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九日目

 思うに、「常習してきたことを止める」のは案外得意なのかもしれない。

 酒が好きで晩酌を欠かさない生活をしていた私が、完全に酒断ちするのはさぞ辛かろうと想像していた。

 ところが、現時点でほとんど苦労していない。時折「今ビール飲んだらおいしいだろうな~」とか「今日の夕飯、ワインに合うよな~」なんて思いがチラつくが、それが頭から離れない、というほどではない。「ま、いっか」で終わってしまうのだ。

 そういえば、禁煙した時もそうだった。二十歳過ぎ(ということにしておこう)から三十歳前まで吸っていたタバコを、当時の上司の「成功したら好きなものを買ってやる」との言葉を信じて止めたわけだが、あの時もほとんど苦労しなかった。

 最後の一本を吸って、「さ、これで終わり」と思ったら、本当にその通りにできたのである。ちなみに、件の上司は約束を反故にした。今からでもいいので買って欲しいものだ。利息をつけて。

 こういうわけなので、私の禁酒日記は止めたくても止められない人の役には立たないだろう。

 ただ一つだけ、「呑みたい」「吸いたい」に執着しないことがコツじゃないか、という気はしている。

 人間、欲望を抱いた時、欲望そのものより、「欲望を抱いた」状態に執着してしまうことがままある。よほど病的な依存症でないかぎり、おそらくその執着こそが止められない原因なんじゃないかとぼんやり思っている。

 まあ、ほんやり、ですけど。

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