武蔵一宮氷川神社と最高の喫茶店

最近の休日は常に神社参拝している。
「いいことが起きそうな気」がしてテンションが上がるからだ。
39歳独身彼女なし借金ありとしては
少しでも日々のテンションを上げることに必死だ。
誰も助けてくれないからね。
そして「いいことが起きそうな気」がした結果、
「いいことが起こらない」場合にへこまない準備もできている。
誰も慰めてくれないからね。
自己完結できることはいいことだと思っている。

さて。
先日は「武蔵一宮氷川神社」へ行ってきた。
「一宮」というのは「その地域のナンバーワン」という意味らしく
「武蔵の国のナンバーワンである氷川神社」ということになるらしい。
氷川神社と名の付く神社は多数あるが、ここが本社なんだとか。

大宮駅から歩いて15分ほど。
まず鳥居に至るまでの並木道が大迫力でちょっと感動した。
本編入る前にワクワクさせてもらえるの、いいよね。
まるで、素晴らしい前戯が素晴らしいセックスを予兆させるのと
全く同じだもんね。

平日なのに参拝客はわりと多く人気の高さが窺えた。
人気の神社に行く度、たくさんの参拝客を見るにつけ
「こんなにたくさんの人が願いを持って集まってるんだな~」と
しみじみ感じる。
(お前もな)
そしてみんな拍手がめちゃくちゃでかいのだ。
(お前が小さいだけだろ)

拍手は神様を呼び出すためにするらしいので、
理屈で考えればでかければでかいほど良いのだろう。
ただ、できない。
でかい拍手が。
これはもう生き方の問題なのだ。
部屋などをノックするときもそうだ。
でかい音を出すときに躊躇してしまう。
「うるせぇよ」と思われるのが怖いのだと思う。

神社ででかい拍手をするのが怖いのは
神様に「うるせぇよ」って思われるのが怖いのだろうか。
それはそれで神様が怒りっぽいと想定してるわけだから
失礼な気もする。
ぼくとしてはこう願うしかない。
願わくば、神様の聴力がとことん並外れていて
ぼくのささやかな拍手も聞き逃さないでいてくれますように。

神社の後は喫茶店へ行くのがルーティーン化している。
この日もいわゆる純喫茶的なシブいお店にお邪魔した。

雑居ビルの二階にある店だから入るのに緊張した。
赤絨毯に白壁、ルノアールのように席と席が離れた設計に
「良いじゃな~い」と思った。

特筆すべきは店主である妖艶なマダムだった。
ギリシャ彫刻のように真っ白な肌で髪をひっつめにし
(いらっしゃいませ…)
と言った。
括弧で書いたのはとてつもなく声がか細かったからだ。
ていうかほとんど音になってなかったと思う。
客が入って来たとき当然言うべきセリフを
ぼくが脳内で補完している可能性が全然ある。
中森明菜の平場のトークを上回る声の細さだった。

コーヒーを待ってる間、店内を物色すると
マリリンモンローの大パネルがあったり
文学作品が本棚に並ぶ中で
ギリシャ彫刻風のオブジェも飾ってあった。

いまぼくは禁煙しているが
喫煙中はコーヒーにタバコは切り離せない組み合わせだった。
コーヒーを飲むと当然タバコも吸いたくなる。
そこでニコチンガムの出番だ。
コーヒーをいただいて、ニコチンガムを噛む。
タバコよりニコチンが効率的に摂取できるのか、
「タバコよりいいな」と思っている。
結局、依存がタバコからニコチンガムに切り替わっただけという
悲しい結末を迎える気がしてならない。

とにかく、コーヒー&ニコチンガムは至高の時間なのだ。
調子に乗れば最近ハマってる瞑想なんかもしてみる。
これがまた気持ちいいのだ。
だいぶいろいろと整ってちょいと意識朦朧としてきたところで
突然、妖艶白マダムがぼくの席へ現れた。
コーヒーサーバーをもった白マダムは
(おかわりいかかがですか…)
と言った。

えぇ!
いいんですか?
っていうか料金は取るのですか!?

など脳内が大騒ぎになりながらも
「すみません…」とコーヒーソーサーを持ち上げる。
この感じはサービスだよな。
すみませんって言ったしな、ぼく。
すみませんって言って2杯目の料金払うのおかしいからな。
とか、ちょっと煩悶があったが、
いまどきコーヒーお代わりを注ぎに来てくれる
白のサービスにすこぶる感動してしまったのだ。

その変性意識状態でもう一回ギリシャ彫刻を見てみた。
39年間一度も興味を持ったことがないギリシャ彫刻について、
「ひょっとしてこういう彫刻って『すごく良い』んじゃないか?」と
思ったこともないことを思った。

これがこの作文の主旨だ。
今まで思ったこともないことを思ってみるのはとてもおもしろい。
しかも39歳になって。
そんなことを思わせてくれたシブい喫茶店に
(ありがとうございました…)
と言いたい。
拍手と同じででかい音を出すのは苦手なのだ。

コーヒーの値段は500円。
お会計時、500円玉は持っていたがお代わりの件があるので
1000円札を出して様子をうかがう。
ちょっと間があったが500円帰ってきた。
こんなに怖い間は久しぶりだったな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?