【トンデモ歯゛スターズ】矯正するとむし歯予防になる?
「歯並びが悪いと虫歯になりやすい」という考えは正しいのでしょうか。確かに歯並びがきれいになれば歯磨きもしやすくなるため、むし歯予防に繋がるようにも思えます。また、実際に矯正専門医がむし歯や歯周病の予防に矯正が効果的であると発信している場面も見られますが、エビデンスに基づく見解ではこの情報はどのように判断できるのでしょうか。
本記事では「矯正するとむし歯予防になる?」について検証します。
執筆:予防戦隊カリオロジャー(ブルー)
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー
(見出し画像:akina先生@nakixa)
トンデモ歯゛スターズ的結論
矯正治療でむし歯になりにくくなるかどうかは現時点で分かっていない。
参考としたエビデンス
The influence of orthodontic treatment on dental caries: An Australian cohort study
内容の抜粋
「30歳の南オーストラリア人448名のむし歯の罹患率は矯正治療を受けていてもいなくても統計的に有意な差はなかった。」
トンデモ歯゛スターズ的見解
上記研究著者らは、「矯正治療がむし歯を予防するという誤解が患者の中にあるが、そうではない」としています。
https://www.adelaide.edu.au/news/news104442.html
「歯並びがきれいならプラークも落としやすくなるから虫歯予防になる!」
と思ってしまうものですが、なぜこのような結果が示されているのでしょうか?
イラスト作成:akina先生@nakixa
参考文献:https://www.karger.com/Article/Abstract/77753
むし歯の発生にはたくさんの要素が関わっており、おそらく歯並びそのもののむし歯の発生に対する影響はあまり大きくないということでしょう。
ブラッシング習慣や食習慣、フッ化物の応用等、基本的なむし歯予防策のほうが重要性が高いと思われます。
矯正治療における歯並び以外の要素、たとえば日本では原則自費診療となる矯正治療を希望する患者さんが歯に対する意識がもともと高かったり、労力をかけて治した歯並びをその後も維持したいといった気持ちから、上記のようなむし歯に予防的な行動をとる可能性はありえます。
もっと分かりやすく言えば、モテるために見た目をいくら整えたとしても中身も一緒に変えていかないと二人の関係は長く続きませんよね?
つまり、
外見(矯正)と中身(食習慣などその他のむし歯の要因)もセットで変えていく
ことで、持続可能な関係が維持できるわけです。
むし歯の話に戻ると、
歯並びもむし歯に関連する要因の1つではある
と考えられますが、他の要因の方が寄与する度合いが大きいため、歯並びだけ治したとしてもむし歯の予防になるとは言えないと解釈することができます。
また、以下のレビューにおいても、歯並びが悪いこととむし歯の発生の関連を示す質の高い研究はないとしています。
ちなみにスウェーデンでは、矯正治療と健康について広範なレビューが行われています。
様々な要素が関わるため、いずれも強固な結論としていえるほど質の高い研究ではありませんが、むし歯予防のために矯正治療を行うことを正当化する根拠は、現時点ではなさそうです。
むしろ矯正治療中は装置によってはプラークのたまりやすい状態になるので、通常よりむし歯になりやすい状況になります。
プラークコントロールが不良な場合や、むし歯リスクが高いと思われる状況で矯正治療を開始することは危険を伴うでしょう。
矯正治療は高額で長期的な治療です。科学的根拠に基づく適切な情報提供を行う信頼のできる歯科医師のもとで治療を受けることが望ましいでしょう。
現時点での科学的根拠に基づいた解釈からは、矯正治療はむし歯予防にならないとしても、審美的な改善を行うメリットに変わりはありません。
なお、先述の通りむし歯の発生には様々な要素が関わる上に、実はむし歯は歯ブラシの毛先が届かないような部分から発生することも多いため、ブラッシングだけでむし歯予防を行うことは困難です。
歯科医院でご自身の状態を把握し、歯並びや矯正治療の経験の有無に関わらず、ブラッシング習慣や食習慣、フッ化物の応用等の基本的なむし歯予防策で歯を守りましょう!
編集履歴
2021/12/4:むし歯に関わる様々な要因の参考文献を追加
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