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声劇台本「プレゼント」(2:0:1)

タイトル:プレゼント
ジャンル:サスペンス/ミステリー
登場人物:3人(男×2 不問×1 ※演者性別不問)
上演時間:50〜60分(推定)


登場人物
ヴァイス:ヴァイス・ゼルレイン ※男
ドイツ人。養父の都合で子供のころ日本にきた。
日本語は流暢。人を惹きつける魅力がある。
バンド時代はヴォーカルをしていた。
現在は作家、精神に問題を抱えてる。

伊達:伊達卯月(だてうづき) ※不問
ヴァイスの幼馴染。同じ家で暮らしている。
つかみどころがない、謎な部分が多い。
学生時代誘われてドラムでバンドにいた。
現在の職業は不明。

宮野:宮野(みやの) ※男(変更OK)
2人とは高校時代の友人でバンド仲間。
親しみやすい性格で友人が多い。
バンド時代はキーボードやギターとマルチに活動。
今は売れないシンガーソングライター。


【注意事項!】
※本作はトラウマ、自殺、精神病の表現があります。
※苦手な方はご注意下さい。
※読む、演じる際は自己責任でお願いします。

↓下記本編


0:風の強い屋上でキーボードを鳴らす音

ヴァイス:(M)その日は良い天気だった。
ヴァイス:暖かい日差し、風に舞う桜吹雪。
ヴァイス:きっと『死ぬならこんな日がいい』と誰もが言うだろう。

ヴァイス:今日、私は人生の終着点を迎える。
ヴァイス:愛した人が死んだ場所から地獄に向かうのだ。
ヴァイス:さようなら。
ヴァイス:…今でも愛してる。

ヴァイス:「『…そして、小説家は死んだ』」
ヴァイス:「これでよし、と」

0:ノートパソコンを置き、立ち上がる

ヴァイス:「ああ、憎らしいほど良い天気だ ―」

0:屋上から落ちる音、鳥が飛び立つ


宮野:(M)その日1人の男が屋上から飛び降りた。
宮野:名前はヴァイス・ゼルレイン。
宮野:職業は小説家。
宮野:彼は飛び降りる前に、自らの人生を描いた物語を屋上に残した。

宮野:本のタイトルは『小説家』。
宮野:ラストシーンは屋上からの飛び降り自殺。
宮野:しかし彼は、奇跡的に一命を取り留めた。
宮野:その小説家は…俺の、古い友人だ。

0:病室で寝ているヴァイスを眺める

ヴァイス:「―…」
宮野:「目を覚ました?」
ヴァイス:「…宮野…」
宮野:「…全く、何やってるんだよ」
ヴァイス:「…」
宮野:「心配かけやがって」
ヴァイス:「…何でここにいるんだよ」
宮野:「なんでって…」
宮野:「3日も寝たきりで一時は危なかったんだぞ」
宮野:「…これで何度目だ。もうこんな事やめろよ」
ヴァイス:「お前には、関係ないだろ」
宮野:「関係あるよ、友達だろ」
ヴァイス:「友達…」
0:自嘲するように笑う
宮野:「なあ」
宮野:「絵里ちゃんの事まだ忘れられないのか?」
ヴァイス:「…。」
宮野:「…10年も経つ、もういいだろ」
ヴァイス:「お前に、何がわかる…」
宮野:「俺だってこんなお前を見てるのはつらいんだ」
宮野:「それに彼女が死んだのはお前のせいじゃ」
ヴァイス:「-放っておいてくれ!!」
宮野:「っ」
ヴァイス:「げほ、っごほ、」
宮野:「…分かったよ。ごめん」
宮野:「ほら急に声をあげるから、体起こすよ、水飲めるか…?」


ヴァイス:(M)10年前、恋人の絵里が死んだ。
ヴァイス:明るくてよく笑う、衒(てら)いない性格が好きだった。
ヴァイス:当時の俺は、宮野と一緒に始めたバンド活動に必死で、彼女が病んでいたことに気づけなかった。

