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なぜスラダンを読んだおれはバスケ部を2週間で辞めたおれを殺さなかったのか

何事にも始めるきっかけというものがあります。

これは口バトルを仕掛けようと断定をしているわけではなく、無から有は生まれないよねという認識合わせになります。

というのも無意識のうちに何かを始めたと思っていても、意識することがなかっただけの小さなきっかけがあったはずなんです。

きっかけを意識しない、無視してしまう理由の一つはきっかけが劇的ではないからだと思っています。

それでも。

意識すらしなかった小さなできごとこそが、もしかすると今の自分を形成するかけがえのないものかもしれないんです。

だから私がスラムダンクを読んだことがきっかけでバスケ部に入り、二週間で泣きながら退部したことは決して恥ではありません。
それを揶揄することは私に対する人格攻撃であり、進歩を阻害しようとする反社会的活動です。

わかりますか?あなたはパブリックエネミーなんですよ。いつもどんな顔して飯喰ってるんですか?本当に気持ち悪いです。

そもそも漫画以上に導線の強いきっかけを私は知りません。仮に死神代行という職業が現実にあれば、5回はその道を志していたことでしょう。
スラムダンクはもとより、Major、キャプテン翼、キャプテン、おおきく振りかぶって、はねバド!、少女ファイトなど誰かに影響を与えたであろう漫画作品は枚挙にいとまがありません。
坂本勇人だってキングダムから影響を受けていました。

ことスラムダンクでいえば、野球やサッカーの逸材達が悉くバスケットボールへの道に進み、スポーツ界か弱体化したなんていう都市伝説があったほどです。

幸運なことに私がバスケ部に入部したことでスポーツ界に影響を及ぼすことはありませんでした。

しかしながら私の中学生時代に影を落としたことは拭いようのない事実です。

我が右手薬指は欠けた月のようにして弧を描いております。実際にはそれほどではありませんが、たしかに指を揃えると中指の爪先へと薬指が寄り添っているように思えます。

これは突き指のしすぎが理由です。
ではなぜ突き指をしたのか?

パスが取れないんです。まったく。
ボールに対して指を突き出しちゃうんです。
手のひらにボールが吸い付く念が足りないとかじゃなく、手のひらがボールを拒絶するんです。

あと走ることがすごく嫌でした。

思えば多く、語れば少なくなってしまうのが思い出というものですが、振り返ると「もうちょっと続けられただろ」と思い直しはします。

スラムダンクを読んだ感動さえ忘れてしまった少年時代には寂しさを覚えました。

きっかけを忘れる理由がまだあるならば、それは結末に満足できなかったからでしょう。

このような自語りを始めさせたきっかけも、なんとスラムダンクでした。

いえ、『THE FIRST SLAM DUNK』です。

その日は美味しい油そばを食べに行こうとしていたのですが、悪鬼蔓延る無法無道の不夜城、新宿にB級グルメを食うためだけに出かけるのはコスパが悪いと感じて映画鑑賞も追加した次第でした。

当初はくっだらねぇ話題で悪目立ちしていた今作に不安を抱いていましたが、杞憂でした。(オタクじゃないんでわかんないですけど、皆さんTVアニメ版からやってたんじゃないかと感じるくらいでした)

ただ私が想定していたTHE FIRSTではありませんでした。
一からスラムダンクのストーリーをなぞっているわけではなかったからです。
そもそも花道くんが坊主の時点で察するのですが、今作は山王工業高校戦をメインにしたストーリーです。

なんでTHE FIRST?と見終わるまで感じていました。
山王戦はTVアニメではやってなかったからか?とも思いましたが、それならTHE FIRST 山王工業高校でいいじゃんって話。
でもこれはパンフレットを買えばすぐに解決する疑問です。
原作者の井上雄彦氏は今作を「今まで見たことがなかった」スラムダンクと位置付けているのです。そういう意味でのTHE FIRST だったんですね。

だから一見さんお断りなのかとも感じますが、知っておくべき情報は多くないです。

山王工業高校:めちゃくちゃ強い。
安西先生:名将。
桜木花道:バスケ歴4ヶ月、元不良。
宮城リョータ:すばしこい。今作主人公。
赤城剛憲:熱血キャプテン。
流川楓:花道のライバルでバスケの天才。
三井寿:元不良。3Pシュートが上手い。
木暮公延:副キャプテン。地味だけれど赤城と共に湘北バスケ部を支え続けた。
彩子ちゃん:マネージャー。リョータの想い人

