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フードファイティンガー爆食!! そのはち

 爆食院 饕餮(ばくしょくいん とうてつ)は天井を見上げていた。彼はフードファイティング部一年生でありながら名門中学校の副部長を下し、県予選の三回戦に駒を進めた。そうして今、彼は暗い天井を見上げている。その理由は三回戦の相手にあった。その相手は踊杭鮮海鮮中学校(おどりぐいせんかいせんちゅうがっこう)フードファイティング部主将、山俵 竜(やまだわら りゅう)である。また、今回の品目が”剛堅なめ茸のお吸い物”であることも、爆食院 饕餮を上向かせていた。会場前の廊下のベンチに腰かけ、開始時刻を待つ爆食院 饕餮は入部当初を思い返す。あの頃は項垂れていたが、今は違う。強敵と戦えることを心の底から喜んでいる。舌も、心臓も、胃も、脳も、すべてが食を待っている。

「食いてぇな・・・はやく」

 飢えにすら飢えた悪魔のように心を震わせている爆食院 饕餮に、桜餅 大納言 猿田彦(さくらもち だいなごん さるたひこ)が話しかける。

「随分と楽しそうじゃないか。デース。キュロキュロ(駆動音)」

「えぇ。勝ちますよ。主将が相手でも。俺は、俺は勝ちます」

 爆食院 饕餮の目は、刃は鋭く研がれていた。あんなに毀れさせた才能は一週間も経たずに磨き上げられている。いや、磨き上がっている。誰の手でもなく、爆食院 饕餮自身の手で。

「・・・先輩。一つだけ、言いたいことがあるんです」

 その言葉に桜餅 大納言 猿田彦は自分の師匠ごっこの終わりを覚悟した。

 しかし、爆食院 饕餮の飢えはそんなものではなかった。

「この大会を俺が全部勝ったら、俺とフードファイティングしてください。踊杭鮮海鮮中学校のフードファイティング部員同士ではなく、フードファイティンガー同士として」

 その言葉はあまりにも清く、そして残酷に桜餅 大納言 猿田彦の心を裂いた。爪で引き裂かれたような心の隙間に高揚した会場の熱気が入り込む。どうやら、三回戦の開始のベルは鳴っていたらしい。

「・・・行ってきます。先輩」



 爆食院 饕餮は今日、竜を食い殺すことになる。桜餅 大納言 猿田彦はそれを見送ることしかできない。


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