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足関節捻挫の病態理解とリハビリテーションについて

足関節捻挫とは? 

捻挫とは、簡単に言うと靭帯損傷です。
関節にかかる外力により、異常なストレスが生じ、関節を支持している靭帯や関節包が損傷することです。

足関節捻挫は代表的なスポーツ外傷の一つであり、最も発生頻度の高い足関節外傷です。
加えて、高い再発率や合併症が早期のスポーツ復帰を妨げ、足関節捻挫の後遺症としての慢性足関節不安定症(Chronic ankle instability ; CAI)が長期的なパフォーマンス低下の原因となると言われています。

 


捻挫の種類

大まかに分類すると、内反捻挫(外側靭帯損傷)と外反捻挫(内側靭帯損傷)の2つに分れらます。

捻挫の種類とその病名

発生頻度

内反捻挫→80〜90% 外反捻挫→10〜20%
捻挫の中でも内反捻挫の発生頻度が圧倒的に多いです。

 なぜ内反捻挫が一番多いのでしょうか?

捻挫の発生頻度

解剖学的に腓骨外果が脛骨内果よりも遠位方向に長く、足関節外側の靭帯は内側の靭帯に比べ脆弱であることで、骨性、靭帯性の両制動因子が外反方向に比べ、内反方向に対してストレスに弱い関節であるからです。

また足関節の参考可動域は背屈/底屈(20°/45°)、外反(外がえし)/内反(内がえし)(20°/30°)で、底屈と内反方向の可動域が大きいことも、内反捻挫が起こりやすい要因の一つと言えます。

今回は発生頻度が一番高い内反捻挫に焦点を当てていこうと思います。

受傷起点

足関節内反捻挫は、主に足関節底屈位もしくは背屈位での内がえし(内反)および内旋強制によって生じます。 

足関節内反捻挫の受傷機転


受傷時に損傷する組織

外側の組織

・前距腓靭帯(Anterior talofibular ligament;ATFL)

・踵腓靭帯(Calcaneofibu-lar ligament;CFL)

・後距腓靭帯(Posterior talofibular ligament;PTFL)

・二分靭帯 (Bifurcated ligament)

 

左:外側側副靭帯
右:内側側副靭帯

内側の組織

・三角靭帯


靭帯損傷の頻度はATFLが全足関節内反捻挫の約90%の症例で損傷する一方、CFLの単独損傷は約20%程度とごく稀です。


重症度について

Ⅰ度捻挫 mild sprain

靭帯の一部繊維の断裂で、関節包は温存されている状態をいいます。


Ⅱ度捻挫 moderate sprain

靭帯の部分断裂で、関節包も損傷されることが多いです。線維が引き伸ばされた状態になることもあります。


Ⅲ度捻挫 severe sprain

靭帯の完全断裂で、関節包断裂を伴う状態をいいます。

 

Ⅰ度、Ⅱ度であれば基本的に保存療法を選択します。
Ⅲ度の場合には、不安定性が強い場合には手術を行う場合もあります。

 

 

捻挫受傷時の主な症状について

・炎症症状(腫脹・熱感・疼痛など

・関節可動域制限

・筋力/筋機能低下

・バランス機能低下

・基本動作異常

 

診断方法

まず、問診で、外力によって強制された足関節の方向(内反、外反など)を問うことが大切です。

局所所見として足関節の腫脹と関節包や靭帯の損傷部に圧痛があり、受傷時と同じ足関節の方向への他動運動で痛みがあります。

足関節外側靭帯(ATFL・CFL)に対する超音波診断の感度は84.6-100%、特異度は90.9-100%、精度は87-90.9%と高い値が示されており、近年注目されている診断方法です。

 

整形外科的テスト

前方引き出しテスト Anterior Drawer test

前距腓靭帯の損傷を調べる検査です。
下腿を固定し、足関節軽度底屈位としたのち、足部を把持し、踵を前方へ引き出します。
健側と比較し、緩みや痛みが出現した場合を陽性とします。

 

後方引き出しテスト Posterior Drawer test

後距腓靭帯の損傷を調べる検査です。
足部を固定し、下腿を把持し、前方へ引き出します。
健側と比較し、緩みや痛みが出現した場合を陽性とします。

 

外側不安定性テスト Lateral Instability test

足関節外側靭帯の損傷を調べる検査です。
足関節を他動的に内反させます。
検測と比較し、緩みが見られた場合を陽性とします。底屈0°での検査は踵腓靭帯、底屈位での検査は前距腓靭帯を調べることができます。

 

内側不安定性テスト Medial Instability test

三角靭帯の損傷を調べる検査です。
足関節を他動的に外反させます。
健側と比較し、緩みが見られた場合を陽性とします。

 

