名前、フッ化物は他の誰かとくっついた時の名前という感じです(厳密にはフッ素、フッ化物、フッ素化合物という分け方もできます)。

実はフッ素は1人でいる時は安定しないため、反応性が高く毒性も高いです。
マーベルで言うところのハルク的なポジションですね。

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ただ、フッ化物の状態であれば非常に安定しており、ナトリウムとフッ素がくっついたフッ化ナトリウムという状態では、虫歯予防に対して非常に効果的に働いてくれます。

しかし残念ながらこのハルク状態の印象を強く持っている方にとっては

フッ素は危険だ!

となってしまうのでしょう。

でもハルクはアベンジャーズでも大活躍ですよね?
ちゃんと評価してほしいものです。

②「量」対する誤解

世の中には何事も「適度に」と言われます。


良いものでも採れば採るほど効果が上がるものではないですし、むしろ悪い面も出てきます。

生きるために必要なであっても、採り過ぎると水中毒という状態になり最悪の場合死亡してしまう可能性もあります。
http://www.doyaku.or.jp/guidance/data/50.pdf

当然フッ化物も摂り過ぎれば害があります。
具体的な量が気になる方はこちらをご参照ください。

そのため、1日当たりのフッ化物摂取の上限量が定められており、この量が一つの目安になっています。

トンバス_フッ素

イラスト作成:akina先生@nakixa

例えば1000ppmのフッ化物配合歯磨剤には、1g中に1mgのフッ化物が含まれています。
1gは歯ブラシの2/3程度の長さ分です。
成人の上限量である1日辺り10mgに達するためには、10回フッ化物配合歯磨剤を全部飲み込んでやっと達する程度です。

全部飲み込むってのはそういうプレイでもしない限りあり得ません
(ちなみに通常の歯みがきでの飲み込み量は、その10%から20%とされ、飲み込み量は0.2mg以下とされています。ソース

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また、急性中毒としては1kgあたり2mgのフッ化物を摂取した場合に発生するとされています。
体重60kgの方であれば、フッ化物を120mg摂取した場合に発生するという事です。

ちなみに大きさ中(65g程度)のフッ化物配合歯磨剤(1,000ppm)を1本食べた場合のフッ化物摂取量は65mgです(ソース)。
つまり、フッ化物配合歯磨剤のチューブを2本くらい一気飲みすると急性中毒が発生するという事です。

ど変態プレイですね。

したがって、成人ではフッ化物の害が生じる危険性は極めて低いと言えるでしょう。

ただ、子供ではフッ化物を過剰に摂取することによって歯の見た目に影響(歯のフッ素症)が発生するリスクはあります。そのため、適切なフッ化物配合歯磨剤の使用方法を含め、定期的に歯科医院でチェックを受ける必要があります。
参考
https://twitter.com/Moody_Dent_Info/status/1352139236053450752

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③公的機関の発信は信用できないという誤解

フッ素は危険だと考えている方は、反フッ素を唱える歯科関係者や信頼性の乏しいSNS上の情報を根拠としていることが多いです。
しかし、世界中の健康に関わる公的機関においてフッ化物は危険だとしている発信は存在しません
それにも関わらず、なぜフッ化物は危険だという考えがなくならないのでしょうか?

これは

「科学的根拠よりも感情を信じる」

という思想が影響しているように思います。
科学的根拠のレベルで言えば、数人の歯科関係者やSNS上の情報よりも公的機関の発信の方が信頼性が高いのは明らかです。
しかしながら、一度周りのママ友や親しい友人などから

「フッ素ってナチスが使っていた位危ないものらしいよ」

という話を聞くと、科学的根拠よりも自分が信頼している人が言っていたという感情が優先し、公的機関からの安全だという発信を見ても

「危険だという真実を隠している
「企業に忖度して都合の悪いことを言うわけがない

などという考え方に陥ってしまう危険性があるのでしょう。


また、自分の考えに合うような情報ばかりを無意識的に集めてしまう確証バイアスも起こりがちです。
https://kotobank.jp/word/%E7%A2%BA%E8%A8%BC%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9-677195

こうなってしまうと、数字を用いた科学的根拠で説明しても

「信用できない」

という感情が勝ってしまい、議論は常に平行線のままです。

実際、フッ素推進派と反対派の戦いは日本のみならず、世界中で数十年に渡って続いていますが、残念ながら収束の兆しは見えていませんし、これからも続くのでしょう。

もちろん、フッ化物は必ず虫歯を0にできる魔法の方法ではありません
なぜなら、虫歯は様々な要因が関わりあって発生する病気であり、1つの穴を塞いでも他の穴から発生する可能性があるからです。

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出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-001.html

実際、虫歯はこのように複雑な要因が関わりあっています


したがって、複数の方法を組み合わせることによって全体のリスクを下げていくことが必要になります。
ただ、残念なことに完全に虫歯予防をすることは、砂糖を全くとらないなどの非現実的な方法を取らない限り不可能な事なのです。

しかし、このような複数の要因が関わりあっている中で、フッ化物を有効に使うことで虫歯リスクを大きく下げられること科学的に証明されています。

また、過去数十年間にわたり世界中でフッ化物が使われてきたことで、リスクについても十分に検証が行われているのです。

フッ化物を使用することに関しては個人の選択権がありますが、虫歯予防の分野でフッ化物ほど科学的根拠が確立した予防方法はありません

SNS上に蔓延る怪しげな虫歯予防法は、フッ化物ほどの科学的な検証はされておらず、また長期で行った場合のリスクや危険性についても検討されていないものが多いのです。

それでもフッ化物を使わないという選択をして、根拠の乏しい虫歯予防方法を行うのは個人の自由です。
ただ、他人にもフッ化物を使わせないようにするということは

他の方々の虫歯予防の機会を奪う行為

ですので、フッ化物に対して疑問を持つ方は、「フッ化物を使わないように!」と発信する前に、是非下記の団体へお問い合わせ頂ければと思います。

WHO:https://www.who.int/about/contact-us
FDI(世界歯科医師連盟):https://www.fdiworlddental.org/contact
CDC:https://www.cdc.gov/cdc-info/index.html

フッ化物に対する誤解がなくなり、虫歯予防に対するメリットを最大限活かすことで、誰もが

「虫歯で悩まないで楽しく生活できる」

ことを願っています。

トンデモ歯゛スターズの活動は、基本的に全てボランティアで行っております。本活動を持続可能なシステムにしていきたいと考えておりますので、是非ご支援いただけると幸いです。