こんなもん。

そして、今まで見たことのない、初めて見るスラムダンクということでそらもう見たことないもんばっかり。敗北を知りたい沢北とか。

映像面では山王戦ということもあって、あの山王戦のラスト数十秒が見れました。
これのすごいところって実際に時間が流れているということなんです。
極論あのシーンを漫画で一週間かけて読めば自分の中では一週間の時間が経ちます。

時間が流れて、集中して自分の心音しか聞こえなくなる。
辛くなるまえにいつも休んでいた私では到底味わえなかったあの感覚が、湘北の選手たちと一緒に感じられた気がしてとっても嬉しかったんです。

やっぱり原作読んでから見に行ってください。

ストーリーは改変があったというわけではありませんが、無から生まれた存在があります。(そんなものはありません。今作の下敷きとなった特別読み切りがあります)
先述したように今作では主人公が花道くんではなく、リョータになっています。
リョータから見た、山王戦や湘北メンバー、そしてバスケットボールをメインに描いています。
それに伴い原作にはなかった宮城リョータの掘り下げがめっちゃあります。

まずは家族構成。
宮城兄
宮城父(宮城リョータがいる以上無から生まれた存在ではない)
宮城母(宮城リョータがいる以上無から生まれた存在ではない)
宮城妹

無から生まれた、というのはそれほどまでに私が宮城リョータのことを知らなかったという所作に過ぎません。
しかし確かに原作には彼への掘り下げは他メンバーよりは少なく、当時はキャラが薄いとまで感じていました。

だからりょーちんなんだろうかと最初のうちは考えていました。
でも前提とも言っていいくらいに宮城リョータが湘北を繋いでいたんですよね。

花道みたいなはねっかえりをチームに馴染ませて
三井にはバスケへの関心を取り戻させて
流川にはパスという選択肢のきっかけを与えて
赤城にはもしかしたら木暮くんよりも深い理解を示していました。
何より宮城リョータの励ましがあったからこそみんな山王戦を戦い抜けたんだと思っています。

今作の描写を見るまでもなく、宮城リョータは湘北の大黒柱でした。

彼がみんなにもたらしたものはスピードや感性だけじゃなかったということが今作で鮮明に気づきました。

だからこそ、掘り下げられた彼の人間性にひどく悲しさを覚えました。

劇中、彼はなぜ自分ではなかったのか、またはなぜ自分なのかという2つの思いに悩んでいるように感じました。

宮城リョータの家庭環境は少し複雑です。
父はなんらかの理由で他界しています。
兄は悲しみに暮れる母に対して駆け寄り、自分が一家の大黒柱になるという宣言をします。
ですがそんな兄も海難事故で急逝してしまいます。
リョータは兄へ最後にかけた言葉に悩み、母との関係にも踏み出すことができない溝が生まれます。

母親の苦しみもリョータの後悔も私が理解することはかないませんが、今後リョータは兄へ最後にかけた言葉を忘れることはできないだろうと思います。

誰かが悪ければむしろよかったのでしょう。
母には既に寄る辺なく、リョータは思春期を無くしました。
彼が父にも兄にもなれずに思い悩む姿には耐え難いものがあります。

リョータは兄の代わりに自分が死ねばよかったと思っていました。もしかすると、あの時一歩踏み出していれば兄と一緒に死ねていたのにとすら考えていたかもしれません。

リョータが今後どんな報われ方をしたとしても、家族の死に意義が生まれることはありません。

しかし、彼があの時踏みとどまったから、あの偉大な臆病があったからこそ、あの山王戦ラストとTHE FIRST SLAM DUNKへとつながりました。

井上雄彦氏はバスケットボールそのものに対しての感謝の気持ちを形にしたいとして、「スラムダンク奨学金」を設立されました。
高校では終われない、君へ。というキャッチコピーが印象的だったことをよく覚えています。
それでも当時の私は、運動ができるやつはお金も貰えて羨ましいぜくらいにしか考えていなかったことでしょう。

氏がこのような取り組みをされるきっかけとなった、バスケットボールから与えられたもの。
それらがなんだったのかをようやく今作で触れることができたように思います。

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