これらの整形外科的テストは、炎症症状の強い急性期(受傷後2日以内)よりも亜急性期(受傷後5日目)の方が感度・特異度ともに高いとされています。
 

またオタワアンクルルールでは  

腓骨や脛骨の遠位部、舟状骨や第5中足骨の骨折を合併する可能性もあるため、正確な触診による評価も必要です。

I G stiell. Implementation of the Ottawa ankle rules (1994)

とされています。

  

足関節捻挫のリハビリテーション

 

炎症管理

急性期では、可能な限り早期に炎症症状の消失させ、失われた機能を回復させることが求められます。

 

RICE処置

RICE処置とは
Rest(安静)Ice(冷却)Compression(圧迫)Elevation(挙上)
の略称です。

古くからRICE処置は急性外傷に対する炎症症状の消失を目的とした治療として推奨されている一方で、その効果に関しては一致した見解が得られていないとのことです。

安静だけでは、損傷した組織を保護できないことから、RICE処置にProtection(保護)を加えたPRICE処置と呼ばれる処置に変換してきました。

PRICE処置

さらに、近年では急性損傷の早期管理として必要以上の固定、安静は悪影響を及ぼすことが分かってきており、安静(Rest)を、Optimal Loading(最適な負荷)に置き換えたPOLICEという概念が広まりつつあります。

 

POLICE処置

必要以上に安静、固定をすると筋肉の萎縮や関節の拘縮などの弊害を生じることがあります。

適切な運動を早期から行うことで筋肉の萎縮を予防し、組織修復の質を改善することを目的としてOptimal Loding(適切な負荷)が推奨されています。


関節可動域訓練

距腿関節の底屈や背屈の可動域制限は、足関節捻挫後に多く見られる機能障害であり、非荷重位と荷重位での底背屈可動域の評価はリハビリテーションを進めてくうえでも重要です。

特に、距骨のアライメント不良により距腿関節や距骨下関節の可動域制限をきたしている症例は多く、アライメントを含めた詳細な評価を実施し、可動域制限の原因に対する個別なアプローチを立案する必要があります。

 

筋力トレーニング

重症度に応じて、シーネやU字スプリントによる固定や、免荷を行う場合があります。

その間も筋萎縮の予防のため、足関節の等尺性の筋力強化を行ったり、患部外の筋力を落とさないようトレーニングをしていく必要があります。

炎症所見の改善や、靭帯の修復過程に合わせて徐々に運動の負荷を漸増していきます。

 

神経筋トレーニング(バランストレーニング/固有感覚トレーニング

関節、靭帯、腱、関節包などは固有感覚受容器を有しており、靭帯損傷後には固有感覚が低下する可能性があると言われています。

固有感覚トレーニングを含んだ神経筋トレーニングは、足関節捻挫後のリハビリテーションや再発予防のためのエクササイズとしても推奨されています。

患部の状態に合わせて、非荷重位でのトレーニングから荷重位へ、静的バランスから動的バランスでのトレーニングへと移行していきます。

 

競技復帰

患部の炎症所見が改善し、片脚heel raiseやsingle hoppingなどが実施できるようになれば、グラウンドでのアスレティックリハビリテーションを開始します。

まずは直線のランニングから開始し、カーブ走やアジリティ動作、競技特性に応じたスキル練習を段階的に実施します。

グラウンドでのメニューが不安なく実施できていることに加え、
Y-balance testやSingle hop testによるパフォーマンステストでの改善が見られれば、徐々に練習へ合流します。

パフォーマンステストは健患差90%以上を目標とします。

 

Y-balance test

立位で下肢を3方向(前方、後方外側、後方内側)にどれだけリーチできるかを測るバランステストです。
直立姿勢から、リーチする下肢を浮かせながら目的方向へのばし、浮かせたまま直立姿勢へ戻ります。
その際のリーチ距離を測定します。
3方向の総合値を計算式に沿って数値化します。


計算式
[(前方リーチ距離+後方外側リーチ距離+後方内側リーチ距離)/(下長×3)]×100


Y-Blance test 実施方法

             

Single hop test

被験者は、片脚立位からスタートし、できるだけ遠くにジャンプし、同下肢でバランスを崩さずに着地します。
その移動距離を測定します。

 

Sinle:片脚での1回のジャンプ
Triple:3回の直進方向の片脚ジャンプ
Cross over:3回のジグザグ片脚ジャンプ  

おわりに

損傷の程度にもよりますが、損傷した軟部組織などの回復が十分になされないまま競技復帰をしている現状が散見されます。

これらのことから、「たかが捻挫だから・・・」「これくらいよくあること・・・」などと思い放っておくのではなく、しっかりと病院に受診し、診断を受けること、状況に応じたリハビリテーションを行うことが、より高いレベルでの競技復帰や、再発予防につながると考えられます。

 

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