monogatari9
【あらすじ】 一人の女性が目覚めると、見知らぬ部屋に閉じ込められていた。窓もドアも開かず、外との連絡も取れない。部屋には何もない、ただ壁に一つだけ奇妙な絵が飾られている。
【あらすじ】 タクシー運転手である田代は、ある夜、一人の女性をタクシーに乗せる。タクシーの中でその女性と言葉を交わしていると、その女性の様子に次第に違和感を感じ始める。
【あらすじ】 昨日、姉が自殺した。 いつも家の中で明るく振舞っていた姉。彼女の心の奥ではどのような闇が広がっていたのか。 姉は一通の遺書を残していた。そこに書かれていたこととは……。
【あらすじ】 不慮の事故でビルの屋上から落下した私。 そのとき過去のシーンが頭の中を走馬灯のようにめぐる。 だけどそのシーンの中に、本来、私が見るはずの無いシーンがあった。
壁に掛けられた奇妙な絵。 一メートル四方くらいの、この小さな部屋には不釣り合いな大きな絵だった。閉じ込められた部屋という閉鎖空間。その空間をさらに重苦しく、…
真尋はドアに耳をつける。 ドアの向こう側から、小さな音でもいいので何かしらの物音がしないかと聞き耳を立てる。だけど、そのドアを介してどんな音も聞こえては来な…
他の可能性……。 例えば、真尋の記憶にある“昨日”、親友の真由美と一緒に大学から帰ってきた“昨日”が、実は昨日のことではないということはないのか。 自分の記…
真尋は、机に置かれた一枚の紙を手にとった。 何の変哲もないコピー用紙のような紙に文字が印刷されている。紙を確認してみたが他に怪しいところはなく、別の文字の書…
真尋の呟きに、誰も答えてはくれなかった。 ひどく頭が痛む。昨夜、自宅に帰った後のことを思い出そうとすると、その頭痛が邪魔をする。うまく思い出せない。ただ時間…
あらすじ 一人の女性が目覚めると、見知らぬ部屋に閉じ込められていた。窓もドアも開かず、外との連絡も取れない。部屋には何もない、ただ壁に一つだけ奇妙な絵が飾られ…
エピローグ 深夜の街を、一人の男が歩いている。 仕事帰りのサラリーマンの姿もすでに路上には見えず、街はひどく閑散としていた。 彼は、会社を辞める後輩の送別会…
もし田代が嘘をついているのだとしたら、田代は5月10日の深夜に、居もしない乗客を乗せてタクシーを賃走にしたことになる。そして、後部座席に誰もいないタクシーの中…
田代がK町派出所に姿を見せたのは、深夜の1時12分だった。 その時、K町派出所には松永巡査長と藤田巡査がいた。同じくK町派出所に勤務する片岡巡査は、N交通からの…
2 石川英二は、目の前のマジックミラーを覗き込む。 マジックミラーの向こう側に、小さな部屋が見えた。 6畳くらいの殺風景な部屋の中央に一つの机が置かれて…
田代は唖然としながら、先ほどの佐々木の言葉を繰り返していた。 「何も、聞こえなかった……」 佐々木は確かにそう言った。 これほどの音が聞こえない訳がない。 …
逃げなくては。 窓ガラスに執拗に包丁の柄を打ちつけ続ける女を見つめながら、茫然とした頭の中でそのことだけは認識することができた。 ここから、逃げなくては。 …
女は再び右手を振り上げる。そして窓ガラスに包丁の柄を振り下ろした。先ほどと同じようなガンッという音が車内に響く。 田代は大きく目を見開いて、その女の様子を見…
エンジンをかけようと、ハンドル横に設けられていたエンジン起動用のプッシュボタンを押す。だけど、車の前方からキュルキュルという音がするだけでエンジンは掛からなか…
確かに、自分は早とちりをしてしまっていたのかもしれない。 佐々木の先ほどの言葉を思い出して、田代は急に不安になった。タクシーはキーを挿したままだ。誰かに乗り…
田代は、夜の街を走った。 自分がどこに向かって走っているのかも分からなかった。ただ、タクシーから少しでも遠くに離れたかった。そしてあの女から少しでも遠くに離…
2024年7月17日 06:57