ヴァイス:ある春の日。
ヴァイス:彼女はマンションの屋上から飛び降りた。
ヴァイス:俺は今でも、あの光景が忘れられない。


0:数ヶ月後

宮野:「退院おめでとうヴァイス」
ヴァイス:「…宮野」
宮野:「家まで送るよ」
ヴァイス:「…」
0:促されて車に乗りこむ
宮野:「やっと退院かー。結構長かったな」
ヴァイス:「…」
宮野:「寄りたい所とか、食べたいものある?」
ヴァイス:「…ない。早く家に帰りたい」
宮野:「分かったよ」
0:宮野の運転で車を走らせる
宮野:「今も変わらず売れない物書きか?」
ヴァイス:「…ああ…」
宮野:「俺も売れないシンガーソングライターのままだ。もういい歳なのにな」
ヴァイス:「…」
宮野:「…なぁ、高校生の頃は楽しかったよな」
ヴァイス:「…」
宮野:「入学式の時はびっくりしたよ。茶髪に青い目のザ・外国人が制服着てて、インパクト最強。しかもそんな見た目で、流暢な日本語で話しだしてさ」
ヴァイス:「…出身はドイツだけど、小学生の時には日本に来てたから、生活はこっちの方が長い」
宮野:「親の都合だっけ?」
ヴァイス:「ああ」
宮野:「そっか。…じろじろ見られても全然動じなくて、かっこよかったな」
宮野:「俺、その時髪の色ピンクだったの覚えてる?」
ヴァイス:「…」
ヴァイス:「あれだけ目立ってて忘れられるわけないだろ」
0:窓の方を見ながら答える
宮野:「はは、だよな。何度も叱られてもまた染めてさ。あの頃は、俺も大分とがってたんだよ」
ヴァイス:「初対面でいきなり作詞しろってメンチきりやがって」
宮野:「でも、やってくれただろ?」
ヴァイス:「ピンク頭に凄まれたら断れないだろ」
宮野:「はは!そりゃ確かに」
宮野:「ちゃんと理由はあったんだぜ?」
宮野:「お前休み時間いつも本読んでたろ。外人でそんなに本が好きなら、歌詞位かけるだろうーって思ってさ。今思うとめちゃくちゃだけど」
ヴァイス:「…」
宮野:「でも本当に歌詞書いてくれて。…嬉しかったよ」
宮野:「メロディーを口ずさむ声が綺麗でさ」
宮野:「その歌声に感動して、一緒にバンドを組んで」
ヴァイス:「もう昔の話だろ」
宮野:「そう…だな。でも」
宮野:「俺はいつか、またお前と音楽がしたいよ」
ヴァイス:「……俺は、二度と歌わない」
宮野:「…そっか」
宮野:「まぁ気長に待ってる」
ヴァイス:「…」

0:車を止める

宮野:「ここだな、ついたぞ」
ヴァイス:「ああ」
0:車から降りる
宮野:「はい荷物」
ヴァイス:「色々助かった」
宮野:「いいよ、暇だし」
宮野:「…何かあったら連絡しろよ?」
ヴァイス:「…」
宮野:「落ち着いたら飯でもいこう」
宮野:「伊達にもよろしく。じゃあまたな」
宮野:「お大事に」

0:車で走り去っていく


ヴァイス:「…」
0:車を見送り、玄関を開ける

ヴァイス:「ただいま」
伊達:「-おかえり、ヴァイス」
ヴァイス:「…卯月…」
伊達:「入院長かったね、腕は怪我してない?」
ヴァイス:「ああ」
伊達:「良かった。君は作家だからね」
伊達:「腕が使えなくなったら大変だ」
伊達:「荷物預かるよ」
0:立ったままのヴァイスから荷物を取る
ヴァイス:「んで…」
伊達:「?」
ヴァイス:「なんで見舞いに来なかったんだよ」
伊達:「……仕事だったんだよ、ごめん」
ヴァイス:「自殺…未遂だぞ、遺書まで書いた」
伊達:「…」
ヴァイス:「心配じゃないのかよ」
伊達:「心配に決まってるだろ」
ヴァイス:「じゃあなんで…!」
伊達:「あまり興奮すると体に悪いよ」
ヴァイス:「…、」
伊達:「君は必ず帰って来るって信じてた」
伊達:「…それに、病室にいる君を見るのが怖くて」
伊達:「寂しい思いをしてさせてごめん。…よく頑張ったね」

0:背中に腕を回して抱きしめる

ヴァイス:「お前は、俺の親友だろ」
ヴァイス:「…そばにいてくれよ…、」
伊達:「勿論だよ、僕はずっと君のそばにいる」
ヴァイス:「ああ…」
0:ゆっくり腕を緩める
伊達:「…コーヒーでも淹れようか」
ヴァイス:「…」
伊達:「ほら、中に入ろうヴァイス」
ヴァイス:「…ああ」
0:2人で部屋に上がる

