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【感想/朗報あり】「虎に翼」の終わりに寄せて

今期のNHK朝ドラ「虎に翼」が今日、終わってしまった。

日本初の女性法曹のうちの1人、主人公・寅子が人生を駆け抜けるのを毎朝伴走することで一緒に駆け抜けた半年間が今日で終わりを迎えたのだ。

折しもこの半年は自分の人生で最も難しい時期の1つでもあった。でも、「虎に翼」があったから、「さよーならまたいつか!」が流れていたから、朝が来ることが嫌ではなかった。

最初の週に他のドラマを見る要領で、オープニングを早送りした日があったが、何かが足りていない気がした。それ以降一度も早送りせず、必ずオープニングありで見た。こんなドラマは初めてだった。

このドラマには様々な社会的な立場の人が登場する。誰しもその中の誰かには共感する一面を見ることができるのではというほどに。

私は寅子の中に自分を見た。理不尽を前にして媚びられないところ。だから共感した。学生時代の寅子のシーンには本当に泣けるものが多く、最初の2週間はほぼ毎日泣いていた気がする。「さよーならまたいつか!」だけ聞いても泣いていた。ティッシュ箱必須。なんて心のデトックス効果があるドラマだろうと思っていた。

このように寅子に自分の一部を重ねて見ただけでなく、脚本家・吉田さんの言葉からも大きな示唆を得た。

今週に入って放送されたインタビューの中に、私が闘ってきた問題の根本を高い精度で突き止める言葉があった。つくづく優れた小説家や脚本家は、人間に対する洞察の深さとそれを言葉で表現する能力が卓越している。

何かのマジョリティに入っている以上、必ず誰かを傷つけたり、誰かの持っていない特権とかの上に胡坐をかいているということが絶対あるし、私が意識していないものもいっぱいあるだろうから、それを忘れちゃいけないというか。自分が普通で、誰からも搾取していていなくて、誰も傷つけていない人間だから、何も言わないみたいなのはありえないというか。一人もいないと思うので。どんなにこう素晴らしい人でも誰かを傷つけたり、誰かを搾取してたりする世界なので、残念ながら。だからやっぱり当事者の人が苦しい思いをしないために、自分に関係ないじゃなくて、マジョリティ側が変えること。自分に関係ないと思わないってことが、世の中を変えると信じています。

NHK「クローズアップ現代 『虎に翼』が描く”生きづらさ”の正体 脚本家・吉田恵里香」
脚本家・吉田恵里香さんの言葉(9月25日放送)

私が闘ってきた問題は、ある組織の通例(マジョリティ)では想像もできない理不尽によって生まれ残されてきた特殊な環境(マイノリティ)があり、それをマジョリティに理解させ、是正することの構造上の難しさであった。

悲しいことによほど卓越した認知能力と共感性と人力眼を兼ね備えていない限り、人は自分が体験したこと以外理解できず、想像が及ばない。その結果、マイノリティなどなく、マジョリティしか存在しないとするので、マイノリティの問題は是正はされない。私はそれはマジョリティの偽善や保身だと思っていた。

しかし、必ずしも偽善や保身といった意識的なものだけではなく、本当に「存在があると言われても(自分が経験していないから)わからない」という態度が生む無意識の搾取、無意識の加担もあるのだということ。

私が憤っていた問題は特殊な環境(マイノリティ)の問題だけでなく、組織全体(マジョリティ)の問題だったわけで、だからこそ深い絶望を禁じえなかったのだ。

吉田さんの言葉が私の心の中にあるモヤモヤの解像度を高めてくれた。

最後に、私のように自分の意志で最後は辞められる環境の話でもこれだけの葛藤があるのに、それ以上下がることができない人間の最後の砦である法や人権といった問題を扱い、人間にとってのギリギリのラインを攻めてくるような酷な現実と日々向き合い闘う法曹の方たちには頭が上がりません。「アンチヒーロー」の時も思いました。きれいに締めくくることなど到底できないですが、ドラマというエンタメの世界を通じて私のような法曹ではない一般の人にもひしひしと伝わるものがあります。

【朗報】
朝ドラが終わったら、もう朝を「さよーならまたいつか!」で始めることができないと寂しく思っている私のような方、3日前に米津玄師さんがフルバージョンのオープニングアニメーションを公開されましたので、活用させていただきましょう。米津さんはなんて親切な方なんだと思いました。


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