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NHK-FM「サウンドストリート」ロック夜話/"NO NEW YORK" 特集(1979年3月23日放送)

NHK-FM「サウンドストリート」ロック夜話/"NO NEW YORK" 特集(1979年3月23日放送)

放送曲目:
1. The Contortions - Dish It Out
2. The Contortions - Jaded
3. The Contortions - I Can't Stand Myself
4. Teenage Jesus And The Jerks - Red Alert
5. Teenage Jesus And The Jerks - I Woke Up Dreaming
6. Mars - Tunnel
7. D.N.A. - Egomaniac's Kiss
8. D.N.A. - Not Moving
9. D.N.A. - Size

DJ: 渋谷陽一


 NHK-FMで放送されていた渋谷陽一さんの番組「ヤング・ジョッキー」は、冒頭、「こんばんは、渋谷陽一です」と告げたあと、曲目紹介なしに、いきなり1曲目が流れるのが常でした。「ヤング・ジョッキー」が1978年11月19日(日)に終了した翌週、11月23日(木)からスタートした「サウンドストリート」ではどうだったでしょうか。記憶が曖昧です。もし、「ヤング・ジョッキー」の頃と同じように、番組開始アナウンスのあと、いきなり1曲目が流れていたのだとすれば、1979年3月23日(金)の1曲目の衝撃をより高めたのではないかと思います。

 この日の放送曲目は、全曲、エアチェック(録音)しています。1曲目のコントーションズ The Contortions "Dish It Out" も、です。当時は、番組を、アナウンスやトークごと録音するということはしていませんでした。レコードの代用と考えていましたし、カセットテープを節約する必要もありました。何も言わずに流したのか、曲名を告げてから流したのか、いずれにしても、ちゃんと「曲だけ」録音できているということは、準備万端で待ち構えていた、ということです。聞いたのは、このときが初めてで、だからこそ、衝撃を受けた、のに、待ち構えていたとは。

 ニューヨークのバンド4組を収録したブライアン・イーノ Brian Eno プロデュースによるオムニバスアルバム "NO NEW YORK" は、Discogsによると、1978年11月の発売。発売元は、アイランドレコードの北米での子会社 Antilles でしたが、当時、日本では「国内盤」の発売がありませんでした。また、衛星都市の地元高校に通う、LPは月に一枚買えるか買えないかという高校生には、大阪や京都の都心の輸入盤店での様子は知る由もありませんでした。
 このアルバムの存在を知ったのは、イーノさんの活動を追っていた「ロック・マガジン」編集長、阿木譲氏の紹介記事によります。わたしが当時購読していた音楽誌は、「ロッキング・オン」と「ロック・マガジン」だけでしたので、他の雑誌でどうだったかはわからないのですが、「ロック・マガジン」読者の間では「話題作」でした。

 最初は「ロック・マガジン」第20号(1979年2月)。「特集 Neo Dada」の一環で、"NO NEW YORK" 収録の4組のバンドが紹介されました。発売日の記憶は定かではありませんが、この頃は、一応、毎月25日発売となっており、心斎橋の輸入盤店「Melody House」の「'78 サヨナラセール」の広告が載っていることから考えて、1978年12月25日発売(予定)と考えてよいと思います。"NO NEW YORK" についての記事は以下のとおり。コントーションズはアルバム録音後の、マーズ Mars、ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークス Teenage Jesus And The Jerks についてはアルバム録音前の、おそらく海外雑誌のインタビュー記事の翻訳です(出典不明)。

・血まみれになったって、ステージに上がれば奴等にそれ以上のものをくらわせてやるさ ―Contortions―
・俺達の音が荒々しいのが、それが俺達にとって真の音楽だからさ。つまり、それは化学作用なんだ。―Mars―
・DNA from No New York(訳詞)
・本当に新しいのは私だけ。他は何もかも退屈よ。私は自分が好きなだけ ―Lydia Lunch―

「ロック・マガジン」第20号(1979年2月) P.3~P.7

 ちなみに、「Neo Dada」バンドとして、今号で取り上げられているのは、他に、ペル・ウブ Peru Ubu、ワイヤー Wire、スイサイド Suicide、グロリア・ムンディ Gloria Mundi、XTC、ザ・ノーマル The Normal、ドール・バイ・ドール Doll By Doll です。

