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公的年金が「破綻」しない仕組みとは?

『このまま少子高齢化が続くと年金収支のバランスが崩れ、公的年金は破綻するのではないか』『高齢者は逃げ切って、若者は大損をする』、本当にそうなのでしょうか?

いえ、日本の公的年金は受け取る側と支払う側の双方で「助け合う・痛みを分かち合う」制度となっています。具体的には、収支のバランスが「自動調整」される仕組みになっています。

ではどのように「自動調整」されるのでしょう。
その理解を深めるために、クイズを解いていただきながら確認していきましょう。

Q1:現役世代が月々支払う「年金保険料の水準は、今後少子高齢化が進めば負担が「大きくなる」のか、それとも「固定されている」のか。どちらでしょう?

A1:正解は「固定されている」です。
これは「保険料水準固定方式」といって、2004年の年金制度改正で導入されたものです。厚生年金は総報酬の18.3%(労使折半なので本人負担は半分の9.15%)、国民年金は月16,900円を上限として、固定されています ※1。

公的年金制度は「勤労世代から年金受給世代への仕送り」なので、現役世代の負担軽減のためにも仕送り額は「一定水準で抑えるべき」ということです。現役世代の方はまずこの事実をしっかり認識しておきましょう。

Q2:高齢者世代が受け取る「年金額」は固定されているのか、いないのか、どちらでしょう?

A2:正解は「固定されていない」です。
年金は実質的な価値を維持するために、賃金や物価など「短期的」な経済変動で毎年増減します。これは「賃金・物価スライド」と呼ばれています。
(「スライド」は「上下する」という意味で使われています)

但し今後少子高齢化が進むと、現役世代からの収入源は限られてくる一方、「今後しばらく人数が増えていく」高齢者への年金支払いは増加していきます。それなのに「賃金・物価スライド」で年金を増額していくと、将来収支バランスが崩れる懸念があります。

そこで将来の収支バランスを保つために、2004年の年金制度改正で導入されたのが「マクロ経済スライド」という仕組みです。
これは、年金制度の「長期的」な給付と負担のバランスを取るために、賃金(物価)の上昇率よりも年金額の上昇率を「低め(直近2019年度は▲0.2%)」に調整する制度です※2。

いきなり年金を「大幅に減額」されたら、老後の生活設計は根底から覆され、高齢者だけでなく将来の年金受給者も不安定な状況に陥ることになります。そのようなハードクラッシュではなく、ゆっくり時間をかけて調整していくことがこの制度の特徴と言えます。
「経済成長の果実のすべてを年金に反映するのではなく、将来世代の過重な負担の防止や給付水準の確保にその一部を充当する考え方」です※3。

なお、5年に1度行われる財政検証で、年金財政が長期にわたって安定すると見込まれた時点で「マクロ経済スライド」による調整は終了します。
将来的には人口減に伴い「高齢者も減っていく」ので、それまでの年金財政上厳しい時期を乗り越えるための期間限定の調整となっているのです。

慶応義塾大学商学部の権丈善一教授は、「マクロ経済スライド」を『「政治プロセスを経ることなく自動的に」給付を引き下げていくメカニズムが組み込まれている』制度だと解説されています。そして、この給付調整はこれから年金を受給する人だけでなく、すでに年金を受給している人々にも適用されるものなので、『これは大変なことで、他国がマネしようにもなかなかできないと思います』と述べられています。※4

つまり、他国では政治プロセスを経て「年金支給開始年齢」を上げることによって調整を行なうところを、日本では「マクロ経済スライド」の自動調整機能があるので、支給開始年齢の引き上げ議論はそもそも「不要」なのです。

まとめ:
・日本の年金制度は全世代で助け合う「マクロ経済スライド」を導入している。
・「マクロ経済スライド」は「自動的に」給付を引き下げていく制度設計で、他国がマネしようとしてもなかなか出来ない、日本独自の仕組みである。

※1:16,900円は2004年度の価格水準で、今後物価・賃金が上がれば上昇します。詳細は「将来の国民年金保険料額の決め方」(日本年金機構)をご参照ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150331-02.files/0000026736ugVtZl4JOg.pdf
   
※2:「マクロ経済スライド」は、デフレ期には下方修正をしていませんでした。例えば賃金(物価)の上昇がマイナスまたは小さい時は減額せず、「改定なし」で対応しています。これについては「マクロ経済スライド」の「フル適用」をすべきという議論が現在行われています。
尚、2018年4月から、減額しなかった未調整分は「キャリーオーバー」して、将来の景気回復期に「まとめてマイナスする」事が決定しています。
詳細は「平成16年 年金制度改正のポイント P15」(厚生労働省)をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/17.pdf

※3:2019/8/27 第9回社会保障審議会 年金部会資料 (p13)より
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000540583.pdf

※4:「ちょっと気になる社会保障 増補版」権丈善一著(勁草書房)から引用させていただきました。
公的年金をご理解いただくのにオススメの一冊です。


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