ヴァイス:「こっちは何か変わったことあったか」
伊達:「特にないかな。はい、コーヒー」
ヴァイス:「そうか。…ありがとう」

0:ソファーに座り、コーヒーを飲む
0:ふとテーブルに置かれた本に気づくヴァイス

ヴァイス:「『トラウマの仕組』?」
ヴァイス:「お前が本を読んでたのか、珍しい」
伊達:「ああ。君の病気に何か役立つんじゃないかと思って読み始めたんだけど、中々面白くてね」
ヴァイス:「へぇ…」
0:ちらりと伊達を見る
伊達:「トラウマって、きっかけとなった出来事を脳が瞬間的に冷凍保存してしまうんだって」
伊達:「だからフラッシュバックする時は、感覚や音、匂い、全部が当時のままらしいよ」
ヴァイス:「全部が当時のまま…」
伊達:「凄いよね…脳って不思議だ…」
伊達:「どうでもいい事なんて直ぐ忘れてしまうのに、ずっと保存しておけるなんてどうなってるんだろう」
ヴァイス:「…」
伊達:「君が10年前の事を忘れられないのも、関係あるのかもしれないね」
ヴァイス:「…一生、これが続くのか、」
伊達:「さぁ…。治療でよくなる可能性があるとは書いてあるけど、個人差があるみたい」
ヴァイス:「今でもよく、絵里が死んだ時の事を思い出すんだ」
0:頭を抱えるヴァイス
伊達:「ヴァイス。…大丈夫だよ、落ち着いて」
0:背中をそっと撫でる
ヴァイス:「彼女が屋上の淵に立ってて、桜の匂いがする」
ヴァイス:「強い風に傾いた体が地面に落ちていくのを、俺は屋上で見てる、」
伊達:「…うん」
ヴァイス:「夢に絵里が出てきて、どうして助けてくれなかったの?っていうんだ、血まみれで…」
伊達:「うん…」
ヴァイス:「俺は、どうしたら良かったんだ、」
0:背中を丸めて顔を歪める
伊達:「ヴァイス、彼女が死んだのは君のせいじゃない」
ヴァイス:「…っ」
伊達:「彼女は君の歌が好きだったから、頑張って欲しくて、いじめられてる事も黙ってた。…君のために、自分を犠牲にしたんだよ」
0:丸めた背中に頬をつける
ヴァイス:「そんなの、俺は望んでなかった…!」
伊達:「…君と付き合ったのがいじめの原因だった。事実を知って、君が音楽を辞めると言い出すのが怖かったんだろうね。現に君は、彼女が死んでから音楽を辞めてしまったし…」
ヴァイス:「絵里がこんな事になって、歌える訳ないだろう…!」
伊達:「…そうだね。その気持ちも分かる」
伊達:「仕方ない事だよ、君は悪くないんだから」
ヴァイス:「なんで俺は、あいつに何もしてやれなかったんだ…、ごめん、ごめんな絵里…」
伊達:「…」
0:震える背中をそっと撫でる
ヴァイス:「もう…何も歌えない」
ヴァイス:「なにも、歌いたくないんだ」
伊達:「…うん。大丈夫」
伊達:「歌えなくても、僕は君が好きだよ」
ヴァイス:「…、」
0:安心するように少し力が抜ける
伊達:「…今日は疲れただろう」
伊達:「ゆっくり休んで、続きはまた明日話そう」



宮野:(M)伊達がヴァイスの家に住み始めたのは、絵里ちゃんが亡くなって一年が経つ頃だった。
宮野:彼女が死んだショックで、食事も生活もままならない状態のヴァイスを、伊達は根気強く支え、そのおかげで少しずつ、彼は普通の生活を取り戻していった。

宮野:あの2人の間には、他人が入り込めない特別な空気がある。
宮野:俺は、病んでいくヴァイスの姿を見ているのが辛くなって、一時は連絡を絶ってしまった。
宮野:…その時の事を、今でも後悔してる。
宮野:そして思い知るんだ。
宮野:あの時逃げた俺は、どこまでも外野になってしまったんだ…って。


ヴァイス:(M)退院して3週間、また安いライター誌の締め切りに追われる毎日に戻っていた。
ヴァイス:同居人の伊達は相変わらず掴み所がなく、何の仕事をしているのかも知らない。
ヴァイス:…それでも俺は、あいつがいないとまともでいられないくらい、依存してしまっている。

