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フードファイティンガー 爆食!! 3

 青山竜舌焼中学校(あおやまりゅうたんしょうちゅうがっこう)からの帰り道、爆食院 饕餮(ばくしょくいん とうてつ)の顔色は明るかった。行きのときは15度近くある上り坂と、春季山俵満腹超食大会(しゅんきやまだわらまんぷくちょうくいたいかい)の三回戦で負けたことでこの世のすべてを恨むような面であったのに、今ではお子様ランチの旗を引き抜く時のあの笑顔だ。その笑顔の訳は、青山竜舌焼中学校で出会った前年のインターハイ全国一、若き天才と呼ばれる風秤寺 窮奇(かざはかりでら きゅうき)と行った練習ファイティングにある。ほんの二か月前にフードファイティングの門を叩き、自分の才能に舞い上がってプロの壁に潰された爆食院 饕餮であったが、風秤寺 窮奇との練習ファイティングの結果は惜敗であったのだ。

 まだ夏本番とは言わない暑さであるし夕方でもあるのだが、熱中症は怖いからと、桜餅 大納言 猿田彦(さくらもち だいなごん さるたひこ)は山道の通学路の脇にあった飲料自動販売機でスポーツドリンクを爆食院 饕餮に奢った。

「ありがとうございます。先輩。俺、俺やっぱ才能ありますよね?」

 爆食院 饕餮の笑顔と興奮を背に受けつつ、桜餅 大納言 猿田彦は自分のスポーツドリンクを飲料自販機販売機の取り出し口から取り出す。

「だって、あの人、去年の全一っすよね?その人相手に惜敗っすよ!」

「・・・デース。キャピュロ(駆動音)」

「ん?どうしたんすか?」

「教えてやるよ。風秤寺はシングルで全国一だったわけじゃないんだよ。デース。ピュキュロム(駆動音)」

 中学生のフードファイティングにはシングルとダブルスの二種目が存在する。シングルでは、春季山俵満腹超食大会や今日の練習ファイティングのように一人で品目を食していく。しかし、ダブルスではその名の通り二人で品目を食す。シングルではただひたすらにほかの人よりも胃に品目を落としていくだけであったが、ダブルスでは違う。シングルよりも短い試合スパン、二人の胃の容量、それぞれの得手不得手、そして何よりも、一人が食べている間もう一人はフリーであるということ。そこで見えるのは地獄の様相。勝ち抜くには、人並み超えた知と力を備えた食を発揮する必要がある。

「ダブルス・・・。フードファイティングって、奥が深いんすね」

 スポーツドリンクを飲むと、冷えた液体が体に澄み渡るのを感じる。山道を撫でる風も相まって先程まで暴れていた興奮は、冴えた熱意へと変化していく。

「むしろお前は恥じるべきなんだよ。デース。シングルで二か月もその才能振り回したのに、一日目の風秤寺になんか負けたことを。デース。ピュウミュン(駆動音)」

  桜餅 大納言 猿田彦は叱責してる間にもスポーツドリンクを飲み干していた。ガコン、とゴミ箱に空のボトルが落ちる音が、爆食院 饕餮の頬を代わりに打つ。

「・・・俺、強くなりたいです。先輩」

 桜餅 大納言 猿田彦はその声に返事はせずに、ただ黙って歩いていく。下り坂、落ちる夕日に向かう背中に、爆食院 饕餮は駆け足で追い駆ける。奢ってもらった空のボトルを抱えたまま。


才能がある。

尊敬する先輩からのこの一言で、どんな道でも歩める、付いていける。

そんな気がする。




 先輩たちや同級生たちと踊杭鮮海鮮中学校(おどりぐいせんかいせんちゅうがっこう)フードファイティング部で特訓の日々を過ごす爆食院 饕餮。インハイ予選に向けての調整の一環で、ついに爆食院 饕餮は踊杭鮮海鮮中学校フードファイティング部主将にして頂点捕食者、山俵 竜(やまだわら りゅう)と対決する!

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