2023/06/08「わかった気になれないね」

 今日も特に予定がなく、なんでもない日を過ごした。出来事の記述がなさすぎて日記なのか怪しいけど、しばらくはアウトプットとして書き続けてみようとおもう。


・今日はずっとAI(特に、画像生成AI)をめぐるSNSの状況についてグルグル考えていた。生成AIに明るいわけではないけど、普通の人の所感として書き留めておこうと思う。

・AIの話をする前に、まず「SNSは議論の蓄積に向いていない」という確認をしなければならない。SNSにおけるAIについての論争はその特性によるところが大きいと考えられるためである。

・蓄積に向いていない理由はSNSの定型文は特定の意見が前景化されるからだといえる。文字制限に収まるように工夫された定型文は非常に分かりやすい。たとえば、「よく〇〇と言われているが、実は〇〇という例があり、つまり〇〇なのだ」といった定型文がある。これは「既存の文脈を提示し、それを捉え直し、別の考え(答え)を示す」という構造になっている。

・この構造の良さは、自分の意見と別の意見や文脈とを対するものとして位置付けられる点にある。既存の意見を背景として、自分の意見を前景化するのは文章のテクニックとして必要なものではある。とはいえ、このような定型文はSNSにおいて問題含みだといえる。たとえば、背景となる議論について吟味することなく、都合の良い部分的事実を取り上げたり、「存在しない背景となる意見」を勝手につくりあげることで、どんな意見でも主張可能になったりする。

・また、定型文は決定論的な主張に偏りやすく、そのため多くの誤読を生じさせやすいという問題もある。定型文では、基本的に「AならばBだ」という主張を前面に出さなければならない。本来はCやDといった前提があったとしてもすべてを記述することはできないため、読み手は見えない前提(X)を想像して、議論の隙間を補完しながら読むことになる。そして、書き手と読み手の抽象化の水準が異なるとき、深刻な誤読が生じる。本の場合、ある程度の長さで中身のある議論が提示されるので、見えない前提(X)を丁寧に掘り下げていく態度が読み手に自然に要請されるが、SNSではそうした態度の養成が難しいのだと思う。

・他にも言及しておくべきことはあるが、とりあえずそうした問題含みの定型文があり、それが負のサイクルを生み出すことを指摘しておきたい。負のサイクルとは、「勝手に作った思想や誤読を含んだツイートを誰かが生み出し、それがさらに別のツイートを促して、そしてまた別のツイートを……」という反応の一連の連鎖のことである。SNSでは、議論の美味しい部分だけが流れてくるようにシステム的に構築されており、本当に大事なものが見えなくなっている。なぜ目の前に桃が流れてきたのか、その桃を拾うということはどういうことなのかを考えなければならない。


・AIの話に移ろうと思う。AIの話といっても(私の知る限りでは)まだ議論の整理すらまともにされていないし、その整理された議論が人々の間で一般の道徳性を帯びて落ち着いていくのはずっと先になるのだろうと思う。

・AIの話をする上で考えなければならないことは山のようにある。著作権の問題、アイデンティティの問題、AIによって開かれるリスクと可能性、議論の蓄積の難しさ、などなどいくら考えても散らかってまとまらない。なにも分からない……。しかし、重要なのはAI技術が時代を革新するものであり、説明されても分かった気になれないということかもしれない。

・私が分かった気になれないのはおそらく既存の思考基盤を用いて考えているからだと思う。たとえば、イラストとアイデンティティについての私の意見は本当に大雑把で「絵を描く理由なんて、別に楽しければなんでもいいよな」という感じだった。しかし、絵を描くこと自体にアイデンティティを感じている人もいれば、(描いた絵が)多くの人に見られていることにアイデンティティを感じている人もいる。いいかえれば、他者の視線をどの程度アイデンティティに組み込んでいるのかは人によって異なっている。しかし、私はこのグラデーションを理由はなんでもいいし、考えなくてもいいという差し当たりの意見に身を任せて無視してきた。そうすることで、SNS上で絵を見る自分の視点をフラットにしようと試みてきたのだと思う。

・しかし、AIの登場によってこのアイデンティティの問題が権利の問題やリスクと可能性の問題などと結びつき、無視できない具体的で解決困難なものとして浮かび上がってきた。これまでは自身の思考基盤の上で勝手に納得することが可能だったが、AIの登場という外部の変化によってそうもいかない状況になっている。多くの人が拠り所である基盤を失くして分かった気になれない状況なのではないだろうか。そうだとすると、客観的で包括的なAIについての説明が可能になったとしても、私たちの間に基盤と言えるものが築かれるまではしばらく混迷が続きそうだと思った。

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