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エピローグ いつのまにか眠り込んで、目覚めたときには日が昇るところだった。樹々の葉陰から…
伊澤ちはる 六この世で最も透明なものは、涙だと思う。 雨はまだ蕭々と降り続けている。 い…
司水菫 六 橋の下で交わる、小さな濁りの川はいつから濁っていたのだっけか。記憶を辿る。あ…
水 六 わたくしはずっと、自分の生まれを憎んでおりました。 わたくしは、一般に知られては…
伊澤ちはる 五 春は特別な季節です。害も悪も、水の洗いを以て清められり。 あ、水花が潤ん…
司水菫 五(後編) 読み込めば読み込むほどに謎を呼ぶ書き方は、まるで森沢のおばさまそのもの…
司水菫 五(前編) 翌日から、私は智世子お姉さんの学校の図書室に通うようになった。 「森沢のおばさまが民俗学者だなんて知らなかったわ」 隣の智世子お姉さんが難しそうな本を二人の真ん中に置いて開く。今日も長机に並んで座った私たちの他に、利用者は二、三人しかいない。ね、と彼女も同意した。 「直接耳にしなくても、ご近所の間で話題になりそうなものなのにね」 開いているのは分厚い郷土資料だった。編者は森沢都──森沢のおばさまだ。智世子お姉さんによると、卒業後民俗学者になった彼女編の
水 五 この林に来てから、透明にも影ができるのだということを知った。 影ができるというこ…
伊澤ちはる 四 “きれいなお花を浮かべましょ 睡蓮 浅紗に 水芭蕉 月のない夜は きよら…
司水菫 四 花弁によく似た蛾の翅の毳を覆いし鱗粉が──。 蛾は、結局みつからなかった。 …
水 四 いきがつづくまで、吐く、吐く、吐く。 吐いたそばから重みで沈んでゆくそれは怨念の…
伊澤ちはる 三 問題は摩擦だ。あれが滑らかな移行に歪みを作る。 月が出ている、 ──と思…
司水菫 三 「女の子が欲しかったのよ」 と森沢のおばさまは嬉しそうに笑みをこぼした。そう…
水 三 世界は繋がる、昼も夜も。まるく放射状に拡がってゆくロゼットのように。 朝、袖を通したブラウスのカフスから、透き通るガラスの釦が取れて転がりました。 柔らかな苔の上を転がってゆくその綺羅めきを眺めていたとき、わたくしは突如としてあの幼女がもう二度と此処へ来ることはないのだということを悟りました。 ──入れ替わったのね。 ひとり入ってはひとり出てゆく。わたくしと、入れ替わったのです。 知らず知らず順応して、この世界のことを理解しはじめていました。 この林は浄水場その