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【トンデモ歯゛スターズ】研磨剤入りの歯磨き粉は超危険?

 「研磨剤」という言葉を聞くと、物を削ってしまう成分だなと思ってしまうものです。実は歯磨き粉にも研磨剤という成分が含まれています。歯磨き粉の研磨剤について検索してみると、「研磨剤は歯を削るのでよくない」「必ず研磨剤無配合の歯磨き粉を使うべき」との発信が散見されます。エビデンスに基づく見解では、このような情報はどのように判断できるのでしょうか?

本記事では「研磨剤入りの歯磨き粉は超危険?」について検証します。

執筆:気まぐれ歯科情報ななめ読み
チェック:2名以上のトンデモ歯゛スターズメンバー
(見出し画像:akina先生@nakixa)

トンデモ歯゛スターズ的結論

研磨剤は「RDA」という基準によって安全性が確認された物が市販されており、研磨剤入りの歯磨き粉が歯の摩耗に与える影響は非常に小さいと考えられる

参考としたエビデンス

①日本歯磨工業会のQ&A

抜粋
「歯磨(注:歯磨き粉のこと)の磨耗性が歯の磨耗に及ぼす影響は小さく、むしろブラッシングのときの圧力や歯ブラシの硬さのほうが影響が大きいのです。1995年にISOで「歯磨剤の物性と安全性」に関する国際規格が設定され、現在市販されている歯磨は、この国際規格(研磨力が250以下)を満たしています。」

②アメリカ歯科医師会の歯磨き粉についての発信

抜粋
・研磨性の基準としてRelative Dentin Abrasivity (RDA)が世界的に使用されている
RDAの値が250以下であれば、適切な歯ブラシと歯磨き粉を使ってブラッシングを一生涯行っても、象牙質の摩耗は限定的であり、エナメル質に対しては肉眼的には全く摩耗しないと考えられている

③A long term clinical study evaluating the effect of two dentifrices on oral tissues

抜粋
・RDA:460とRDA:260の歯磨き粉を120名に対して4年半使用してもらい、害があるかを調べた
・その結果、2つの歯磨き粉ともに歯肉などの軟組織には害はなく、歯には同程度の摩耗が認められた。
・RDAの値と実際の口の中で起こる摩耗の間には直接的な関係は認められず、歯の摩耗については歯磨き粉の研磨剤以外の要因の方が重要であると考えられる

トンデモ歯゛スターズ的見解


 研磨剤は文字通り削り研ぎ磨くことを目的に歯磨き粉に配合されている成分です。では、なぜこの成分を歯磨き粉に配合する必要があるのでしょうか?
日本歯磨工業会によれば、研磨剤(清掃剤)は「歯の表面を傷つけずに、歯垢やステインなど、歯の表面の汚れを落とす」ために配合されていることが示されています。


 しかし、研磨剤が歯を削り研ぎ磨いてしまうのであれば、当然歯も削れてしまうのではないかと不安になってしまうものです。この不安を解消するためには、

「研磨剤の安全基準」

を知っておくと良いでしょう。

 人生においては何事も適度が大事と言われますが、適度であるか否かを判断するためには基準が非常に重要です。例えば日常生活で広く使われている食塩であっても、50キロの人が150gの食塩を一気に摂取してしまうと半分の人が死んでしまうとされています。これは食塩の量という基準を使って安全か否かを評価していることになります。

では、歯磨き粉の研磨剤の基準はどうなっているのでしょうか?

 歯磨き粉の研磨剤の歴史をまとめた記事によれば、1900年代初頭には歯磨き粉の研磨剤を評価する基準が確立しておらず、砂などが研磨剤として歯磨き粉に含まれており、これは現在の基準に照らし合わせると安全性の基準値の4倍に。歯のエナメル質や象牙質を大きく削り取ってしまう危険がありました。
 その後、実験室において歯磨き粉の研磨性を評価する基準が作られ、非常に硬いエナメル質ではなく、もっと柔らかい象牙質を基準として歯磨き粉の研磨性を評価する基準が確立されたのです。
 この方法が1976年にアメリカ歯科医師会が中心となって発表した

RDA

という基準であり、その後国際的基準であるISOにおいても、歯磨き粉の研磨剤を評価する基準として1995年に採用されています。
 RDAは、象牙質が削る力を100として定義した歯磨き粉に対して、何倍象牙質が摩耗したかを評価しています。例えば基準となるRDA100の歯磨き粉が1という量の象牙質を摩耗させたのに対し、別の歯磨き粉が2という量の象牙質を摩耗させた場合、RDAは200となる仕組みです。