0:新聞を出しにポストを覗く

ヴァイス:「新聞、新聞は…と、…ん?」
ヴァイス:「手紙…?差出人はなし…」
ヴァイス:「ファンレターか?」
0:封筒を開けて中を読む
ヴァイス:「…!」
ヴァイス:「『10年前の事件には真犯人がいる』…?」
ヴァイス:「何だ、これは…一体誰が 」

0:外に出て辺りを見るが誰もいない

ヴァイス:「…真犯人、…?」
ヴァイス:「絵里は、自殺で…俺が、助けられなくて…目の前で…」

ヴァイス:(M)その時初めて、10年間信じていた記憶に疑問を感じた。
ヴァイス:無理やりはめたパズルのピースの様な違和感だった。


0:電話をかける音

宮野:『もしもし?ヴァイス?』
ヴァイス:「ああ…宮野、急に悪いな。今平気か?」
宮野:『大丈夫だよ。でも珍しいな、伊達は?』
ヴァイス:「仕事でいない」
宮野:『そっか、どうした?』
ヴァイス:「実は、ちょっと調べて欲しいことがあって」
宮野:『うん、いいよ。なに?』
ヴァイス:「お前、学生の時友達多かっただろ?」
宮野:『まぁ…それなりにね』
ヴァイス:「…当時の絵里の交友関係ってわかる?」
宮野:『絵里ちゃん?』
宮野:『人懐っこい子だから友達は多かったみたいだけど…』
ヴァイス:「そうだよな…」
宮野:『…どうした?』
ヴァイス:「…絵里とはライブハウスで出会ったし、学校も別だったからさ。今更だけど、あいつにどういう友達がいたとか、何も知らないなと思って」
宮野:『…そっか…』
宮野:『俺、絵里ちゃんとは地元が同じだったから共通の知り合いも多いよ。聞いてみようか?』
ヴァイス:「頼めるか」
宮野:『任せておいて』
ヴァイス「…ああ。助かるよ、じゃあ」

0:電話を切る


0:ノートパソコンに向かい執筆する後ろ姿

伊達:「―ヴァイス?そろそろ休憩にしたら?」
ヴァイス:「ああ…もう終わる…」
伊達:「そう言ってもう3時間になるけど」
ヴァイス:「分かってる…」
伊達:「ギリギリまで溜めるからこうなるんだよ」
伊達:「もう少し計画してやればいいのに」
ヴァイス:「急な仕事だったんだよ」
伊達:「ご飯、食べてないでしょう 一緒に」
0:肩に触れようとした手をヴァイスが振り払う
ヴァイス:「― ッ悪い」
伊達:「……」
ヴァイス:「思わず、ごめん。悪かった」
伊達:「…ううん。いいよ」
ヴァイス:「もう終わるから、先に食べててくれ(ないか)」
伊達:「(遮って)下で待ってるから、終わったら一緒に食べよう」
ヴァイス:「……分かった。直ぐにいく」
伊達:「うん」
0:部屋を出ていく

 ヴァイス:「…はー」
0:再びパソコンに向かい出す


0:数日後、携帯の着信音

宮野:『もしもしヴァイス?』
ヴァイス:「あぁ、宮野。どうした」
宮野:『前言ってた絵里ちゃんの交友関係、調べてみたよ』
ヴァイス:「…どうだった?」
宮野:『大体は同じ学校の子で、三島さんと谷岡さん達と特に仲良くしてたみたい』
ヴァイス:「谷岡…あぁ、ケバい化粧の」
宮野:『見た目はキツいけど良い子だよ』
宮野:『それで、ヴァイスと絵里ちゃんが付き合い始めた頃、三島さん達の様子がおかしかったって』
ヴァイス:「様子…?」
宮野:『よく一緒に並んで帰ってたのに、ある時から絵里ちゃんを囲む様に歩いたり、彼女に、万引きとか…援助交際をさせてたみたい』
ヴァイス:「……」
宮野:『段々絵里ちゃんの表情も暗くなって、…他の女の子も便乗する様になったって…』
ヴァイス:「…三島。そいつが絵里を虐めた張本人か」
宮野:『うん。…でね、その三島さん。小さい頃両親が離婚してて、一時期施設に預けられてた事があるんだって』
ヴァイス:「施設…?」
宮野:『ああ、伊達も身寄りがなくてずっと施設暮らしだったろ?同じ施設にいたみたい』
ヴァイス:「…―、」
0:頭痛に眉を寄せる
宮野:『2人は高校に入っても交流が続いてて、ファミレスにいる所を見た事があるって子がいた』
ヴァイス:「…ぅ、は、…はぁ」
宮野:『まぁ流石にいじめてる本人から絵里ちゃんの話を聞くとは思わないけど…。―ヴァイス?』
ヴァイス:「はぁ、はぁ、ぁあ!…ッ 」
0:蘇る記憶に頭を抑えてうずくまる

