工場改善のネタは尽きることはない「第857回早朝工場見学会」@枚岡合金工具 潜入レポート(枚岡合金工具特集Vol.1)
長屋の中に出現する町工場
大阪メトロ千日前線の北巽駅に降り立った編集部チームは、Googleマップを手に今日の工場見学の場所を探して歩きました。
道路沿いには住宅と小規模な工場が立ち並んでいます。次第に道路が狭くなり、長屋の間を抜けていくと、その工場が現れました。
ここが今日の工場見学、枚岡合金工具金型事業部の工場です。2階にあるセミナー部屋に通されると、代表取締役会長の古芝保治(ふるしばやすはる)さんとIT事業部の林 朋可(はやし ともか)さんが出迎えてくださいました。
こちらが代表取締役会長の古芝保治さんです。
枚岡合金工具は主に冷間鍛造(れいかんたんぞう)金型の設計製造を行う会社ですが、自社の3S(整理、整頓、清掃)の取り組みを広く紹介するために、工場見学会を開催しています。編集部がお伺いしたのはその「第857回早朝工場見学会」。なんと857回目!延べ16,000名以上の方々が日本だけではなく、海外からも多数見学に来られたという見学会です。
* 見学者は手作りのウェルカムボードと枚岡合金工具のオリジナルキャップで記念撮影があります!
古芝会長はMacBook ProのKeynoteでプレゼン資料を開き、編集部チームにこれまでの枚岡合金工具での3Sの取り組みの歴史をご説明してくださいました。編集部はこれまで多くの町工場の方々に取材してきましたが、PowerPointではなくKeynoteでプレゼンを拝見するのはこの日が初体験でした。
最初に見せていただいたのは、マイクロドローンによる工場紹介です。衝撃の映像です。建屋の内外をドローンが縦横無尽に周る映像です。ちなみにこの映像は2018年に公開されています。
清掃体験
プレゼンのあとは「清掃体験」です。枚岡合金工具の皆さんが普段行っている清掃を、工場見学者にも体験してもらおうと企画されているもので、編集部メンバーも体験させていただきました。清掃する前から床はエポキシ系塗装+U Vフロアコーティングで十分綺麗に見えますし、ゴミも落ちていません。編集部メンバーも専用の洗剤と雑巾をお借りし、床掃除を体験しましたが、意外にもまだ汚れが取れるのです。気持ちよい体験でした。
工場改善事例
工場を見学させていただくと、随所に3Sの工夫が見られます。
「工具の形跡管理」工具類の場所にその形の絵を書いておき(姿絵)、置き場所を明確化。
「台の下にキャスター」人の力で簡単に移動できる棚。掃除の際にも便利で配置替えも簡単。
「立ったままパソコン」パソコンの机の下に台があり、立ったままパソコン操作ができる。使いやすい高さになるように台を組み合わせています。机の後ろを見ると、ケーブルがきれいにまとめられています。枚岡合金工具ではあらゆるケーブルが綺麗に整理されていました。
「定数管理」在庫を最小化するため、消耗品在庫は定数と予備数を決め、吊るされた定数の工具を取り出すと「FAX注文書」が自動的に現れ、手にした人がFAXをして、黄色い表示ラベルを裏返して赤色の「FAX注文中」を表示する仕組み。FAX注文書は折りたたんで入れてあり、名前と日付を書くだけですぐFAXで注文書を送ることができます。
「工具棚のコンビニ棚化」工具を寸法ごとに仕分けし、数秒で工具を探すことができる工具棚。
「文房具の形跡管理」ウレタンを使って文房具の配置位置を決める。誰かが使っているときにはそれがないことがすぐわかる仕組み。
「ファイル棚の番地管理」ファイル棚の場所を決めるだけではなく、背表紙に絵を入れ、設置場所をさらにわかりやすくしています。
まださまざまな改善があり、この紙面ではご紹介しきれません。
工場改善の取り組みでよく聞く“5S”は整理、整頓、清掃に清潔、躾も含まれますが、枚岡合金工具では『整理、整頓、清掃を行えば清潔、躾も実現できるはず』という考え方で、あえて”3S”というふうにおっしゃっておられます。そして、単に工場を綺麗に保つという意味だけではなく、『安全・快適・効率的な職場を作るための活動』と位置付けておられます。誰かにやらされる活動ではなく、自分たちが安全に快適に職場で仕事をするために行うというところが重要なところだということです。
しかし、ここまでに至るにはさまざまな壁があったそうです。反対派も含めた取り組みの進め方、ベテラン社員さんが取り組みに反発した話、工場で放電加工機から火事が発生した話など、1999年から開始した3Sの取り組みは一筋縄ではなかったそうです。
その取り組みも20年を超え、さらに次の改善に進んでいます。
情報の3S
編集部が注目したのは、さらに「情報の3S」という考え方です。IT/IoTを活用し繰り返しの業務を改善したり、情報の行き来を改善していこうという取り組みです。
「工作機械の温度管理」温度センサーを工作機械の中に設置し、不良率との相関を見える化する仕組み。
「工作機械の稼働ランプ」工作機械にセンサーを設置し、稼働状況をランプで知らせると同時に、クラウド経由でパソコンやスマホで稼働状況を見える化する仕組み。
「BOSSセンサー」社長の靴の有無から社長が在席しているかどうかがわかる仕組み。
枚岡合金工具ではこれらの取り組みを積極的に発信し、ITツールとして開発したものは外部販売もされています。「情報の3S」を実現するきっかけとなったITツールへの取り組みとその背景は、枚岡合金工具特集2「IoT化のきっかけを作った製造グループ 渡邊成雄さん」、枚岡合金工具特集3「町工場向けIoTを提案する ITグループ 田原健次さん」の記事をご覧ください。
編集後記
驚くべきことに、枚岡合金工具ではこれらの3S活動を1999年から行っておられます。すでに20年以上の歴史があります。「もう改善するネタなくなるんじゃないですか?」という私の迂闊な質問に対して、この日の工場見学ご担当の西田さんは「ネタ切れということはありません」と断言されました。そして、ITを活用した「情報の3S」に取り組み、最新技術を使いながら更なる3S活動を進めておられます。
つい私たちは改善活動の事例を見ると「こんな改善ならすぐできるから簡単」と考えがちなのですが、それはすでに実現している例を"実現した後から見る"からという面があります。実際に実現するためにはいろんな壁を乗り越えなければならないということを実感した取材でした。
枚岡合金工具の工場見学会について詳細はこちら をご覧ください。
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