「ロック・マガジン」第20号(1979年2月)

 続いて、上記の「ロック・マガジン」に1979年1月20日発売と広告が出ている「遊 objet magzine yu」1005号(1979 - 2 [Feb])。当時、阿木譲氏は「遊」に「ロック・シーン」を連載していました。この連載第4回が「NO NEW YORK」でした。阿木氏はここでも概要を「空無化された真空状態 ―ニューヨーク・ネオ・ダダへの動向」と記しています。

かれらの音楽に見られる《疎外感》《非芸術》《攻撃性》《ジレンマ》は、また我々を現実に引き戻そうとしているようだ。そして最も大事なのは、かれらの音楽をイーノのヴィジョンによってダダや禅の方向へ導いていることだ。

「遊」1005号(1979 - 2 [Feb]) 阿木譲「ロック・シーン [4]」P.86

 阿木氏は、概要に続いて、"NO NEW YORK" 収録の4組を紹介し、一部の楽曲について訳詞を掲載しています。コントーションズのジェイムズ・チャンス James Chance 氏について、「ロック・マガジン」掲載のインタビューを受けて、ステージでのケンカと "NO NEW YORK" カバーに掲載された彼のポートレートの痣に言及しています。

「遊」1005号(1979 - 2 [Feb])

 以上の記事により、聞けることを待望していたのです。もちろん、レコードも探していましたが、郊外のレコード店では見つけられないまま、二か月。NHK-FM「サウンドストリート」での特集は待ちに待ったものでした。待ち構えていた、のはそれ故です。
 ところで、「サウンドストリート」で "NO NEW YORK" が特集されたのは、正に、国内盤が出ておらず、輸入盤も手に入れにくいという状況で、手に入れた者が特権的に持ち上げて語ることを、渋谷陽一氏がよしとしなかったことが理由です。実際どうかは多くのひとが自身の耳で判断すればよいという考えから、NHK-FMという全国放送で紹介したという訳です。「ニューディスク特集」ではなく、雑談回である「ロック夜話」だったのも、そうした理由からだと思います。この渋谷氏の意図は、阿木譲氏または「ロック・マガジン」に対する批判のように受け取られる可能性もありますが、"NO NEW YORK" に限ったことではなく、「ヤング・ジョッキー」時代には、いわば渋谷氏の持ち駒であったジミー・ペイジ Jimmy Page が在籍していたヤードバーズ The Yardbirds の "LITTLE GAMES" についても、入手困難で「幻の名盤」と化していたことから、同様の措置をとったことがあったと記憶しています。
 「ヤング・ジョッキー」時代の渋谷氏は、公共放送唯一のロック専門番組という自負を持っていたようで、自身の趣味よりも、多方面の動向を紹介することを心掛けていたところがあったように思います。実際、"NO NEW YORK" 特集の前日、1979年3月22日(木)の「ニューディスク特集」で取り上げられたのは、主要なリスナーが "NO NEW YORK" リスナーとは被らなさそうなヴァン・ヘイレン Van Halen "VAN HALEN II"、ジャーニー "EVOLUTION"、ハマー(ヤン・ハマー) Hammer (Jan Hammer) "BLACK SHEEP" でした。

 ところで、「サウンドストリート」で放送されたのは、"NO NEW YORK" 全16曲中9曲。当時16歳の高校生は、その後、別番組での放送をエアチェックしたり、LPを手に入れることで、残りの7曲を聞くことができたでしょうか。残念ながら、1997年6月の復刻CD発売まで、聞くことはできませんでした。「語る資格」ないですね。
 改めて、"NO NEW YORK" の収録曲目は以下のとおりです。太字が「サウンドストリート」で放送された曲です。
NO NEW YORK
Side 1
THE CONTORTIONS
1. Dish It Out
2. Flip Your Face
3 Jaded
4. I Can't Stand Myself
TEENAGE JESUS AND THE JERKS
5. Burning Rubber
6. Closet
7. Red Alert
8. I Woke Up Dreaming
Side 2
MARS
1. Helen Fordsdale
2. Hairwaves
3. Tunnel
4. Puerto Rican Ghost
D.N.A.
5. Egomaniac's Kiss
6. Lionel
7. Not Moving
8. Size