ヴァイス:(M)宮野の声が遠くに聞こえる。
ヴァイス:歪に欠けたピースが、埋まる音がした。

宮野:『ヴァイス、大丈夫か?どうした?』
ヴァイス:「-宮野、、助かった、」
宮野:『え?いや…別に大した事は』
ヴァイス:「これで、ケジメがつけられそうだ」
宮野:『ケジメ?どういう事だよ、』
ヴァイス:「じゃあ、」
宮野:『-!ヴァイス、ちょっと待っー』
0:聞き終わる前に電話を切る

ヴァイス:「ふーー。…」
0:息を吐き再び電話をかける

ヴァイス:「-あぁ…もしもし?」
ヴァイス:「急に電話して悪い」
ヴァイス:「ちょっと話したい事があるんだ」
ヴァイス:「仕事が終わったら、時間作れないか」
ヴァイス:「場所は―」


0:屋上の扉が開く

ヴァイス:「…」
0:タバコをけして振り向く

伊達:「遅くなってごめんね、仕事が長引いて」
伊達:「どうしたの?こんな所に呼び出して」
伊達:「ここ、君が飛び降りたから立ち入り禁止になったんじゃないっけ。入口の鍵、壊したの?」
ヴァイス:「…」
伊達:「…ここに来ると頭痛がするんじゃなかった?」
伊達:「この間も痛い思いしたばかりなのに、まだ足りない?」
ヴァイス:「…」
伊達:「それとも今度は心中でもしようって?」
伊達:「君となら、それも楽しそうだけど」
ヴァイス:「―お前さ」
ヴァイス:「10年前、ここで絵里が死んだ時この屋上にいたよな」
伊達:「…」
伊達:「ああ、いたよ」
伊達:「僕が駆けつけた時、屋上から落ちていく彼女を見てる君を、丁度この位置から見てた」
ヴァイス:「-逆、だろ」
伊達:「え?」
ヴァイス:「あの日、絵里の前にいたのはお前だ」
伊達:「何を言ってるのヴァイス。だって、君は」
ヴァイス:「思い出したんだ、何もかも!!」
伊達:「……」
ヴァイス:「俺はあの日、絵里から『別れよう』ってメールを受け取って、急いで彼女の家に向かった」
ヴァイス:「でも家にはいなくて、嫌な予感がして屋上へ走った、扉を開けたら、お前と絵里がいて」
ヴァイス:「風に煽られた絵里の体が傾いて、地面に落ちてくのを見たんだ…っ」
伊達:「……」
ヴァイス:「あまりのショックに呆然としてる俺の横を通って、お前は屋上から出て行った」
ヴァイス:「その後、酒と薬で朦朧とする日々を過ごしていた俺の前にお前が現れて俺を『慰めた』」
ヴァイス:「『後数分早ければ間に合ったかもしれないけど、君のせいじゃない』」
ヴァイス:「『彼女は君の為に自分を犠牲にしたんだ』って…!」
ヴァイス:「お前の話を聞いてるうちに…!」
ヴァイス:「俺は、俺のせいで、絵里を助けられなかったと思い込んで…」

0:伊達を睨む

ヴァイス:「―…お前が、絵里を殺したのか?」
ヴァイス:「何もかも知っていて俺のそばにいたのか?!」
伊達:「……」
ヴァイス:「何とかいえよ!!」
伊達:「……」

