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フードファイティンガー 爆食!!

 爆食院 饕餮(ばくしょくいん とうてつ)は頭を抱えていた。彼はフードファイティング部の一年生でありながらも年二回開催する春季山俵満腹超食大会の三回戦へ駒を進めていた。それでも彼は今、控え室で項垂れている。その訳は三回戦の品目にあった。その品目は"みそ汁"。ただ、なにもみそ汁が熱い液体だから彼は悩んでいるわけではない。フードファイティングには尋常じゃない熱さの料理は必ずと言っていいほど出るし、今大会二回戦も"激辛沸騰殺戮チゲ鍋"であったのだ。それを制した彼が”みそ汁”に悩んでいるのは、この大会がプロアマ問わずに出場できるという点だった。この制度によって一回戦はほぼ意味を成していない。二回戦がフードファイティンガーたちにとって事実上の一回戦である。三回戦ともなれば残っているのは強者のフードファイティンガー。横を見ればプロとして一線に立ち続ける者、名門学校のエース。彼らは毎日何ガロンもの水を飲み胃を膨らませている。そんな彼らにとってみそ汁など、それこそいくらでも飲める。勝負は量以外で決まるのだろうと大会に関わっている全員が考えていた。そんな中、唯一彼だけはその舞台に立てない。まだ中学一年生である彼は胃を体面積よりも膨らませる術すらも身に付けていないのだ。

「今季はここまでなのか…」

 絶望のあまり控え室で俯きながらそう呟いた彼にアメリカに留学経験のある先輩、桜餅 大納言 猿太彦(さくらもち だいなごん さるたひこ)が声を掛ける。

 「これを使え。デーズ。ピョロビョロ(駆動音)」

 先輩の手にはキンキンに冷えたロールケーキアイスメイカーがあった。

 灼熱を凍らし異常気象をも巻き起こす、波乱の三回戦が始まる−

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