壁に掛けられた奇妙な絵。 一メートル四方くらいの、この小さな部屋には不釣り合いな大きな絵だった。閉じ込められた部屋という閉鎖空間。その空間をさらに重苦しく、そして息苦しいものにしている。 真尋は顔を絵に近づけた。そして細部を観察していく。 その絵は山脈と森をバックにして、手前側に塔のような奇妙な建物が描かれている。全体として灰色と黒を基調とした陰鬱な絵だった。その建物にはいくつかの窓があっ
2024年7月16日 07:07
真尋はドアに耳をつける。 ドアの向こう側から、小さな音でもいいので何かしらの物音がしないかと聞き耳を立てる。だけど、そのドアを介してどんな音も聞こえては来なかった。ここまで無音だということは、かなりの防音対応が施されているのかもしれない。外の音が自分に聞こえないようにするためなのか、あるいは、自分の叫び声が外に聞こえないようにするためなのか。どちらにせよ、真尋にとって希望の持てる状況では無かっ
2024年7月15日 07:23
他の可能性……。 例えば、真尋の記憶にある“昨日”、親友の真由美と一緒に大学から帰ってきた“昨日”が、実は昨日のことではないということはないのか。 自分の記憶にある“昨日”と今との間には一年以上の時間の隔たりがあって、自分はその間の記憶を何らかの理由で無くしただけではないのか。 だけど、もしそうだとしたら、自分の記憶にある“昨日”着ていた服装と、今の自分の服装が全く同じ点に矛盾があった。そ
2024年7月14日 07:36
真尋は、机に置かれた一枚の紙を手にとった。 何の変哲もないコピー用紙のような紙に文字が印刷されている。紙を確認してみたが他に怪しいところはなく、別の文字の書き込みも見つからない。「真実は、いつでもすぐそばにある」 声に出してその一文を読んでみる。 実際に言葉にすることによって、そこに何かの答えが見つかることを期待していた。だけど、真尋の声は閉ざされた部屋に虚しく響くだけで、何の答えも与え
2024年7月13日 06:39
真尋の呟きに、誰も答えてはくれなかった。 ひどく頭が痛む。昨夜、自宅に帰った後のことを思い出そうとすると、その頭痛が邪魔をする。うまく思い出せない。ただ時間が経つにつれて、少しずつ思考がはっきりとしてくる。そして、それに伴って、自分を今取り巻く状況の異常さが徐々に深刻なものとして真尋の胸に迫ってきた。昨夜自分に何かが起きたのは確かだった。「まず、今の状況を整理してみよう」 真尋は自分に言い
2024年7月12日 07:16
あらすじ一人の女性が目覚めると、見知らぬ部屋に閉じ込められていた。窓もドアも開かず、外との連絡も取れない。部屋には何もない、ただ壁に一つだけ奇妙な絵が飾られている。1 佐藤真尋が眠りから目を覚ますと、自分の顔を蛍光灯の光が照らしていることにまず気づいた。 あれ、昨夜、電気消し忘れたんだっけ? そんなことを思いながら大きく伸びをする。次に気づいたのは、自分がベッドに寝ていないとい
2024年7月11日 06:46
エピローグ 深夜の街を、一人の男が歩いている。 仕事帰りのサラリーマンの姿もすでに路上には見えず、街はひどく閑散としていた。 彼は、会社を辞める後輩の送別会に行った帰りだった。 本当は一次会で帰る予定だったが、その後輩に、「先輩もぜひ二次会に来てください。相談したいことがあるんですよ」 とせがまれて、仕方なく二次会に参加した。だけど相談といっても何のことはない。後輩が今まで勤めていた
2024年7月10日 06:34
もし田代が嘘をついているのだとしたら、田代は5月10日の深夜に、居もしない乗客を乗せてタクシーを賃走にしたことになる。そして、後部座席に誰もいないタクシーの中で、タクシー本部に、「カバンの忘れ物あり」 という無線連絡をしたことになる。 石川はその光景を想像して、薄ら寒い思いがした。とても常人の沙汰とは思えなかった。 柳刃包丁の柄から検出された田代の指紋。これだけの物証が出ていれば逮捕は時
2024年7月9日 07:08
