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エッセイ

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#海外旅行

旅日記: 移りゆく微細な色彩と、ベネチア派絵画

たえず移りゆく光と影のゆらめきの中で、ベネチア派絵画は生れた。そんな風に記していたのは塩野七生だった。 2泊3日の滞在中、宝石箱のようなベネチアの街中を忙しく歩き回った。 船上から眺める大運河沿いの街並み あちこちに架かる大小の橋 無数に入り組んだ路地 どの通りや広場に行きあたっても、息を飲む美しさであるが、同時にわずか5平米ほどの小さな島の中には、多くの文化財がひしめいている。 朝早くからバポレット(水上バス)に乗り込み、ジャム入りクロワッサンをほおばりながら、ゆっ

ナタリーとの再会

マルセイユに着いたので、エクスにいるナタリーに連絡をいれた。 南仏のエクス・アン・プロヴァンス(通称エクス)に留学していた頃の、かつてのクラスメートはもう散り散りになってしまって、エクスで会えるのは、語学学校の担任だったナタリーだけになってしまった。 大柄でマットな肌、黒髪のショートカットのナタリーが、ゴルチェのGパンを履いて大股で教室に入ってくる姿が今でも目に浮かんでくる。彼女の講義での言葉はいつも、フランス語の教職や文学への愛が溢れてキラキラしていた。そんなナタリーと卒

サン・マロ日記 ② : バカンス列車の悲劇

旅の移動には日本の新幹線にあたる、高速鉄道のTGVを利用した。 電車に乗るのはいつだって旅の楽しみだ。フランスでTGVや地方の在来線を運行する国鉄のSNCFは、大規模ストやダイヤの乱れなど、一糸乱れぬような日本の鉄道事情とは異なり評判が悪い。私は幸運なことに大きな災難に見舞われたことがないためか、SNCFでの旅を気に入っている。 まず、列車のレイアウトが楽しい。TGVは二列・三列がけの席が延々と伸びる新幹線と違い、二列ずつに並んだ席の他、コンパートメント席、二階建て車両やバ

サン・マロ日記 ① : 楽しい季節

2019年の6月、私はフランスにいた。 10日ほどの短い日程で、パリから大西洋岸のナントへ、そこから北上してブルターニュ地方のサン・マロに立ち寄ってパリに戻る、という行程だった。 日本で6月といえば梅雨に加え、連休がないことも相まってあまり海外旅行へいくイメージがないかもしれないが、私的にはタイミングさえ合えばヨーロッパへいくベストシーズンではないかと思う。 ゴールデンウィークと夏休みの合間で飛行機の値段も下がっているし、現地の気候も快適。しかしまだ本格的なバカンスシーズン