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ピンクタワーから眺めるモンテッソーリメソッド


本アカウントのアイコンにも使っているピンクタワーについてご紹介します。

2才前から使い始めて、小学校の中頃ぐらいまで、モンテッソーリの教具の中でも長く使われる教具のうちの一つです。

たった10個のピンクの立方体ですが、このシンプルさゆえの多様な用途には、モンテッソーリのエッセンスがたっぷり詰まっているように感じます。

ピンクタワーに秘められた子どもたちの遊びを通じた学習と運動。

その仕掛けを紐解き、日常生活に活かせるエッセンスも抽出していきたいと思います!


・繰り返しの運動・身体のバランス・集中力

ピンクタワーを運ぶために行ったり来たりする、積み上げてタワーを完成させる、という「目的のある活動」まずそれ自体が集中力を要し、そして養います。集中力は繰り返しの中で深まっていきます。大人は単純作業の繰り返しをあまり好みませんが、子どもたちは自分の身体をコントロールする術を獲得するために喜んで同じ運動を繰り返します。

■◼︎◾︎▪︎子どもたちが意欲的に取り組んでいる作業は好きなだけ繰り返せるように、繰り返しやすいように環境を整えるのが大人の仕事です。


・視覚の洗練:自分で間違いに気づくことが大事

ピンクタワーは、モンテッソーリ幼児課程の4領域の中の「感覚」の教具です。(ほかに「日常生活」「言語」「数」)

幼児期の”敏感期”の一つである「感覚器官を洗練する」欲求に応えるためにつくられました。ピンクタワーは、五感の一つである視覚をトレーニングします。

10個ある立方体を大きいものから順番に積んでいきます。小さい立方体の上にあまり大きい立方体を積むとバランスを崩して倒れてしまいます。そうやって間違いに自分で気がつきながら、正確に大きいものから順に積んでいけるようになっていきます。

■◼︎◾︎▪︎大人が「それ違う」「そうじゃない」と子どもが自分で気がつく機会を妨げてしまうと、学習能力も育ちませんし、時に心を深く傷をつけ生命力を弱めてしまうことにもなります。


・科学的に計測された教具;”1リットル”で遊ぶ

モンテッソーリの視覚の教具は10個で1セットになっています。(円柱さし、茶色の階段、赤い棒、平面幾何 etc)

これは算数の基本、10進法に対応する準備になります。(数字で教具の何番目か指示する男の子がいて驚いたことがありました、「4もってきて」とか、私には一見では無理でした、、)

ピンクタワーは一辺が1㎝ずつ長くなっていて、一番小さい立方体が、
1³=1㎤ 
2³=8㎤ 
3³=27㎤ 
4³=64㎤ 
...
そして一番大きい立方体が
10³=1000㎤ 

私たちが日常生活で最も頻繁に使う容積である1リットルです。

■◼︎◾︎▪︎意外に思えるかもしれませんが、子どもたちは正確なものが好きです。「これ1リットルだよ」とまだ理解できないことを伝える必要はありませんが、辻褄の合う環境設定は安心につながります。ちなみに赤い棒と数の棒の10㎝刻みの最長1mは実用的でもあります。



・チャレンジを一つに絞る;変化する要素はたった一つ

ピンクタワーの目的は、3次元に異なる(縦・横・高さ)大きさを見分けられるようになることです。

ですから、形はすべて立方体で、色はピンク一色です。茶色の階段は2次元が変化しますが(幅が不変)、やはり色は茶色だけ。赤い棒は1次元だけが変化(長さだけ変化)しますがこれも赤色のみ。

これは各教具で子どもたちに気がついてほしいポイントを一点に絞るハイライト効果をつくりだしています。市販の”おもちゃ"では、色がバラバラで法則性がないものが多い、というか、逆にそうでないものはないのではないかという気さえします。

■◼︎◾︎▪︎ 時計の数字もまったく法則性なく色分けするやめてほしいです!


・指先と手首のトレーニング

どの大きさの立方体も、上から掴むことがピンクタワーの提示のポイントの一つです。

立方体上面の手前の"辺"に親指をかけ、残りの指は対面の"辺"にもっていきます。もちろん子どもたちは大きな立方体をこんな風に掴むことはできませんが、できる限り提示の通りに掴もうとし、できないものは両手で持ち上げます。

提示の持ち方は、握力と手首の力を最大限に使う持ち方なのだと私は理解しています。ピンクタワーだけでなく、手周辺の筋肉や神経をたくさん使って鍛えていくことで、箸や鉛筆を美しく持つことができる、というのも、美しい持ち方をするの真似するのもそこに筋力あればこそ。これには美しい持ち方をする人が身近にいていつも子どもたちがそれを見ているという条件も加わります。

