マリオン 79

「だったら、三人で部屋を出た方がいい。女医さんは、外に出られたらすぐにどこでもいい、連絡を取ってほしい」
「わかった」
 我々三人は、ひとまず下を目指した。とにかく足音を立てないように非常階段をめざした。その間にだれも出会わなかったことに不審をぬぐえなかったが、非常階段に到着してからは一直線に一階まで下りた。
「ちょっと待ってろ」
 パットが非常ドアを慎重にあけて様子を見るや、すぐにドアを閉めた。
「駄目だ、入り口が占拠されている。恐らく、テロ集団だろう。見たところじゃ、到着して、これから占拠に移るつもりだろうな」
「じゃあ、ここから出られませんね」
「この様子だと、裏も塞がれていると考えた方がいいな。……、女医さん、他に出るところはないか」
 アイラ女医が頭を振った。
「だとすると、ここを強行突破するしかないな」
「でも、それをするには、ここの連中が邪魔になりますね」
「俺が囮になる。なる、といっても音を鳴らせば済む話だ」
 パットはそういって再び階段を駆け上がっていった。その様子は、足音を忍ばせつつ近づく禽獣のようで、丸めた背中の姿はある種の美しささえ感じた。
 パットの背中が見えなくなってほどなくすると、鉄の塊が落ちてくるような大きな衝撃音が響いた。アイラ女医が思わず肩をすくめるほどであった。すると、何やら叫び声を阿あげながら、テロリストたちは二階の方へ上がっていくのが見えたので、アイラ女医をそのまま外に出した。
「あなたはどうするの」
「確かめたい事があるので、戻ります」
「無茶よ」
「大丈夫です。もし、テロの首謀者が私の考えている人であれば、人を殺すことはしないはずですから」
 「私」はアイラ女医を外に出すと、アイラ女医はそのまま夜の闇に溶け込んだ。
 そのまますぐに非常階段に戻って、さらに二階に上った。だが、パットの姿はない。といってむやみに動くわけにもいかない。
 肩を叩かれた。そしてすぐに耳元に顔を感じた。
「俺だよ」
「脅かさないで下さいよ」
「で、これからどうする。ヤコブってやつのところに向かうか、あるいはベイカーのところに向かうか」
「大佐のところに向かう前にヤコブ博士のところに行きましょう。聞きたい事もありますし」
 ヤコブ・グラハムの研究室は前と変わっていない。テロリストたちは人数が少ないのか、思ったよりみる姿が少ない。あるいは、占拠するために人数を割いている可能性もある。

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