マガジンのカバー画像

日本全国写真紀行

59
取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。
運営しているクリエイター

#日本

【日本全国写真紀行】38 岩手県二戸市浄法寺町

岩手県二戸市浄法寺町世界へ日本の漆文化を発信する漆の里 日本の代表的な工芸品として世界にも知られている漆器。磨かれた木地に漆を何度も塗り重ねることで完成する。漆は、傷をつけた漆の木から滲み出た樹液を集めたものだが、いまの日本では98%が輸入で、国産は全体のわずか2%にすぎない。その国産漆の約6割を生産しているのが、二戸市の浄法寺地区である。  漆が生産できれば、当然のことながら漆器生産も可能となる。幸い二戸には木地となる木材も豊富にあり、漆器生産に携わる木地師、塗り師といった

【日本全国写真紀行】 31 埼玉県秩父郡東秩父村

埼玉県秩父郡東秩父村 和紙づくりの伝統を守り続ける県内唯一の村 日本が世界に誇る技術の一つに、手漉き和紙技術がある。文字どおり和紙をつくる技術で、熟練した手技によって生み出された和紙は洋紙よりもはるかに強く、ヨーロッパの美術館では絵画の修復にも用いられている。まさにものづくり日本を象徴するものといえるだろう。  和紙は古くから日本各地でつくられてきたが、中でもその技術が卓越しているとして2014年にユネスコ無形文化遺産に登録された三紙がある。島根県浜田市の石州半紙、岐阜県美

【日本全国写真紀行】 24 千葉県銚子市外川町外川

千葉県銚子市外川町外川紀州の漁民が拓いた、一大漁港の夢のあと銚子の漁業は、関西、特に紀州の漁師たちによって発展した、ということをご存知だろうか。  紀州和歌山は都に近く、造船や航海術、漁法が発達していたが、土地の九割が山地で農業が発達しなかったこと、また近世に入って漁獲物の需要が増大したことなどから、漁民たちは豊かな漁場を求めて、東は東北へ、西は五島列島まで遠征する「旅漁」を行なっていた。「旅漁」とは、船に漁具のほか生活用具一式をのせて一隻に16名ほどの漁師が乗り込み、各地の

【日本全国写真紀行】22 栃木県那須郡那珂川町小砂

栃木県那須郡那珂川町小砂森と樹々と水田と素朴な焼き物、郷愁をそそる美しい村栃木県の北東、那珂川町の北部に位置する小砂地区は、本当に美しい村である。人口は約800人。総面積の64パーセントが森林で覆われた山間の村で、八つの小さな集落で構成されている。 とにかく絵になる風景が連続している村で、各集落を包む緑の濃淡がひたすら美しく、それが水田に光り輝きながら映る光景は、心のどこかに潜んでいる郷愁を呼び起こすのだろうか、いつまで見ていても見飽きない。日本の山里は、やはりどこの国よりも

【日本全国写真紀行】21 茨城県常陸太田市

茨城県常陸太田市 七つの坂と路地を楽しむぶらり歩きの街茨城県北部にある常陸太田市に、鯨の形状をした丘がある。かつて、この地を支配した戦国大名佐竹氏はこの丘に町をつくり、太田城の城下町をつくりあげていった。 その後、江戸時代に佐竹氏が秋田へ国替えになると、城は廃城となり、当然のことながら城下町も廃れていくかと思われた。ところが、その町は水戸と福島の棚倉を結ぶ棚倉街道がとおり、さらに水戸や那珂湊へ送る物資の集積地だったため、商家が林立する商家街に生まれ変わっていった。それが鯨ヶ

【日本全国写真紀行】17 東京都品川区北品川・東品川

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。 東京都品川区北品川・東品川 旅人の思いが交差する江戸の玄関口 日本橋から約8km、東海道第一の宿が品川宿である。「お江戸日本橋七つ立ち〜」と唄われたように、夜明け前に日本橋を出た旅人たちが、昇る朝陽を見ながら江戸に別れを告げる場所でもあった。 旅人を見送る人、迎える人で品川宿は一日中にぎわいを見せ、江戸においては

【日本全国写真紀行】16 鳥取県岩美郡岩美町網代

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。 鳥取県岩美郡岩美町網代 山陰地方の古い漁村の風情が今も残る漁師町  山陰地方を代表する冬の味覚といえば「松葉ガニ」である。日本海の荒波に揉まれて育った蟹は身がひきしまり、ほぐれた蟹肉を口に入れればほどよい甘さが広がる絶品だ。漁期は十一月初旬から三月中旬まで。この四ヵ月間、日本海に面する県東部の町岩美町は全国の美食

【日本全国写真紀行】 14 岡山県倉敷市本町

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。 岡山県倉敷市本町 <重要伝統的建造物群保存地区> 倉敷市倉敷川畔  古くから運河として活用された倉敷川を中心に広がる伝統的な町並みが倉敷美観地区である。寛永十九(1642)年に幕府の直轄地となり、倉敷代官所が設置された。以降、備中国の年貢米や農産物が集散する商業港としての役割を担い、経済的に繁栄した。やがて富を蓄

【日本全国写真紀行】 13 岡山県苫田郡鏡野町奥津

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。 岡山県苫田郡鏡野町奥津 藩主が鍵をかけて入った「殿様の湯」、今は誰でも入れます 奥津温泉は、岡山県北部の鏡野町にある温泉で、湯郷温泉、湯原温泉と並ぶ美作三湯のひとつ。「奥津」の名の由来は、高瀬舟が訪れていたことから。「奥まった場所だが船が出入りする地」という意味でつけたれた名だという。 江戸時代には津山藩の湯治場

【日本全国写真紀行】 12 広島県豊田郡大崎上島町木江

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。 日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。 広島県豊田郡大崎上島町木江 潮待ち、風待ちでにぎわった港町。 今も色濃く残る遊郭のあと。 大崎上島は竹原港からフェリーで三十分、瀬戸内海西部の大小数百に及ぶ島々で構成される芸予諸島の一つに数えられる離島である。 その玄関口、木江港は、深い入江を持つ天然の良港だ。享保年間(1716〜36)頃から沖を通る沖乗り航路の