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図書館での出会い

これは私が大学生のときに、同級生の女の子Kさんから聞いた話なんですけど

Kさんは、いわゆる文学少女って感じの人で、よく図書館で本を借りてたんです。

★【図書館にいるKさん。司書A(女)、司書B(男)とやりとりをしている】

そこの図書館は本を借りると、本と一緒に「現在、借りてる本の一覧」が書かれた用紙も一緒に渡されるんです。こんなレシートみたいなやつなんですけどね。

で、みんなこのレシートみたいなやつを栞代わりに使っているんです。

だから、前の人が挟んだまま返却して、次に借りた人がそれを発見したりすることが良くあるんです。

その「レシート」を見ると前の人の借りてた本の一覧が分かるんですね。

Kさんは、あるときとても面白い小説に出会ったんです。

そして、その本にも栞代わりの「レシート」が挟まっていたんです。

そこでKさんはハッと閃いたんです。

「こんな面白い小説を選ぶ人なんだから、この人のセンスは間違いない」って。

Kさんはそのレシートに書かれてた小説を片っ端から読み始めました。すると全部面白かった。これは良い目利きの人に出会った、と喜んだそうです。

次の本、また次の本にも運よくレシートが挟まっていたので、その人の後を追うように、次々と芋づる式に小説を読んでいったんです。

Kさんが、そういう本の借り方を10冊20冊としていると、借りた本にレシートと一緒に宅配便の通知が一緒に挟まっていたんですね。

私も時々やるんですが、とっさに挟むものが欲しいときに何でも手頃なものを挟んじゃうんですよね。

で、当然宅配便の通知には、住所が書いてあったんです。

借りている本の傾向から、なんとなく同年代の男性であると分かっていたこともあって

Kさんは、ここまでに、なんというか、その顔もしらない借り手に淡い恋心のようなものを抱いてしまっていたんですね。

こんな小説の選び方を出来る人が、つまらない人間のわけがない、と。

それで、その住所のところに行ってみようか迷ったそうなんです。

しかも、その日はクリスマスで、これは恋人のいない私へのサンタからの贈り物か、とかなんとか思ったそうなんですけど

さすがにそれはストーカーだろう、ってことで思いとどまったそうなんです。

でもKさんは、ちゃっかりその宅配便の通知だけは抜き取りました。

Kさんがいつも通り、そのセンスの良い人の履歴から本を借りていると

その本にもやっぱりレシートが挟まっていて、何気なくそのレシートの裏を見たらヨレヨレの字でメモが書かれてあったんですね。

「なぜこなかった」って。

Kさんは驚いて思わず、誰か見てるんじゃないかって周りを振り返ったそうです。

それからしばらくは怖くて、Kさんは1カ月ほど図書館に行けなくなったんですけど

図書館から返却の催促が来るもんだから、仕方なく返却しに行ったんです。

すると図書館の人が首を傾げてこう言ったそうです「この本、どこで入手されましたか?」って。

「いや、普通にこの図書館で借りたんです」ってKさんは答えたんですけど、図書館の人は「これ、図書館の本じゃないですね」って言ったそうです。

家に帰ったKさんは、もう何がなんだかわからなくて

とりあえずスマホで、例の本に挟まってた宅配便の住所を検索したんです。

すると家から徒歩10分くらいの交差点の角にあるマンションでした。

図書館にまぎれていた謎の本、謎のメモ。

Kさんは怖かったんですけど、もうどうにも気になって、その交差点角のマンションに行ってみることにしたんです。

翌日、その交差点に行ってみると歩道のところに花が手向けてありました。

マンションから出てくる住人にKさんは聞いてみました。「ここで亡くなった方ってどんな方だったかご存じですか?」と。

するとその方はKさんを警戒した目で見ながら答えました「お知り合いですか?」

Kさんはメモの話をはじめここまでの経緯を説明すると、その方は答えてくれました。

「クリスマスの日の話なんですけど、若い男性が車道を虚ろな目で眺めていたので、危ないですよって声をかけたんです。すると男の人は『いいんですよ、これから飛び込むんですから。ただ、一緒に飛び込んでくれる人を待っているんです。もうすぐ来るはずです。本の趣味が合う素敵な子なんです』って」


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