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癸卯葉月 立秋 涼風至の間

八日
立秋だ。
だが言うべきことはない。
「暦の上ではもう秋」とか絶対言いたくない。
半ギレになりながらそう決心する暑さである。

風至らず 秋扇の意味も変わるらむ

九日
八月二度目の原爆忌。
台風の影響で平和祈念式典は縮小開催になるとか。
平和への祈りが、縮み、小さくならないよう、念ずるばかりだ。

十日
月に一度の身体メンテ日、鍼灸に行ったものの、予約時間を半時間間違えて早く着いたためどこかで時間を潰さなければならない羽目に。自分のマヌケっぷりが憎い。

仕方ないので涼を求めて炎天下を延々歩き、平坂上のななしカフェへ。

かき氷を食べるつもりだったが、マスターのおすすめに従い冷凍イチゴを削ったものをいただく。

練乳をかけて食べるのだが、かなり酸っぱい。でも、その酸味が炎熱にやられた体にはかえって滋味に感じられた。
二度目の正直できっちり予約時間に戻った鍼灸院では、触診した瞬間「あ、今日は胃腸を中心にケアしましょうね」と宣言されてしまう。自覚はあったのでそのままお願いする。治療中に胃腸が動き始めたのを実感した。鍼灸の効果は実におもしろいものである。

十一日
家事日だが、あまりの暑さに最小限の掃除と洗濯で済ませた。買い物も昨日のうちに済ませたので、今日は行かずともよい。
暑さで死なないよう、つつがなく生き延びる。
こんなことがメインテーマになる夏になろうとは。

十二日
仕事部屋に蟻が侵入。
放置するわけにもいかないので薬剤を撒いたり、私の足に登ってくるのを退治したり、心ならずも蟻殺しを繰り返す午前に。
午後、一段落したと思ったら、床にまた蟻の影が。
のさくさ横切る姿にうんざりしていると、なんと床の途中で姿がふっと消えてしまった。見失ったのではなく、突如かき消えたのだ。顔を床に近づけて探しても全く痕跡がない。
もしかして、私は蟻の幽霊を見たのか? 
怪談では時おり、生者と区別がつかないほどはっきりした幽霊というのが出てくるが、ああいうのがそれなのかもしれない。
もし本物であれば今日は私の幽霊初見記念日になるわけだが、初見がありんこだっていうのは、我ながらどうなんだろう。

ともかく、本日は心ならずも殺してしまった蟻たちの後生を弔いたい。
明日からお盆だ。

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