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日本全国写真紀行

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取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。
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#東北

【日本全国写真紀行】40 宮城県気仙沼市唐桑町鮪立

宮城県気仙沼市唐桑町鮪立 南三陸の景勝地にある小さな漁村 宮城県の地図を見ると、北東端に太平洋に少し突き出た小さな半島を見つけることができる。古くから南三陸地方の絶景の地として知られる唐桑半島である。    三方が海に臨む半島は、周囲約50km、リアス式海岸特有の複雑な入江と豪壮な岩壁が多くの観光客を魅了してきた。中でも半島の東側、巨釜や半造といった地域には連続する奇岩があり、唐桑を代表する奇勝として知られている。  これら観光客に人気の東側に対して、半島の西側には島の人々

【日本全国写真紀行】39 山形県西村山郡大江町左沢

山形県西村山郡大江町左沢 最上川舟運で栄えた川港の町 江戸時代、上方や江戸とをつなぐ西廻航路の港として栄えた酒田。その酒田と内陸の米沢をつなぐ最上川舟運航路が開かれたのは元禄七(1694)年のこと。以来、最上川流域の各地域はその恩恵を受けて大いに隆盛した。そのなかの一つが、山形県のほぼ中央、村山平野の西にある大江町左沢である。元禄期には米沢舟屋敷が置かれるなど、大変なにぎわいを見せていたという。  さらに左沢は、街道が集まる陸路交通の要衝でもあったため人の往来も多く、造り酒

【日本全国写真紀行】38 岩手県二戸市浄法寺町

岩手県二戸市浄法寺町世界へ日本の漆文化を発信する漆の里 日本の代表的な工芸品として世界にも知られている漆器。磨かれた木地に漆を何度も塗り重ねることで完成する。漆は、傷をつけた漆の木から滲み出た樹液を集めたものだが、いまの日本では98%が輸入で、国産は全体のわずか2%にすぎない。その国産漆の約6割を生産しているのが、二戸市の浄法寺地区である。  漆が生産できれば、当然のことながら漆器生産も可能となる。幸い二戸には木地となる木材も豊富にあり、漆器生産に携わる木地師、塗り師といった

【日本全国写真紀行】37 秋田県にかほ市象潟町象潟・九十九島

秋田県にかほ市象潟町象潟・九十九島 幻の潟がよみがえる昔ながらの景勝地 今から300年以上前、東北を旅して「奥の細道」を著した歌人・松尾芭蕉。その芭蕉が旅の最終目的地にしたといわれているのが象潟である。真偽の程は定かではないが、松島と並ぶ景勝地として先人の歌人たちを魅了してきた象潟を見たいと強く願っていたことは間違いないらしい。  果たして、念願かなって象潟の風景を見た芭蕉は、こう詠んでその魅力的な風景を絶賛したという。  — 象潟や 雨に西施が ねぶの花 —    (な

【日本全国写真紀行】35 福島県大沼郡昭和村

福島県大沼郡昭和村 自然美、高級織物、木造校舎、魅力満載の昭和村へ 昭和村は会津地方の南西部に位置し、只見川の支流である野尻川の段丘に沿って集落が点在している。周囲を広大な湿原や美しい渓谷に囲まれた、自然美の宝庫だ。昭和2年に野尻村と大芦村が合併して一つの村になったことから、昭和村と名付けられた。人口は1,200人に満たず、福島県で二番目に高齢化率が高い村でもある。  どこまでも広がるのどかな田園と、赤いトタンを被せた茅葺き屋根の農家群を眺めているだけでも十分に心癒される風

【日本全国写真紀行】34 青森県三戸郡三戸町

青森県三戸郡三戸町 「南部氏」と『11ぴきのねこ』と「せんべい」の町 三戸という地は、北奥羽の覇者・南部氏を抜きには語れない。  南部氏は清和源氏の一族で、甲斐国(現在の山梨県)南部郷の出身、建武の新政下で北奥羽奉行となり、北東北へ拠点を移した。一族には三戸南部氏をはじめ八戸氏(根城南部氏)、九戸氏、新田氏などがあり、これらが時により協力し合ったり、あるいは反発したりしながら、主導権を争う小競り合いを繰り返していた。だが戦国時代、群雄割拠の世になると、南部家二十六代当主・信

【日本全国写真紀行】33 山形県東置賜郡川西町玉庭

山形県東置賜郡川西町玉庭 田園と茅葺民家、忘れ得ぬ農村の原風景 何気なく通りかかった場所で、忘れられぬ風景に出会うことがある。山形県川西町の玉庭という小さな農村集落は、そんな場所の一つだった。点在する茅葺民家と広がる田園風景、その見事な構図にしばし時間を忘れて見入ってしまった。  川西町は、山形県南部、置賜盆地のほぼ中央にあり、人口約15,000人の小さな町である。この町の南、米沢市と隣接するのが玉庭地区である。  玉庭地区を走る県道八号線を米沢方面へ南下していた。玉庭小学

【日本全国写真紀行】 32 宮城県塩釜市浦戸寒風沢

宮城県塩釜市浦戸寒風沢 仙台藩の海運を支えた浦戸諸島の島々 江戸時代、東北を旅した松尾芭蕉が奥州行脚の最大の目的地としていたといわれる松島。海に浮かぶ三百近くの島影による絶景は、今もなお多くの人々の心を魅了している。この数多くの島々の中で有人島はわずか四島。その四島をふくめた松島湾の湾口部の島嶼群は浦戸諸島と呼ばれている。ほとんどの島が塩釜市になっているが、一部の島々は宮城郡の七ヶ浜町に属している。浦戸という地名は、「松島浦の門戸」の地であることに由来したもので、かつては浦

【日本全国写真紀行】 29 岩手県一関市藤沢町大籠

岩手県一関市藤沢町大籠 自由と誇りを歴史に刻むキリシタンの里 岩手県の最南端、宮城県との県境にある一関市藤沢町。その町に大籠という小さな集落がある。江戸時代、たたら製鉄の地として栄えた場所で、当時この地を領有していた仙台伊達藩の保護を受けていた。だが、鉄の生産量が思うように伸びなかったため、技術指導を乞うために備中国(現岡山県)からたたら製鉄の技術者を招いた。この技術者がキリシタンだった。鉄の生産量が順調に増えるとともに、村にはキリスト教信者が増え、最盛期には三万人にも達し