0:目を細めるように笑いヴァイスを見る

伊達:「…そう、やっと思い出したか」
ヴァイス:「-ッ」
伊達:「そうだよ、あの日先に屋上にいたのは僕」
伊達:「絵里から相談を受けて、ここで話してた」
伊達:「あの時、彼女は迷ってた。」
伊達:「もうこれ以上は耐えられない。でも死ぬのは怖い…って」
伊達:「だから、僕が背中を押してあげたんだ」
ヴァイス:「お前、やっぱり…!」
伊達:「本当に押したわけじゃないよ?」
伊達:「ただ教えてあげた」
伊達:「『君が虐められてると知ったら、きっとヴァイスは音楽を辞める』って」
ヴァイス:「…ッ」
伊達:「そうしたら可哀想なくらい泣いちゃって、気づいたら、地面に落ちてた」
ヴァイス:「気づいたらって…」
ヴァイス:「何で、止めなかったんだよ!」
伊達:「―君の為だよ」
ヴァイス:「は…?」

0:ヴァイスに近づく伊達

伊達:「君の音楽が、君が好きだから、彼女はいちゃダメなんだ」
ヴァイス:「どういうことだ、」
伊達:「彼女は君をダメにする」
伊達:「だから、消えてもらった」
ヴァイス:「何を…、言ってるんだ」
0:後ずさる

ヴァイス:「来るな、」
伊達:「そのままの意味だよ」
伊達:「君のそばにいるのは、僕だけでいい」
ヴァイス:「っ気でも狂ってんのかよ…!」
伊達:「狂ってる?そうかな…そうかもしれない」
伊達:「でも、君も散々僕に縋っただろ?」
ヴァイス:「そうならざるを得ない状況を、自分で作ったんだろ?!」
伊達:「そうだよ、君を理解できるのは僕だけだ」
ヴァイス:「―」
0:屋上の縁に足を止め、伊達をにらむ
ヴァイス:「…お前、絵里を虐めた三島と仲が良かったらしいな」
伊達:「うん、彼女とはよく話した」
伊達:「でも虐めろなんて命令はしてないよ」
伊達:「ただ教えてあげた『絵里がヴァイスと付き合って最近浮かれてる』って」
0:直ぐ目の前で微笑む
ヴァイス:「…ッ」
伊達:「そしたら勝手に『ムカつく』って言いだしたんだ、彼女は昔、君のことが好きだったからね」
ヴァイス:「ッ人を弄んで楽しいか…?!」
ヴァイス:「そんな事を言えばどうなるか、分かってただろ?!」
0:伊達の胸ぐらを掴む
伊達:「さぁ?勝手にイジメを始めたのは三島だよ」
伊達:「もう死んじゃいたいって泣いた絵里も、自分からそこに立ったし…」
伊達:「自責の念に取り憑かれて、気持ちよく自傷行為したかった君が、僕に縋った時も、命令なんてしなかっただろ?」
ヴァイス:「っ 殺してやる!!!」

0:伊達の胸ぐらを掴んで押し倒しもつれあう

ヴァイス:「お前が絵里を追い詰めたんだ!!」
0:馬乗りになり首を掴む
伊達:「―ぐ、ぅ…はは、君になら殺されてもいいよ」
伊達:「僕は満足さ、きっと君は僕を殺した事を何度も何度も思い出すんだろうな…!」
ヴァイス:「ッ黙れ…!」
伊達:「ねぇ、それって!すごいプレゼントだと思わない?!」
伊達:「忘れないってすごい事だよ、君の頭の中に僕がずっといると思うと、それだけで興奮する…!」
ヴァイス:「ふざけやがって…!!」
0:首を絞める
伊達:「- 君…以外、何も…ひゅ いらな…」
ヴァイス:「死ねッ、死ね…!!」
0:強く指に力を込める
伊達:「-ぅ…、ぐ …」

0:突如、屋上の扉が開く

宮野:「ヴァイス!!!」
ヴァイス:「ッ」
0:はっとして指が緩む

伊達:「ヒュッ げほ、ごほ、、」
宮野:「何…、やってるんだ、」
宮野:「電話の様子がおかしいと思って、探してみたら!」
ヴァイス:「こいつが、絵里を追い詰めたんだ」
ヴァイス:「こいつが…っ!」
0:泣きながら伊達の胸ぐらを掴む
伊達:「は、殺しなよ、ヴァイス、ほら」
伊達:「このまま、首を絞めればいい」
0:首に手を当てさせる
ヴァイス:「この野郎…!」
宮野:「ダメだヴァイス!!」
ヴァイス:「っ」
宮野:「…今ここで伊達を殺せば思う壺だ!」
宮野:「伊達は君に殺される事を望んでる」
宮野:「そんな奴のために、君が手を汚すことない…!!」
伊達:「―外野は引っ込んでなよ、宮野」
宮野:「何を、」
伊達:「怖がって、逃げ出したくせに」
宮野:「…っ」
伊達:「彼女が死んで、壊れてくヴァイスを見捨てて連絡もしなくなった、それで友達?はは、バカらしい」
宮野:「…それは、確かに、そうだけど」
伊達:「どうしてまだ未練がましく友達でいようとするの?偽善?後悔?同情?…自分勝手だね」
伊達:「前みたいに逃げたら?」
宮野:「ッ 逃げない」
伊達:「―」
宮野:「…確かに、ヴァイスを見るのが辛くなって逃げだした。」
宮野:「今でもずっと…あの時の事を後悔してる」
宮野:「…だから、もう逃げ出さない」
宮野:「お前の言葉にも、負けない」

