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顔はどこから描き始めますか?フムフムの金井真紀さんにきいてみた

ノンフィクションの書き手に「取材と書くこと」についてきく「インタビュー田原町」12人めのゲストは、『テヘランのすてきな女』(晶文社)を出されたばかりの金井真紀さん。
8/11㈰、Readin’Writin’ BOOK STOREにて行った、「インタビュー田原町12 金井真紀さんにきく」の記録(後編)です。12000字



『テヘランのすてきな女』晶文社
前身黒づくめの女性たちは、テヘランの女子相撲の選手たち。



前編から読む👇


話すひと=金井真紀さん
きくひと🌙朝山実(構成・文)


(5分間の休憩中、🌖人前でするインタビューは何度やっても慣れることがない。雑誌媒体の場合とは勝手がちがいますねえ。とか、お客さんをまじえ雑談していました)

女性のお客さん きょうは訊くほうの勉強をしようと思ってきたんですけど。ちょっと必要性があって。

🌙 逆にどういう事情なのか?お聞きしたくなりますね、そう言われると。

お客さん いえいえ(笑)

🌙 よく迷うのは、いまみたいに雑談していて何だか面白そうなことを話をしだしたぞというときに録音したくなるんですよね。

金井さん(以下略)「ああ、今更というときですよね」

🌙 たまに「録っていいですか?」と言ったりすることあるんですけど。

「若かった頃はテレビの取材のときにも、ぜんぶ書いていて。人って待ってくれるんですよね。一生懸命だと思うのか、追加の話をしてくれたりもする」

🌙 目の前でノートを開いているんですか?

「そうです。私のメモを見ながら『ああ、そういえばね』とか」

🌙 漢字の間違いを指摘されたりとか? 

「そうそう。『これニンベンですか』とたずねたり」

🌙 いま思い出したんですけど、『はい、泳げません』(新潮文庫)などを書かれたノンフィクション作家の髙橋秀実さん。彼は一切録音しない。すべて大学ノートに書きだす。それも大きな字で。一度見せてもらったんですけど、一回のインタビューで一冊を使い切る。「いや、その字じゃなくて」と直されることもあるとか。

「私もそっちに近いですよね。数日前、お酒の場で面白い話が出てきたんですよ。取材じゃなかったんですけど『メモしていいですか?』と言ったら、さらに詳しく話してくれるということがありました。そんなに関心があるんだったら、となるんでしょうね」

🌙 インタビューの仕事をはじめた頃、わたし、ノーリアクションが多かったんですよ。いまなら質問した返答に納得したら「へえ」とか「なるほど」とか言えるんですけど、黙って次の質問に移る。相手はこちらが理解しているのか、それでなくとも、ぼぅっとしているのがやって来て、不安だったんだろうなあ。

「それ、コワイですよね」

🌙 そう。何か反応しなさい!!と当日の自分にツッコミいれたくなりますよね。あ、5分過ぎましたね。ということで、再開しまーす!
(最近、間に休憩を挟むことで一息つけるようになってきた。とくにお客さんが会話に参加してもらえたりすると落ち着ける。これも学習です)

参観者©️提供

似顔絵はどこから描き始めますか?


 🌙 金井さんは2015年に『酒場學校の日々』(晧星社→ちくま文庫)を書かれています。お客さんとして通っていた新宿ゴールデン街の「學校」のママさんが入院され、ママの代理をされていた。今日はこういうお客さんが来て、という報告のために似顔絵を付けたレポートを届けていたのが、絵を描くようになったきっかけだったとか? それまで絵は。

「ほぼ描いてないです。高校のときに芸術選択というのがあって、美術ではなく書道にしたし。旅行とかで食べたパンとかをスケッチする、その程度でした」

🌙 突然描き出した人には思えないですけど。

「あ、ありがとうございます。最初はだから似てなかったんですよね。でも、続けて描くうちに好きになってきて」

🌙 似顔絵は似せようと?

「もちろん」

🌙 ひとによっては似すぎて周囲も「そっくり」と高評価。描かれた本人だけが複雑な表情をしているということ、あったりすると思うんですけど。金井さんの絵は、本人も顔がほころぶ似顔絵ですよね。

「幸い画力がないのと、好きになった人しか描けない。いつも自分がこのひと好きだなあという気持ちをもちながら、失敗して、もう一回、ああもう一回、と描いてます」

🌙 写真を見たりするんですか?

「テヘランだと写真を撮らせてもらって、あとで見返しながら」

🌙 まずどこから描きだすんですか? 顔の輪郭からとかですか。

「どうだろう……。顔の輪郭、髪の生え方、前髪のあるナシもありますけれど……。
オデコの面積と目の離れぐあいがポイントというか。
私、駅で待ち合わせているときに、ずっと行き交う人を見ているんですよね。目の離れ方とオデコのあたりに目がいく。そこがちゃんと描けると似てくると思っていて。そこを先に描いているかなあ……」

🌙 そうなんですね。あと、金井さんは「手」もちゃんと描くでしょう。なんでもない仕草がいいですよね。

「あ、手、好きです!! 手のしぐさとかも。最初の頃にそれを言ってくれた人がいたんですよね。手って、サイズも形もそうだし、しぐさとかにその人らしい特徴があるでしょう」

🌙 指が太い、細い、ゴツゴツしているとか。わたしは指が短いのがコンプレックスで、じっと見られると嫌だったりするんですけど。

「ああ、そうなんですね。でも、タバコにしてもどうやって吸うのか、こんなふうに(親指と人差し指でつまむ)、持ち方にその人が出ますよね。そういうのをちゃんと描いたほうがいいよ、と言ってもらったんですよね。ああ、いま思い出しましたけど。ふだんは意識せずにやっているので」

🌙 でも、描くのが難しいでしょう、手は。写真もそうだけど、動きを出そうとすると意味を持ちすぎたりして。

「そうですね。私は見た通りに描くようにしているんですけど。困るのは、写真に写ってはいないのに無理に描き足すとすごく不自然になる。だから絵も文章も、見たままにしか書くことができないんですよね」

『テヘランのすてきな女』から

そういえばインタビュー後にポートレート写真を撮るとき、「手はどうしたらいいですか?」と訊かれることがある。とくに何もしないでいいですというのだけど、気をつけの姿勢になったり腕組みしたり。なかなかシャッターを押さないでいると、だらんと伸ばしてくれ、シャッターを切ることが多い。尊敬する写真家さんをインタビューしたとき、ポーズに注文をつけない。そう教えてもらったのもあるけれど。手は顔よりもその人自身を語っていることがある。

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