田代がK町派出所に姿を見せたのは、深夜の1時12分だった。 その時、K町派出所には松永巡査長と藤田巡査がいた。同じくK町派出所に勤務する片岡巡査は、N交通からの110番通報を受けて見回りに出ていた。 松永巡査長の証言では、その時の田代は、何かをひどく恐れているかのように落ち着きがなく、幽霊のような白い顔をして、目も虚で、ただ、「女が……、女が……」 と呟いていたという。 それはちょうど
2024年7月8日 07:32
2 石川英二は、目の前のマジックミラーを覗き込む。 マジックミラーの向こう側に、小さな部屋が見えた。 6畳くらいの殺風景な部屋の中央に一つの机が置かれている。そしてその机の向こうには、こちらを向くようにして一人の男が座っていた。目の下には深いくまができており、虚な目で、何も置かれていない机の上を見つめている。口では何かをボソボソと呟いている。 石川は耳を澄ます。 その男は、低く震
2024年7月7日 07:30
田代は唖然としながら、先ほどの佐々木の言葉を繰り返していた。「何も、聞こえなかった……」 佐々木は確かにそう言った。 これほどの音が聞こえない訳がない。 ガンッ、ガンッ、ガンッ。 田代のすぐ横で、女は依然として包丁の柄を窓ガラスに打ちつけ続けていた。 ミシ。 窓ガラスのひびは、徐々に大きくなっていく。 田代は絶望的な思いで、その広がっていくひびを見つめる。頭の中では、先ほどの佐々
2024年7月6日 07:37
逃げなくては。 窓ガラスに執拗に包丁の柄を打ちつけ続ける女を見つめながら、茫然とした頭の中でそのことだけは認識することができた。 ここから、逃げなくては。 この女から、逃げなくては。 田代は震える指で、エンジン起動用のプッシュボタンを押す。だけど先ほどやった時と同じように、キュルキュルという情けない音を出すだけでエンジンはかかってはくれなかった。「お願いだから、かかってくれ」 窓から
2024年7月5日 10:01
女は再び右手を振り上げる。そして窓ガラスに包丁の柄を振り下ろした。先ほどと同じようなガンッという音が車内に響く。 田代は大きく目を見開いて、その女の様子を見つめていた。 自分の身に何が起きているのか分からなかった。ただ茫然となりながら、口を半分だらしなく開けていた。そして、髪を振り乱して包丁の柄を窓ガラスに叩きつけてくる女の不気味な笑い顔を見つめていた。 それは何度も続いた。 ガンッ。ガ
2024年7月4日 07:30
エンジンをかけようと、ハンドル横に設けられていたエンジン起動用のプッシュボタンを押す。だけど、車の前方からキュルキュルという音がするだけでエンジンは掛からなかった。何度か押してみる。やはりエンジンは掛からない。「くそっ」 田代はプッシュボタンから指を離した。 ルームライトをつけっぱなしで長時間放置したせいで、バッテリーが上がってしまったらしい。こうなってしまうとロードサービスを呼ぶしかなか
2024年7月3日 06:40
確かに、自分は早とちりをしてしまっていたのかもしれない。 佐々木の先ほどの言葉を思い出して、田代は急に不安になった。タクシーはキーを挿したままだ。誰かに乗り逃げされてしまったら、それこそ目もあてられない。それでタクシーを壊されでもしたら、費用を自分が支払うことを求められるかもしれない。 今、自分はどこにいるのだろう。 改めて周りに視線を巡らせる。だけど、そこには見知らぬ街がどこまでも広がる
2024年7月2日 06:59
田代は、夜の街を走った。 自分がどこに向かって走っているのかも分からなかった。ただ、タクシーから少しでも遠くに離れたかった。そしてあの女から少しでも遠くに離れたかった。あの女から逃げろ。田代の本能がそう命令していた。 バス通りから離れるように住宅街の中に入っていく。田代はひたすら走り続ける。 深夜零時を回ったK町はやけに静かだった。仕事帰りのサラリーマンの背中を見ることもなかった。人が絶え