The Contortions / Teenage Jesus And The Jerks / Mars / D.N.A. "NO NEW YORK"

 CUT OUT RECORDS(off note配給)からの復刻CD(ONCO-002)は、とてもうれしく、ありがたいものでした。この復刻の経緯については、ウェブサイト「ANTENNA」に掲載された制作担当の金野篤さんへのインタビュー記事「音楽のアーキビスト、金野篤が体現する「売りたいモノは自分で作る」という生き方」(2022年6月21日掲載、聞き手・文:峯大貴)https://antenna-mag.com/post-59062/ で詳しく語られています。権利関係はクリアできたものの、制作費は自腹、親に借金して工面したそうです。オリジナル盤の仕様に準じて、内側に歌詞が印刷された内袋を再現(金野さんの2024年4月2日のex.Twitter投稿によると、初回2000枚分について手作業で糊付けが行われた)、歌詞の翻訳と解説は一枚ずつの円形カードに掲載と、ご自身が受けた衝撃を、新たな形にして伝えるという姿勢がうかがえるものになっています。

 前掲インタビューでも語られていますが、この復刻CD発売時に、1977年3月に渡米し、ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークスに参加していたことがあるフリクション Friction のRECK氏(「あの4バンドは特殊だよ、他にはいない」)と、オリジナル盤発売当時に聞いて「勇気づけられた」というアーント・サリー Aunt Sally のPhew氏(「敷居を低くしたというのがね、いろんなありとあらゆる音楽へのね」「それが功績だと思いますね」)へのインタビューと、RECK氏提供による当時のライヴチラシを掲載したコピー冊子が配布されました。

「NO NEW YORK SELF HELP HANDBOOK」(1997年6月29日発行)

 語る資格はない、ので、堂々とは語れませんが、ラジオを通じて、そして長らくエアチェックテープでしか聞いていませんでしたが、1曲目の "Dish It Out" を聞いたときの衝撃は大きなものだったと思います。パット・プレイス Pat Place のスライドギター、アデル・ベルテイ Adele Bertei のオルガンに特に惹かれ、真似をしていました。後に「NO NEW YORK SELF HELP HANDBOOK」で、RECK氏が「とにかく彼女のあのスライドっていうのがポイントなんだよ。ギターに関しては。あれは、元々マースがやってたんだよな、一番最初は。で、リディアもやりだして」と話されているのを読んで、ぐっときたものです。
 この衝撃を思い出させてくれる文章がもうひとつありました。大友良英さんが「webちくま」に連載されていた「ぼくはこんな音楽を聴いて育った ―東京編―」第6話「四畳半の一軒家で「僕らの音楽はこれだ!」と叫んだ日のこと」https://www.webchikuma.jp/articles/-/1728 です(2019年5月掲載)。

コルトレーンもデレク・ベイリーも、ジミヘンも高柳昌行も、阿部薫も、皆、かなり年上の兄貴達の世代の音楽で、自分はなんだか出遅れてしまったような感じがずっとしていて、なんでオレ、もっと早く生まれてこなかったんだろうって思ったもんだけど、『NO NEW YORK』を聴いたときに初めて、

「僕らの音楽はこれだ!」

 そう思ってしまったのだ。コントーションズだけじゃない。アート・リンゼイやイクエ・モリがいたDNAもめちゃくちゃカッコよかった。おまけにこの時アベくんが持ってきたもう1枚がTHE POP GROUPの2枚目のシングル盤「We Are All Prostitutes」だった。これもめちゃくちゃカッコよかった。ゲストで入ってるトリスタン・ホンジンガーのアナーキーなチェロが最高だった。これまで聴いてきたあらゆる録音とはまったく違う、歪んだ薄っぺらな音に痺れまくった。

「ぼくはこんな音楽を聴いて育った ―東京編―」
第6話「四畳半の一軒家で「僕らの音楽はこれだ!」と叫んだ日のこと」

 引用が長くなってしまい、申し訳ないですが、わたしも、ポップ・グループの "We Are All Prostitutes" について、当時作っていたミニコミに「同世代の音楽だ」と書いたのです。"NO NEW YORK" の衝撃と共に、共感の二文字しかありません。

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