「週刊少女コミック」の萩尾望都 Ⅲ 『萩尾望都初期作品集』下 空前絶後
1、神様になる前に
昔の作品がなぜか突然、「週刊少女コミック」に再録されることになる。
萩尾望都はそれで生活が助かった、そのお金で竹宮恵子山岸凉子とヨーロッパ旅行をしたと書いてる。
自分はこれで、デビュー当時のマンガの多くを読むことができた。
今考えると、これはとても有りがたい良かったことだと思う。
それが無ければ初期の作品は、単行本(コミックス)で読むしか無いけど、それだとほぼ、1977年の『萩尾望都作品集』からになってしまう。
この時には萩尾望都は「少女マンガの神様」少なくとも”特別な存在”になっていた。だから全17巻の作品集(この時点での全集)が出た。
雑誌に、他のマンガと一緒に載っているのを読んで「これは他のマンガと違う!」と思うのと、名作傑作という評価が固まっているのを、後から読むのでは印象が異なる。
世の中(他人)が名作といってるものを読むのは、それを確認するためという面が出ちゃう。ちゃんと名作と思えなかったら、自分の感性がダメなのじゃないかというプレッシャーも掛かってくる。テストされてるような気持ちになる。
マンガを気楽に楽しめない。
一般に注目されていない作家作品を「自分が発見した」と思えると、これは自分のためのマンガ、自分のもの、という特別な思い入れが産まれる。
雑誌の中で、多くのマンガの一つとして、萩尾望都作品を読めたのは幸運だった。
2、空前絶後
しかし、「作品が再録されてお金が入ってきた」と、萩尾望都はさらっと書いているけど、全25作、デビュー作からのほとんどの作品が再録されたって信じられない、全然アリエナイ、トンデモナイ話と自分は感じる。
昔も今もそんな話聞いたこと無い。
なんでそんな事がありえたかというと、そこも山本順也氏の力だった。
なるほど、そういうことだった。
自分がその「はまった」までは行かないが、萩尾望都を意識した最初だから山本順也氏の狙い通りになったのだな。
このページを見ると、自分より上の世代のマンガマニアの人達にとって、萩尾望都という名前が、もう特別なものになっていた。
その時代のマニアの人達の即売会、マンガ大会で『ケーキケーキケーキ』にバカ高い値段がついたことなどが書かれている。
そういう当時のマンガマニアの人達にとっても、『萩尾望都初期作品集』という企画はトンデモナイことだったらしい。
自分もこれを見て、萩尾望都というマンガ家は”特別な存在”として扱われるていると当時思った。
竹宮恵子は、山本順也氏の「萩尾には自由に描かせる。ページ数が少なかろうが、多かろうが、とにかく毎月、萩尾だけは載せる」という言葉を聞いて、萩尾望都が贔屓されていると感じている。
萩尾望都作品を「宝の山だ」という言葉、さらに『萩尾望都初期作品集』という空前絶後の企画を見れば、山本順也氏が萩尾望都を特別扱いしていたのは間違いない。
Yさんは私ではなく、萩尾望都に会いに大泉サロンに来る。
もともと、山本順也氏のお気に入りは自分だった。講談社でボツになっている萩尾望都に、好意で彼を紹介した。
それが気が付いたら、山本順也氏は萩尾望都に入れ込んで、私のほうは見てくれない。
彼氏を自慢するつもりで、ウッカリ友達に紹介したら寝取られた、みたいな感覚だろうか。
竹宮恵子は、頭がオカシクなるくらいに嫉妬する。
それが、その後の二人のトラブルの始まりだった。
3、萩尾望都の影? 2
萩尾望都作品は、当然多くの人がリスペクトした。
そしてその絵、その線を一所懸命真似しようとした。
初期の作品で、週刊少女コミックに再録された作品の中のひとつに『ジェニファの恋のお相手は』(1973年10月再録)というマンガがある。
”天国の手違いで、1年早く亡くなることになった60歳のオールドミス、アリス・バンクル。やって来た天国の使者から、お詫びに死ぬまで願いを叶えましょうと言われ、17歳の姪ジェニファと入れ替わる。
もうじき人生終わる、若い時にやりたかった、恋に遊び、人目を気にせずやりたい放題で周囲は大騒ぎ。”
昔は、外国のコメディ映画やTVドラマがやたら放送されてて、それの影響受けた(少女)マンガがいっぱいあった。
その中でも「天国の手違いで…」とか「お婆さんと少女が入れ替わって大騒ぎ」という、アメリカ映画で有ったような、かなり奇想天外なお話。
こういうの当時は「ドタバタコメディ」と区分けされてた。
今考えると、これ映画のジャンルで言う「スクリューボールコメディ」という奴なのではないか。「変人コメディ」という言い方もあるらしい。
死ぬ間際で時間が限られてる、ジェニファ(アリス)はいまのうちに人生楽しまないと、常識なんてすっとばしてやりたいようにやる「変わり者」になる。中盤のここら辺特にそんな感じ。見開き2ページで、ジェニファが起こす大騒ぎが手際よく描かれてる。
いろいろドタバタがあって、最後アリスお婆ちゃんが天国に行く。
使者に「満足ですか?」と聞かれて、「ああ…そうねえ…」と、不完全燃焼っぽいラストが可笑しい。
初期のころの萩尾望都作品の、乾いたコメディの感じが良く出てる。
そういうマンガの感想は、実はどうでも良くって。
萩尾望都初期作品の中で与えた影響を考えると、この作品で一番印象に残ってるのは。
篠有希子のデビュー作『アーちゃんの思い人』(1978年LaLa7月号)。
これのタイトルと扉絵が『ジェニファの恋のお相手は』を下敷きにしているのに、ある時気がついたこと。絶対マネしてる。
終わり
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