0:少しずつ2人に近づく

宮野:「ヴァイス、…殺しちゃダメだ」
宮野:「取り返しがつかないことになる」
ヴァイス:「…ッ」
伊達:「……殺しなよ、ヴァイス」
伊達:「10年間ずっと苦しんできたんだろ?」
ヴァイス:「―…ッ」

ヴァイス:「はあっ、はぁ、はぁ…」
0:息を飲み眉を寄せ、ゆっくりと指を緩める

ヴァイス:「……俺は、」
ヴァイス:「お前をゆるさない…」
ヴァイス:「でもここで死ぬのも許さない…!」

0:伊達を離して体を起こす

伊達:「― そんなのダメだ」
伊達:「君が、僕をこうしたんだよ?」

0:ヴァイスの首に腕を回して抱きしめる
宮野:「ヴァイスっ!!!」

0:2人の体が傾いて地面に落ちる

ヴァイス:(M)空が見える、そう思った瞬間
ヴァイス:強い風と衝撃を感じて、意識を失った。

0:鈍い音と、鳥の羽ばたく音が響く


伊達:(M)遠のいていく意識の中、昔の夢を見た。
伊達:両親と引き離されて施設で泣く子供を、僕は悲しい『顔』で慰めて、優しい『顔』で励ます。
伊達:するとその子は、直ぐに僕の事を好きになってくれた。
伊達:馬鹿だなぁと思うほど簡単だった。
伊達:親が恋しいと思う気持ちも、寂しいという気持ちも理解出来なかったけど、暇潰しにはなった。
伊達:だから僕は『人間』という生き物が、どこまで自分の思い通りに動くのか、試してみたくなったんだ。
伊達:僕に依存する人は、面白いほど、僕に嫌われないよう必死になった。
伊達:だけど僕にとっては暇潰しだから、興味がなくなると名前すら忘れてしまう。

伊達:『ヴァイス・ゼルレイン』だけは違った。
伊達:彼の周りには、自然と人が集まる。
伊達:外国人が珍しいからって理由だけじゃない。
伊達:街灯に群がる虫みたいに、みんな、彼に惹き寄せられる。

伊達:彼の傍にいたい。
伊達:彼を知りたい、特別になりたい。
伊達:これが『興味』だと知った。
伊達:どんな形でも、彼の中に存在し続けたい。

伊達:その為なら、僕はどんな事でも――


0:場面転換の長い間
0:病室で寝ているヴァイスの近くに座っている宮野

ヴァイス:「…ん…」
宮野:「―ヴァイス、起きた?」
ヴァイス:「…宮野」
宮野:「おはよう」
ヴァイス:「…きてたのか」
宮野:「ちょっと前にね。気分はどう?」
ヴァイス:「右手が使えないから退屈だ」
宮野:「見事に折れたねー。…治りそう?」
ヴァイス:「多分な。完全に元通りになるかは、分からないそうだ」
宮野:「そっか、リハビリ大変だ」
ヴァイス:「ああ…」
宮野:「でも7階から落ちたのに、2人とも生きてるなんて奇跡だよ」
ヴァイス:「そうだな…」
0:表情を重くする
ヴァイス:「……あいつ、死ななかったな」
宮野:「…うん。」
ヴァイス:「あいつが絵里を追い詰めたって証拠も、何もない」
宮野:「絵里ちゃんの死因は自殺で終わってるしね」
ヴァイス:「…結局、俺は何もしてやれなかった」
宮野:「…そんな事ないよ」
宮野:「君のせいじゃないってわかって」
宮野:「きっと絵里ちゃんも喜んでる」
ヴァイス:「…、」
宮野:「それに、伊達はこれから死ぬより辛い思いをするんじゃないかな」
ヴァイス:「…?」