 このRDAを基準として様々な研究が行われた結果、このRDAが250以下であれば一生涯にわたって歯磨きをしてもエナメル質はほとんど摩耗はなく、それよりも柔らかい象牙質であってもわずかな摩耗しか起こさないことが分かり、このRDA250以下であるということが、国際的な歯磨き粉の研磨性の基準となったのです。
 これをうけ、現在日本で一般的に市販されている歯磨き粉は、この

「RDAが250以下」

という基準を満たした製品が販売されています
 したがって、皆さんが使う機会の多い研磨剤入りの歯磨き粉は、歯磨き粉の研磨性に対する国際的な基準に従っていて、安全であることが確認されているものなのです。


 ここまでお読み頂ければ、

研磨剤が入った歯磨き粉であっても、国際的な基準に従っていて安全であることが確認されている

ことがお分かりいただけたかと思います。
 でも、RDAを知ってしまうと、こんなことを思ってしまいませんか?

「RDAが250以下なら安全って言っても、RDAが小さければ小さいほど安全だよね?」
「RDAは分かったけど、歯磨き粉のパッケージにそんな値書いてないじゃん!書いた方がRDAの小さい歯磨き粉を選べるようになるからいいじゃん!」

 実は物事はそう簡単なものではないのです。
この理由について、2つの視点から見てみましょう。

RDAが小さいことは、必ずしも歯へのダメージが小さくなるわけではない
歯の摩耗は歯磨き粉の研磨剤だけで起こるものではない

①RDAが小さいことは、必ずしも歯へのダメージが小さくなるとは言えない

 先ほどRDAは歯磨き粉の研磨性を評価する基準であると述べました。これは基準となる歯磨き粉に対して、調べたい歯磨き粉は相対的にどの程度象牙質を摩耗させたかを評価するものです。しかしながら、このRDAはあくまで

「基準となる歯磨き粉に対してどの程度象牙質が削れたか?」

を評価しているだけであり、研磨剤による傷の深さやダメージを示しているわけではありません
 同じ量が削れたとしても、研磨剤の粒子によっては深い傷を与えている可能性もあるため、「RDAが小さいから安全」とは言えないのです。したがって、RDAの数値の大小を比較するのではなく、「250以下か以上か」のみで判断するべきと考えられています

 試験の合否ラインが60点である時に、59点であっても10点であっても不合格は不合格ですよね?

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RDAはそのような合否の判定としての基準なのです。

 また、アメリカ歯科医師会もRDAの使用にあたっては

「歯磨き粉の安全性のランク付けのために使用するべきではない」


としています。


②歯の摩耗は歯磨き粉の研磨剤だけで起こるものではない

 むし歯や歯周病と同じく、歯の摩耗も様々な要因によって発生します。歯の摩耗には


 1. 歯と歯以外の物が触れることで起きるもの(摩耗)
 2. 歯と歯が触れて起きるもの(咬耗)
 3. 酸性の物と歯が触れることで歯が解けるもの(酸蝕)


などが原因となり、これらをまとめてトゥースウェアと呼ばれます。
この原因を調べた研究では、摩耗つまり研磨剤の入った歯磨き粉単体のみで発生したと思われるトゥースウェアは存在しなかったことが報告されています。

 歯磨き粉の研磨剤に対して安全性の基準が定められていることを考えれば、それ以外の酸性の食品の摂取、食いしばりや歯ぎしり、歯ブラシの不適切な使い方などの影響の方が、研磨剤によって歯が削れることよりも、歯の摩耗に与える影響は大きいと考えられます。また、RDAを測定する時は歯を守ってくれるペリクルという膜の存在を考慮していなかったり、実際に歯磨きをする時よりももっと過酷な状況で実験を行っています。
 したがって、実際の口の中で起こることよりも厳しい条件下で安全性が確認されているのです。

 ここまで述べてきたように、歯の摩耗が気になる方については様々な原因が考えられますので、歯磨き粉の研磨剤を不安に思われる前に、是非一度歯医者さんで何が原因として考えられるのか一度見てもらうとよいでしょう。


 「歯磨き粉の研磨剤によって歯が削れてしまうので使わないほうが良い」という過度に危険性を煽るような情報には踊らされず、安心して研磨剤入りの歯磨き粉を使ってピカピカの歯を手に入れてください!


トンデモ歯゛スターズの活動は、基本的に全てボランティアで行っております。本活動を持続可能なシステムにしていきたいと考えておりますので、是非ご支援いただけると幸いです。