■◼︎◾︎▪︎エジソン箸はなくていいと思います。箸立てに、箸とスプーンとフォークを入れておき、その都度必要な道具を考えて選択して使えるようにしてみてください。


・「大きい」と「小さい」は”比較”によって生じる【概念】

大小の区別が明確になってピンクタワーを完成させられるようになったら、ピンクタワーは言語レッスンにも使えます。このレッスンは先に円柱さしの教具でもできますが、タイミングとしてはピンクタワーが積める段階でも良いと思います。

ー3段階の名称レッスンー
①紹介;2つの立方体を取り出して目の前に並べます。大きい方を指して「これは”大きい”です」小さい方を指して「これは”小さい”です」
➁一致;「”大きい”をください」「”小さい”はどこですか?」「ここに”大きい”を置いてください」(繰り返す)
③確認;一つを指して 大人「これはなんですか?」子ども「"大きい"です」 大人「これはなんですか?」子ども「"小さい"です」

最初に小さい方の2つの立方体を選んでこのレッスンを行い、2つのうちの大きい方を残して今度はそれより大きい立方体を使ってレッスンを繰り返すと、さきほどのレッスンでは”大きい”だった立方体が今度は”小さい”に代わります。少しずつ立方体を大きく(または小さく)していくことで、2~3才の子どもたちが物の大きさは比較によって生まれる概念だということが理解できます。

ちなみに英語では bigger, smaller, biggest, smallest の比較級/最上級の表現の練習です。続く教具で”太い”⇔”細い”、”長い”⇔”短い”、”重い”⇔”軽い”、etc と拡げていけます。

■◼︎◾︎▪︎ 日常的に、太いも長いも重いも「でっかい」とひとくくりにせず、正確な言葉で子どもたちと話すと言語力をつけるサポートになります。「こう言いたかったんだね」という風に言葉を正しい文章にして言い返してあげると、言語力だけでなく話が伝わったという安心感も生まれます。


・記憶力も鍛えられる

”大きい”と”小さい”がわかったら、今度は「サイズの記憶」にチャレンジすることができます。

ピンクタワーをバラバラに置いて、そこから離れたところに陣取ります。一つの立方体を持ってきて、「これより大きい(小さい)立方体を持ってきてください」。さらに限定的に「これより1つだけ大きい(小さい)立方体を持ってきてください」と出題することもできます。子どもたち同士で、「丁寧に依頼する」表現の練習にもなります。

■◼︎◾︎▪︎カルタやトランプでも距離を取ると記憶する時間が長くなります。子どもたちはそんなチャレンジが大好きです。


・Stereognostic sense;立体感覚でさらに集中力を鍛える

これはピンクタワーが積めるようになってから1,2年経ってからになると思いますが、目隠しをしてピンクタワーを積みます。手のひらの神経を研ぎ澄ませて集中します。

■◼︎◾︎▪︎積み木の箱から、またお母さんのかばんから「鍵をだしてみて」「直方体を出してみて」と遊べますね。二つの巾着袋に同じ小物を入れておいて同じものを出す遊びもできます。

・「書く」「読む」の始まりでもある

視覚の教具は、ピンクタワー→茶色の階段→赤い棒と進んでいきます。

大人は紙面やスクリーンに目が慣れているせいか、長さだけが変化する赤い棒がいちばん簡単な気もするのですが、小さな子どもたちは物を立体的に捉えているので断然ピンクタワーが先にきます。早い子ですとピンクタワーは1歳後半でもできますが、赤い棒ができるようになるのはそれより1年以上後です。そして、赤い棒ができるようになる頃、すなわち「長い」と「短い」が安定して判別できる頃に、数字や文字が認識できるようになります。また、赤い棒ができるようになると、次はいよいよ最初の数の教具「数の棒」を始めることができます。

■◼︎◾︎▪︎赤い棒ができて、メタルインセットの筆圧もあるのに、もし文字を書きださければ、失敗を怖れているなど何か心理的な問題があるので、環境に働きかける必要があります。


・最後に;ちょっとだけピンクタワー@小学校

はじめてインドのトレーニングセンターでピンクタワーの現物を見たとき、なんだか脳みそを掻かれているような隔靴掻痒感?がありました。それから子どもたちに数えきれないほど提示を繰り返して、小学校課程のトレーニングではピンクタワーの更なる種明かしに腰を抜かしました。またそれもいつかまとめたいと思います。とりあえず今回はその写真にてさようなら!

上の図;九九になっているのわかりますか?
下の図;これを重ねていくと☟
Old friend in new clothes!
3歳以前の潜在意識に入り込んだ物の正体を知りたくない者がいるだろうか!


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