0:宮野を見る

宮野:「先日、意識を取り戻したらしい」
宮野:「頭を強く打ったせいで記憶を失ってるって」
ヴァイス:「――」
宮野:「一時的な物ではないようだよ」
宮野:「ヴァイスにとってそれがいい事か分からないけど、…彼にとって忘れる事は、死ぬより怖い事なんじゃないかな」
ヴァイス:「…」
宮野:「伊達は君を束縛して、トラウマで支配しようとした。」
宮野:「その呪縛から逃れて君が伊達を忘れる事こそ、きっと何よりの仕返しだ」
ヴァイス:「……そう、だな」
宮野:「うん。だからリハビリもがんばらないと」
ヴァイス:「ああ」
ヴァイス:「なぁ。あの手紙、お前だったのか?」
宮野:「ポストに入ってたやつ?ううん、違うよ」
ヴァイス:「じゃあ誰が」
宮野:「バンド時代のベーシスト、覚えてる?」
ヴァイス:「…ああ」
宮野:「彼は昔、絵里ちゃんに恋してたんだ」
ヴァイス:「…」
宮野:「でも君たちのことは応援してたよ」
宮野:「絵里が幸せならそれでいいって言ってた」
ヴァイス:「…そうか」
宮野:「伊達と親しくなってから彼女がおかしくなったって、当時も言ってたけど、誰も相手にしなくて。ずっと伊達の様子を探ってたんだって」
ヴァイス:「そう…だったのか」
宮野:「君が意識を失ってる間に連絡があって、今回の話をしたよ。」
宮野:「つらい思いをさせて悪いって謝ってた」
ヴァイス:「…」
宮野:「今は医者になったんだってさ」
ヴァイス:「医者?」
宮野:「絵里ちゃんみたいな子を救いたいって」
ヴァイス:「…そうか」

0:病室から外を眺める

ヴァイス:「…今度、絵里の墓参りに行こうと思う」
宮野:「…うん」
ヴァイス:「ついてきてくれるか?」
宮野:「いいよ」
宮野:「…友達だろ」
0:ベッドに置かれた手を握る
ヴァイス:「…ああ。そうだな」
0:弱い力で握り返す


ヴァイス:(M)その後も宮野は毎日のように病室に通い、俺は何とか、執筆が続けられる程度に回復して退院した。

ヴァイス:その後の伊達がどうなったかは知らない。
ヴァイス:噂では遠くの町に引っ越したというが…。
ヴァイス:なるべく、考えないようにしている。
ヴァイス:…どうなろうと、俺にはもう関係ない。

ヴァイス:それでもまだ、時々考えてしまう。
ヴァイス:本当にこれで良かったのか。
ヴァイス:他にもできる事があったんじゃないか。
ヴァイス:……いくら考えても、答えは出ない。

ヴァイス:心が立ち止まっていても、季節は進み
ヴァイス:また、春がやってきた。


0:階段を登る2人

宮野:「ヴァイスー平気ー?」
ヴァイス:「はぁ、はぁ…」
宮野:「はは!すっかり体がなまってるね」
宮野:「もう少しだから、頑張って」

ヴァイス:2人で絵里の故郷にある墓にやって来た。
ヴァイス:ここに来るのは、数年ぶりだ。
ヴァイス:宮野は相変わらず売れないミュージシャンで、俺は安い仕事の締切に追われるライターまがいの作家だ。世界は驚く程、何も変わらない。

ヴァイス:でも一つだけ、変わったこともある。

宮野:「…よし。始めるよ」
ヴァイス:「―ああ」

0:ギターの音に合わせて歌い出す。

ヴァイス:久しぶりに聞く、宮野のギター。
ヴァイス:10年ぶりに歌う…絵里が好きな歌。

ヴァイス:今年も、桜が咲いていた。

0:終幕


お疲れ様です。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

重い!なんていう重さだろう!!笑
「小説家」という物語から、派生したお話です。
全部合わせるとめちゃくちゃ長い。
かなり勢いで書いたので後で修正するかも…?
(その内、別時間や別視点の話も作るかも)

その後の彼らがどうなったかは想像にお任せします。
ただ人はそう簡単に変わらんとは思います(小声)

ずっと書きたかった話の一つなので、とりあえず形に出来て満足です。
やっと肩の荷が一つ降りたような気分。
最後まで読んで頂き本当にありがとうございました

それでは、またどこかで。


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