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帰省のたび、僕は地面の感触を思い出す。

大学のある街にいる自分と、地元にいる自分では、まるで別人格じゃないかととみに思う。

社会を見据え、己が社会に対して果たすべき責任を自覚し、たゆまぬ努力と成長こそ善とされる価値観。

自然や芸術を愛し、心安らぐ人のそばで己の感性を繊細に守りながら静かに生きる姿勢。

地理的な場所を移動するたび、この2つの間も行き来する。

守りたいものを守るために必要な物は2つ。力と意思だ。

力を身につける過程で、守りたいと思っているものに価値を見いだせなくなったら、僕が僕でいる意味がなくなる。高く飛ぶことばかり追い求めて、足元の感触を忘れてしまったら、どこに降りれば良いのかわからなくなる。だから僕は(降り立つことに若干の不安を感じながら)帰省する。

何を守りたいのか噛みしめる過程で、力や責任を放棄してしまったら、僕は自分を憎んでしまう。「そんなに大事だというなら、それが危機に陥っているときにお前は何をしていたんだ」という非難を自分自身に向けてしまう。だから僕は(多少辛いと思いながら)今住んでいる街に戻っていく。

18歳以前と以後の世界には断絶があって、僕は2つを大体自由に行き来できるけど、誰かと一緒に移動したわけではないから、どちらの僕の生成過程をも直接見てきた人というのはこの世に存在しなくなってしまった。

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