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夏の終わりそしてミントグリーン

「食べ物に絶対使っちゃいけない色ってあると思うんですよ」

どこかのレシピ本でそう言っていたのは漫画家の羽海野チカさんで、そのあと彼女は水色を例に出していたように思う。

その類でいくと、ミントグリーンも相当にアウトな色だ。

マカロンなんかはそういう食品概念を一切無視して、すみっコぐらしの仲間たちみたいなカラー展開がされているけれど、あれは「おいし〜」の気持ちじゃなく「かわい〜」の気持ちで食べる食べ物だから例外とする。あれは食べられる雑貨だから。

その、禁忌色のミントグリーン食品、チョコミントアイスが私は好きだ。子どもの頃から大好きで「歯磨き粉の味するヤダァ」と嫌がる同じ社宅の佳奈ちゃんを尻目に、一途にチョコミントファンだった。
歯磨き粉の味? 結構じゃないか! 歯磨き粉を合法的に食べられる素晴らしいフレーバーではないか。
ミント味だとなぜかカロリーが低いような錯覚をするのだけれど、普通に普通のアイスと同じくらいのカロリーがある。それが不思議。不思議でもないか。



夏の終わり。
お盆を過ぎると暑さもひと段落、なんてよく聞く。

何年か前のお盆休みの前日、私は自転車に乗った状態で車と衝突した。
小説のコンテストで準大賞と賞金をもらい、記念にとミントグリーン色の自転車を買ったばかりだった。その自転車がお気に入りでお気に入りで、「かわいいね」と話しかけるなどして大事にしていた。それなのに事故である。

明日からお盆休みというウキウキした気持ちで、スーパーで買ったチョコミントアイスが溶けないようにと大急ぎの帰路の途中だった。歩道を走っていた私はすっかり油断していて、歩道を一時的に横切ってドラッグストアへ入って行こうとする車に押されて横倒しされる形でぶつかったのだった。

倒れる瞬間はものすごくスローモーションだった。その時の私の頭の中は、お気に入りの自転車とチョコミントアイスが溶けちゃう心配でいっぱいだった。
幸いかすり傷程度で済んだのだけれど、慌てて出てきた運転手の女性への第一声が

「私、アイス買ったんです、私、アイス買ったんです」

だったように思う。同じように気が動転していた女性も

「あら大変、あら大変」

と二人してアイスのことで慌てふためいていた。



あの夏もだったけれど、ここ数年は「お盆を過ぎたら涼しくなる」なんて気休めで、今年もやっぱり9月になっても暑くて、夏が苦手な私にはつらい。

いつの間にか職場のベッドのタオルケットはすべてミントグリーンに統一されていた。
ミントグリーン、いいな。
一番水色に近い、一番さわやかな緑色。

淡い水彩でミントグリーンの服を着た女の子のイラストを描きたくなった。
帰ったら描こう。そう思ったらチョコミントのアイスまでもが恋しくなった。

おそらくこの夏最後となるチョコミントのアイスを買って帰る。夕方はちょっと秋の気配がする。今日は事故に遭わなかった。

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