肛門科病院に行く

ここ20年ほど痔に悩まされている。
3年前に手術をした。
病院は「○○肛門科病院」という
「ラーメンショップ」のように
どのようなサービスを提供しているかがひと目でわかる、
すばらしい名称の施設だった。

僕の症状は、肛門からいぼが飛び出すという
いわゆる「脱肛」というものだった。
脱肛って、なんか、肛門が脱げるみたいでめっちゃこわいネーミングだよね。
3年前、いぼを切除する手術を行った。
術後の経過は良好だったが、
最近辛い物をひんぱんに食べたせいか
またいぼが出てくるようになったのだ。
そして今日、再び○○肛門科病院を訪れたワケだ。
(「○○」は病院を匿名にするためであって、おしりを表してるワケじゃない。それだと「○」と「○」の間が、さも、肛門を指してるみたいになっちゃうからね)

診察室に入るや否や看護師さんから
「ベットに横になって。ズボン脱いでおしりをこっちに向けて」と
言われる。
毎度のことながら
「そんな簡単に言うなよ」
と思う。
そういえば昔、バンジージャンプに挑戦した時、
頂上に到着すると速攻係員の人が
「ワンツースリー、バンジーで飛びますからね。ワンツー…」って
ノーモーションでジャンプへ誘導されたときも思った。
「当たり前みたいに言うなよ」
生まれて初めてデリヘルを呼ばせてもらった時、
部屋に入ってくるや否や嬢が「じゃあシャワーいこっか」と
言ったときも思った。
「当たり前みたいに言うなよ」

バンジーは飛んだしシャワーは浴びたしおしりも出した。
おしりをひらかれながら「どんな調子?」なんて言われて
「最近ちょっといぼが出てきてしまって」と答えると
「ちょっといぼ出してみよう」ということで
トイレに連れて行かれた。

話は脱肛ならぬ脱線するが、
今まで出会った看護師の方はほぼすべて、
「タメ口」で話しかけてくるのだが、何か意図があるのだろうか。
ラーメン屋などでタメ口で接客されることは何の抵抗もないが、
客とのコミュニケーションが色濃い職業において、
タメ口であることはアリなのだろうか。
これは「ホスピタリティ」のケツ如ではないのか?
「ホスピタル」なのに!!!

トイレに連れて行かれて以下のような指示を受ける。

・思いっきりいきむこと
・その際、大便が出てもよいこと
・ただし、大便が出た場合はおしりを拭かないこと
・なぜなら、我々はどのくらいいぼが出ているのか見たいのだから

「当たり前みたいに言うなよ」

絶対に大便は出ないよう気をつけながら適度にいきむと
いぼが出た手ごたえがあり、ズボンを履いて看護師を呼ぶ。
扉を開けた看護師は
「ズボン履かないで!脱いで!」
と強めに言う。
ズボンを「脱いで」怒られることは容易に想像がつくが、
ここではズボンを「履くと」怒られるのだ。
おしりをひらいて看護師さんは言った。
「出てないじゃない!」
自分としては出ている感触はあったのだが、
看護師さんに言わせるとその見込みは甘く、
正確に言うと出……ちょっと待ったちょっと待った!怒るなよ!!
出てないことを怒るなって!!!

僕は僕で粗相をした飼い犬のようにシュンとしながら
「出てると思うんですけどね~」と小声で言うと
「いや出てないね」と食い気味で入れられた。
ちょっと待ってほしい。
仮に、百歩譲って、出てないとして、だ。
出てないことは、喜ばれるべきことであって、
喝を入れられることではないのではないか?
「いぼが出せてない自分」により自己肯定感が下がる、
という理不尽な展開に衝撃を受けながら、
続いて医師の診断を受ける。

「出てないね」
いや出てないんかい。
じゃあじゃあ、今の、自分の肛門が間違いなく感じているところの、
この違和感はなんなのよ?
じゃああなたは、この違和感の存在まで否定するの?
あたしの出てる感じを認めてよ!!!

いろいろなことがあって感情的になっていた私は
「そんなに出てないですかねぇ?」と
なぜかちょっと怒った声で聞いた。
「全くってワケじゃないですけどね」
出てるじゃねぇかよ!
ちょっと出てるじゃねぇかよ!!
出てることはよくないことだけどな!!!

結果、肛門のまわりの余分な肉?が
スライムがキングスライムになるように寄り合わさってしまい、
違和感に繋がっているらしい。
(手術の影響なのかも)
幸いなことに痛みも出血も皆無なので、
気にならないようであれば、放っといていいそうだ。

最後に言いたいこと。
○○肛門科病院の待合室が割りと好きだ。
みな等しく、肛門に問題を抱える人たちが、
肛門に優しいクッションに座りながら、
テレビを見ている時間が好きだ。
一度、情報番組か何かで司会者の方が「今日は痔の特集です」と宣言し、
オーディエンスが羞恥感情で一体になったとき
本当の意味で「仲間」になれた気がしたのだ。
ドレスコードは「恥」だけのこのコミュニティにはずっと属していたい。

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