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「奇跡の脳」を読んで

脳神経科学の専門家が脳卒中になった‥
脳科学者ジル・ボルト・テイラーが、脳卒中から回復するプロセスを綴ったノンフィクション本「奇跡の脳」を読んだ。
私は、この本を読んで希望に満ち溢れた。なぜなら、過去の辛い経験にいつまでも引っ張られるのは、脳が描く「幻想」であって、一生逃げられない苦しみではないことを知ったからだ。
それと同時に、私がとてつもなくデッカク感じていた過去のトラウマは、一体なんだったのか?ものすごくちっぽけなことをいつまでもクヨクヨ悩んでいた、ということにも気が付いた。

数年前、心理学を勉強し、カウンセラーの資格を得た。心理学のメソッドを通じて、過去の辛い記憶や経験と向き合い、時には「自分はなんてダメなやつなんだ」と、自らを責めることも少なくなかった。正直、苦しかった。この苦痛は、人生の試練なのか?私だけなのか、みんな抱えて生きているのか?もし試練だとしたら、逃げられない、普遍的なものなら仕方がないのだろうと諦めていた。

それが、この本によって覆された。テイラー博士は、37歳の時に先天性の脳動静脈奇形(AVM)によって血管が破裂し脳卒中を起こした。もともと頭痛持ちであったことから、長期的に少量の出血をし続けていたのではないか?と、本には書かれている。

テイラー博士は、左脳に大量の血液が流れ込み、37歳までに培った認知機能と身体機能を失った。脳卒中という一大事に見舞われた時に、彼女が感じたのが不思議な幸福感に充たされたことだった。左脳に抑圧されて、十分に発揮できなかった右脳マインドの存在に気が付き、人類全体の平和と幸福を希(こいねが)う、宗教的ともいえる世界観に目覚めたのだった。

右脳と左脳は、一般的にはそれぞれ「知覚・感性」「思考・論理」に分けれられて、「右脳派」「左脳派」という個人的な左右の優勢を意味する言葉もあるが、どちからではなく、バランスが大切なのだという。

左右の脳がもつ両方の性格を育て、脳の両側の機能と個性をうまく利用し、人生の中で両方がお互いに支え合い、影響し合い、調節し合うようにすることが、両方の脳の特徴を発揮する方法である。

しかし、ほとんどの人が、どちらか一方に考え方が偏り、常に分析し、批判的になり、柔軟さに欠けるパターンをたどるか、もしくは、周囲とほとんど現実を分かち合うことなく、ほとんどの時間を「うわのそら」で過ごしていると、テイラー博士は言う。ちなみに、上述のタイプは「極端な左脳状態」であり、後述タイプは「極端な右脳状態」だ。

つまり、今までの私は、極端な左脳状態である時と、極端な右脳状態である時に分かれていて、左右の脳が連携できている時間が圧倒的に少ないということらしい。この左右の脳という異なる性格の間に、回路という橋を架けることで、他人や自分に攻撃的になることが減り、幸福感に満たされるのだ。というか、この本を読んでいる間、すでに私の脳内では幸せに満ち溢れて、何とも心地よい時間を過ごした。

この本を翻訳した竹内薫さんによる「訳者あとがき」にはこう書かれている。

本書は宗教書でもなければ神秘主義の本でもありません。れっきとした科学書であり、科学者の自伝なのです。むしろ、神秘体験にも脳科学的な根拠があることを自らの体験により「証明した」という意味で、本書はこれまでタブー視されてきた領域に果敢に科学のメスを入れたと評価できるでしょう。

「軌跡の脳」脳科学者の脳が壊れたとき ジル・ボルト・テイラー 竹内薫訳(新潮文庫)
※本記事にも本書の一部引用があります


せっかくこの世に生まれたのだから、より良く生きて楽しんで死にたい。この本を読むと生きる力が沸いてくるはずです。

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